求婚されても困ります!~One Night Mistake~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第1章 すべては勘違いから

2.イケメンと偶然

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翌日、月曜の会社は、今日から赴任してくる課長の話で持ちきりだった。
私の勤める『SUNHサンエイチ』は水回りを中心に、住居やビルの内装を請け負う会社だ。
全国展開しており、私が所属しているのは福岡支社、企業からの依頼を請け負う第一営業部だ。
ちなみに、第二営業部は一般住居を担当している。

で、その課長というのが、本社の営業部で好成績を上げており、支社とはいえ二十八歳で第一の課長、なんていうのはかなりのスピード出世なのだ。
しかも、こちらで二、三年過ごしたあとは、本社の課長に栄転、とかいう話だし。
あ、赴任が四月一日からではなく、第一月曜からなのは、転勤者には引っ越し期間として特別休暇が与えられるからです。

「本日からこちらでお世話になる、楠木です」

朝礼で皆の前に立つ男を見ながら、これはなんの運命かと思った。
なぜなら彼は――昨日、隣に越してきた男だったのだから。

エリート、イケメン。
さらに独身とくれば、女性陣が放っておくはずがない。
さっそく、牽制がはじまっているが……私は知らん、とばかりにさっさとコーヒーを出した。

「ミルク砂糖はご入り用ですか」

「いや、いいです。
ありがとうございます」

書類から顔を上げ、彼が私を見上げる。
ビジネスモードだからか、髪は昨日と違い、きっちり上げてあった。
眼鏡もメタルスクエアに変わっている。
おかげで昨日より、冷たい印象を与えた。
しかも、お礼を言うのにも笑わないとなると。

「飲み物は各自で淹れるようになっています。
コーヒーは、あそこ」

コーヒーマシーンが置いてある一角を指さす。

「使い方がわからないときは、呼んでください」

「わかりました。
ありがとうございます」

「あと、わからないことがあったら、訊いてください。
たぶん、訊きづらいと思うので」

すでに私に憎しみの視線がバシバシ飛んできている。
それを全部受けて立つ気なんてさらさらないが、私は彼女たちと違い楠木課長にこれっぽっちも興味がないから、うってつけではあると思う。

「ああ、そうですね」

ちらり、と彼の視線が憎々しげに私たちを見ている女子社員に向かう。
しかも小さく、舌打ちまでした。

「よろしくお願いします」

「はい」

「しかし、同じ会社だとは思いませんでしたね」

楠木課長が僅かに、苦笑いする。
私も同じく、苦笑で返した。

「お隣さんだというのはくれぐれもご内密に。
……わかり、ますよね?」

「……ああ」

また彼が視線を向けた先から、小さく悲鳴が上がる。

「じゃ、そういうことでお願いします」

「了解です」

これで用事は終わったので、さっさと席に戻って仕事を再開する。
こそこそ話すのはいいが、会社は仕事するところだってーの。
まあだから、私は女として終わっている、なんて言われるんだろうけど。

長い髪は美容室に行くのが面倒くさいからで、邪魔だからひとつ括り。
白ブラウス……というよりもワイシャツにパンツスタイル。
ほぼ、男性社員と一緒だ。
これなら、女を捨てているとか言われても仕方ない。

そんな私でも楠木課長を狙う彼女たちからすれば敵なのだというのが、ちょっとおかしくもある。
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