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第二章 野間さんが好きです
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「……その。
他にも人を、殺したことがあるんですか……?」
無言に耐えられず口を開いたが、出てきたのはそれだった。
あの手際は初めてとは思えない。
自分を殺したいとか言っていたし、もしかしたら連続殺人犯なのでは。
先程言っていた死体の隠蔽方法も殺人犯から聞いたのではなく、自分の経験則なのかもしれない。
だとしたら、自分はとんでもない人間と関わってしまったのでは。
猛烈な後悔が、愛未の中でぐるぐると渦を巻く。
「まさか。
さすがにこれが初めてですよ」
「え?」
意外すぎる答えで、思わず野間の顔を見ていた。
「でも、平気そう、なので……」
自分はまだ、怖くて身体がガタガタと震えている。
けれど野間は平然と運転しているように見えた。
「平気じゃないですよ。
まだ手が、震えている」
確認するようにハンドルから離した野間の手は、その言葉どおりカタカタと細かく震えている。
「でも、僕が平然としていないと、愛未さんが不安になりますから」
「……ありがとう、ございます」
野間がそこまで、自分を気遣ってくれているとは思わなかった。
この人は、本当にいい人だ。
私のために人を殺し、私の負担にならないように考えてくれている。
そんな野間に報いるには、……彼に殺されるしかない。
野間が愛未を連れていったのは、小綺麗なマンションの一室だった。
「散らかってますが、気にしないでください」
野間はそう言うが、部屋の中に必要最低限の家具以外、なにもなかった。
本当にここに住んでいるのだろうかと疑問が湧くほど、生活感がない。
「よかったら先にシャワーを浴びてください」
「あ、……はい」
言われるがままに浴室でシャワーを浴びる。
なんとなく飯田に纏わり付かれている気がして気持ち悪く、皮膚がひりつくまで身体を擦った。
浴室を出たところで、野間が隣の部屋から出てきた。
「少しはすっきりしましたか」
「……えっと。
はい」
ぎこちない笑顔を野間に向ける。
擦りすぎた皮膚が痛む。
シャワーと一緒に飯田を殺したという事実も流れればいいと思ったが、それは無理だった。
「ちょっと待っててくださいね」
言われるがままにリビングでソファーに座る。
野間はキッチンでなにかしだした。
「ホットミルクです。
落ち着きますよ」
少しして、微笑みかけながら彼は、愛未の前にカップを置いた。
「……ありがとう、ございます」
カップを手に取り、口をつける。
優しい甘さはシャワーを浴びても冷え切っていた身体を、温めていった。
「よろしかったら、これを」
テーブルの上を、野間がなにかを滑らせてくる。
それは錠剤だった。
意味がわからず、彼の顔を見上げる。
「睡眠薬です。
このままでは今晩、眠れないでしょう?」
それは野間の言うとおりだが、これを飲んでぐっすり眠っているところを、飯田と同じように殺されるんじゃないだろうか。
そもそも、野間は愛未を殺したくて声をかけてきたのだ。
「別になにもしません、安心してください。
今日はとにかく寝てください。
あとのことはまた明日、話しましょう」
愛未の考えを見透かしたのか、困ったように野間が笑う。
急に、彼を疑った自分を恥じた。
野間は自分のために飯田を殺してくれた。
ひとりで立てるようにしてあげたいと言ってくれた。
それに愛未のために罪を犯した彼の願いなら、叶えてもいい。
「……そう、ですね」
しかしそれらは口にせず、錠剤を手に取った。
すぐにキッチンで水を汲み、野間がテーブルに置いてくれる。
「僕もシャワーを浴びてきます。
さっきの部屋が寝室ですので、先に寝ていてください。
あ、僕はソファーで寝ますので、ご心配なさらずに」
慌ただしく話し、野間はリビングを出ていった。
ひとりになり、シートから錠剤を押し出す。
「……まあ、いいや」
今はなにも考えたくない。
薬を飲んで愛未は、野間に言われた部屋でベッドに潜った。
他にも人を、殺したことがあるんですか……?」
無言に耐えられず口を開いたが、出てきたのはそれだった。
あの手際は初めてとは思えない。
自分を殺したいとか言っていたし、もしかしたら連続殺人犯なのでは。
先程言っていた死体の隠蔽方法も殺人犯から聞いたのではなく、自分の経験則なのかもしれない。
だとしたら、自分はとんでもない人間と関わってしまったのでは。
猛烈な後悔が、愛未の中でぐるぐると渦を巻く。
「まさか。
さすがにこれが初めてですよ」
「え?」
意外すぎる答えで、思わず野間の顔を見ていた。
「でも、平気そう、なので……」
自分はまだ、怖くて身体がガタガタと震えている。
けれど野間は平然と運転しているように見えた。
「平気じゃないですよ。
まだ手が、震えている」
確認するようにハンドルから離した野間の手は、その言葉どおりカタカタと細かく震えている。
「でも、僕が平然としていないと、愛未さんが不安になりますから」
「……ありがとう、ございます」
野間がそこまで、自分を気遣ってくれているとは思わなかった。
この人は、本当にいい人だ。
私のために人を殺し、私の負担にならないように考えてくれている。
そんな野間に報いるには、……彼に殺されるしかない。
野間が愛未を連れていったのは、小綺麗なマンションの一室だった。
「散らかってますが、気にしないでください」
野間はそう言うが、部屋の中に必要最低限の家具以外、なにもなかった。
本当にここに住んでいるのだろうかと疑問が湧くほど、生活感がない。
「よかったら先にシャワーを浴びてください」
「あ、……はい」
言われるがままに浴室でシャワーを浴びる。
なんとなく飯田に纏わり付かれている気がして気持ち悪く、皮膚がひりつくまで身体を擦った。
浴室を出たところで、野間が隣の部屋から出てきた。
「少しはすっきりしましたか」
「……えっと。
はい」
ぎこちない笑顔を野間に向ける。
擦りすぎた皮膚が痛む。
シャワーと一緒に飯田を殺したという事実も流れればいいと思ったが、それは無理だった。
「ちょっと待っててくださいね」
言われるがままにリビングでソファーに座る。
野間はキッチンでなにかしだした。
「ホットミルクです。
落ち着きますよ」
少しして、微笑みかけながら彼は、愛未の前にカップを置いた。
「……ありがとう、ございます」
カップを手に取り、口をつける。
優しい甘さはシャワーを浴びても冷え切っていた身体を、温めていった。
「よろしかったら、これを」
テーブルの上を、野間がなにかを滑らせてくる。
それは錠剤だった。
意味がわからず、彼の顔を見上げる。
「睡眠薬です。
このままでは今晩、眠れないでしょう?」
それは野間の言うとおりだが、これを飲んでぐっすり眠っているところを、飯田と同じように殺されるんじゃないだろうか。
そもそも、野間は愛未を殺したくて声をかけてきたのだ。
「別になにもしません、安心してください。
今日はとにかく寝てください。
あとのことはまた明日、話しましょう」
愛未の考えを見透かしたのか、困ったように野間が笑う。
急に、彼を疑った自分を恥じた。
野間は自分のために飯田を殺してくれた。
ひとりで立てるようにしてあげたいと言ってくれた。
それに愛未のために罪を犯した彼の願いなら、叶えてもいい。
「……そう、ですね」
しかしそれらは口にせず、錠剤を手に取った。
すぐにキッチンで水を汲み、野間がテーブルに置いてくれる。
「僕もシャワーを浴びてきます。
さっきの部屋が寝室ですので、先に寝ていてください。
あ、僕はソファーで寝ますので、ご心配なさらずに」
慌ただしく話し、野間はリビングを出ていった。
ひとりになり、シートから錠剤を押し出す。
「……まあ、いいや」
今はなにも考えたくない。
薬を飲んで愛未は、野間に言われた部屋でベッドに潜った。
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