いつかあなたに食べられる日まで~元社畜女子はもふもふに癒やされる~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 いつかあなたに食べられる日まで *

5.愛しているから、食いたい

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すぐに、バルドゥルさんの待つ宿へ連れて帰ってくれた。
私が姿を見せた途端、歓声が上がる。

「チハルさん……!
ご無事で、よかった!」

「その。
……ご心配を、おかけしました」

私の手を取り、バルドゥルさんは涙ぐんでうん、うん、と頷いている。
自分の勝手な行動が招いた危機、となればうしろめたい。

「チハルさんを見失ったと聞いたときには、血の気が引きました。
すぐに探したんですが、闇市にはなかなか手が出せないので、遅くなってすみません」

バルドゥルさんに詫びられ、ますます居心地が悪くなった。
悪いのは私なのに。

「お腹は空いてないですか?
ああ、その前に風呂に入ってさっぱりした方が。
服はすぐに、用意しましょう」

バルドゥルさんに伴われ、宿の部屋へと移動する。
レオンは黙って、その後ろをついてきた。

「しばらくは二匹だけにしておきますよ」

部屋まで私を案内したバルドゥルさんは器用に片目をつぶり、出ていった。

「……俺は」

「会いたかった……!」

レオンの言葉を封じるように彼に抱きつく。

「チハル……」

躊躇いがちに背中に回った手がそっと、私を抱き締める。

「レオン、レオン、レオン、レオン……!」

言いたいことはたくさんあるのに、口からは彼の名前しか出てこない。
止めどなく、涙がぽろぽろとこぼれ落ち続けた。

「……怖かった、よな」

ゆっくりとレオンの手が、私の髪を撫でる。

「怖かった。
……怖かった、レオン以外の誰かに食べられるのが」

「……チハル?」

怪訝そうなレオンの声が降ってきて、顔を上げた。
困惑しているその瞳を、じっと見つめる。

「食べられるならレオンに食べられたい」

「……俺は、チハルを食わない。
……そう、誓ったからな」

そっとレオンが、私の身体を離す。
その顔は苦悩で歪んでいた。

「私を食べたくないから、愛しているのに一緒にいられないなんて嫌です」

村の生活は楽しかったけど、心にぽっかりと空いた穴はいつまでたっても塞がらなかった。
それに目を背け、笑い続けるのは……つらいのだ。

「それともレオンは、私が嫌いですか」

嘘でもいい。
もし、彼がそういうのなら、私はきっぱりと彼を諦めよう。
でもレオンは、私に肖像画を送ってきた。
わざわざ、左手薬指には花の指環を描かせて。

「……」

レオンは私を見つめたまま、なにも言わない。

「レオンの気持ちを聞かせて。
どんな返事でも、私は受け入れるから」

口を開きかけたが、思い直したのかレオンが閉じる。
迷いと不安でその瞳は揺れていた。

「……俺は」

小さく息をついて決心を固め、レオンはやっと言葉を紡いだ。

「チハルを愛している。
きっとチハルを諦めさせるためには、嘘でも嫌いだと言えばいいんだろうが、そんなことはできない」

……だよね。
わかっているよ、そんなこと。
そんな獣だから私は、レオンを好きになったんだもの。

「チハルを愛している。
愛している、愛している。
……食って、しまいたいほどに」

それは――とても甘い囁きに聞こえた。
本気で食べたいと言われているのだ、普通なら怖いに決まっている。
でも私には、それが――至高の愛に思えてならない。
だって、それほど深く、彼は私を愛してくれているということだから。

レオンの目から涙が落ちていく。
キラキラと光るそれは、まるで水晶のように無垢で、とても綺麗だった。

「……レオン」

泣き続ける彼の顔に、触れる。
そのまま、抱き締めた。

「食べていいんですよ、私を」

「俺はチハルを食いたくない」

レオンの苦悩はわかる。
人間中毒、なるものも聞いた。
それでも。

「私はレオンになら食べられたいんです。
レオンに食べられて、レオンの血となり、肉となり、骨となって一緒に生きていく。
それはとても、嬉しいことだから」

彼の顔を両手で挟み、にっこりと笑いかける。
愛するレオンに食べられ、彼と共に生きていく。
これ以上の幸せなんて、この世に存在するんだろうか。

「レオン、私を食べて。
でも、ひとつだけ約束してください。
……私以外の、何者も食べないで。
食べるのは私だけだって」

「……約束する。
俺はチハル以外の、肉を食わない」

ようやく笑った彼の、口が私の唇へ触れる。
れろ、と舐められてすぐに口を開けて舌を出した。
レオンと舌を触れあわせるだけで幸せが満ちていく。
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