2 / 6
2.ひかる歯科
しおりを挟む
仕事が終わり、千草の無言のプレッシャーに、重い足を引きずって駅前の歯医者に向かう。
トンカツ屋の階段を上がって二階。
「こんにちはー」
受付嬢の歯は眩しいくらいに真っ白で、さすがひかる歯科。
……とかいってる場合じゃない。
「その。
今日、昼間、電話して。
えっと、初診、で」
「こちらにお名前と、保険証は今日、お持ちですか?」
「あ、はい」
ごそごそとバッグの中から財布を探しだし、保険証を出す。
挙動不審な私の行動にも動じない受付嬢、さすがプロだ。
「ありがとうございます。
では、こちらにご記入お願いできますか」
「あ、はい」
バインダーに挟まれた問診票とボールペンを受け取り、近くのソファーに座る。
予約制だからか、待ってる人はほとんどいない。
全部埋めて、受付嬢に渡す。
「ありがとうございます。
では、しばらくお待ちください」
「はい」
ソファーに座ってる段階で心臓がばくばくいってる。
診察室から響く、キュィーンって機械音だけでびくりと肩が跳ねる。
「都築さーん」
「ひゃぁっ」
うっ、奇声を発してしまった。
「……?
都築さん、診察室にどうぞ」
「……はい」
ドナドナが頭の中でヘビーローテーション。
ええ、市場に連れて行かれる子牛の気分です。
診療の椅子に座って、衛生士さんが器具をがちゃがちゃと準備する音も、置かれたコップにじゃーっと水が入る音も、ドナドナを盛り上げてくださいます。
「お待たせしました、都築さん」
「ひゃいっ」
右斜め後ろからかけられた声に飛び上がりそうになった。
その人は椅子を引き寄せて私の横に座ると、バインダーを確認してる。
「右の奥歯が痛む、と。
いつからですか?」
「い、一週間くらい前からです」
ばくばく、ばくばく。
早い心臓の音。
ぎゅっと握った手のひらは、じっとりと汗ばんでる。
「じゃあ、ちょっと診てみますね。
……倒しまーす」
椅子が徐々に倒れていくにつれて、歯科医の顔が見えてくる。
……あれ?
思ってたより、若い。
黒縁の眼鏡のせい、かな。
完全に椅子が倒れ、歯科医の、レンズの奥の瞳と目があった。
……くすり。
ん?
あれ?
いま、笑われなかったですか?
「口、開けてください」
「……」
こわごわ口を開けると、器具をつっこまれた。
「んー、結構腫れてますね。
痛かったでしょう、これ」
「……!
……!」
いや、わかってるんならツンツンしないでください!!
「レントゲン撮ってみないとはっきりとは云えないですが、抜かないとダメでしょうね」
「……!
……!」
わかった、わかりましたから、ツンツンしないで!!
「じゃあ、起こしまーす。
一度口、すすいでください」
口をすすぎながら、涙目で睨みつける。
でも、ぜんぜん効果がないっていうか、マスクのせいでなに考えてるかわかんないっていうか。
……いや、わずかに目が笑ってる気がするから、きっとマスクの下の口は、にやにや莫迦にしたように笑ってるに違いない。
「じゃあ、レントゲンを撮りますので」
衛生士さんに連れられてレントゲン室に入り、レントゲンを撮る。
戻ってきて少しすると、またあの歯科医師がきた。
「やっぱり抜かないとダメですね」
抜くんですか、やっぱり。
はぁ。
きっと痛いんだろうな……。
逃げていいですか?
「今日はとりあえず、痛くないように処置しておきますので、次回、抜きましょう」
あの、なんか嬉しそうなのはなんででしょうか?
また椅子を倒されて、口を開ける。
処置は案外痛くなくてほっとした。
トンカツ屋の階段を上がって二階。
「こんにちはー」
受付嬢の歯は眩しいくらいに真っ白で、さすがひかる歯科。
……とかいってる場合じゃない。
「その。
今日、昼間、電話して。
えっと、初診、で」
「こちらにお名前と、保険証は今日、お持ちですか?」
「あ、はい」
ごそごそとバッグの中から財布を探しだし、保険証を出す。
挙動不審な私の行動にも動じない受付嬢、さすがプロだ。
「ありがとうございます。
では、こちらにご記入お願いできますか」
「あ、はい」
バインダーに挟まれた問診票とボールペンを受け取り、近くのソファーに座る。
予約制だからか、待ってる人はほとんどいない。
全部埋めて、受付嬢に渡す。
「ありがとうございます。
では、しばらくお待ちください」
「はい」
ソファーに座ってる段階で心臓がばくばくいってる。
診察室から響く、キュィーンって機械音だけでびくりと肩が跳ねる。
「都築さーん」
「ひゃぁっ」
うっ、奇声を発してしまった。
「……?
都築さん、診察室にどうぞ」
「……はい」
ドナドナが頭の中でヘビーローテーション。
ええ、市場に連れて行かれる子牛の気分です。
診療の椅子に座って、衛生士さんが器具をがちゃがちゃと準備する音も、置かれたコップにじゃーっと水が入る音も、ドナドナを盛り上げてくださいます。
「お待たせしました、都築さん」
「ひゃいっ」
右斜め後ろからかけられた声に飛び上がりそうになった。
その人は椅子を引き寄せて私の横に座ると、バインダーを確認してる。
「右の奥歯が痛む、と。
いつからですか?」
「い、一週間くらい前からです」
ばくばく、ばくばく。
早い心臓の音。
ぎゅっと握った手のひらは、じっとりと汗ばんでる。
「じゃあ、ちょっと診てみますね。
……倒しまーす」
椅子が徐々に倒れていくにつれて、歯科医の顔が見えてくる。
……あれ?
思ってたより、若い。
黒縁の眼鏡のせい、かな。
完全に椅子が倒れ、歯科医の、レンズの奥の瞳と目があった。
……くすり。
ん?
あれ?
いま、笑われなかったですか?
「口、開けてください」
「……」
こわごわ口を開けると、器具をつっこまれた。
「んー、結構腫れてますね。
痛かったでしょう、これ」
「……!
……!」
いや、わかってるんならツンツンしないでください!!
「レントゲン撮ってみないとはっきりとは云えないですが、抜かないとダメでしょうね」
「……!
……!」
わかった、わかりましたから、ツンツンしないで!!
「じゃあ、起こしまーす。
一度口、すすいでください」
口をすすぎながら、涙目で睨みつける。
でも、ぜんぜん効果がないっていうか、マスクのせいでなに考えてるかわかんないっていうか。
……いや、わずかに目が笑ってる気がするから、きっとマスクの下の口は、にやにや莫迦にしたように笑ってるに違いない。
「じゃあ、レントゲンを撮りますので」
衛生士さんに連れられてレントゲン室に入り、レントゲンを撮る。
戻ってきて少しすると、またあの歯科医師がきた。
「やっぱり抜かないとダメですね」
抜くんですか、やっぱり。
はぁ。
きっと痛いんだろうな……。
逃げていいですか?
「今日はとりあえず、痛くないように処置しておきますので、次回、抜きましょう」
あの、なんか嬉しそうなのはなんででしょうか?
また椅子を倒されて、口を開ける。
処置は案外痛くなくてほっとした。
47
あなたにおすすめの小説
甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
○と□~丸い課長と四角い私~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。
会社員。
職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。
水と油。
まあ、そんな感じ。
けれどそんな私たちには秘密があるのです……。
******
6話完結。
毎日21時更新。
今日の授業は保健体育
にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり)
僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。
その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。
ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる