君は僕の大切なおもちゃ【R18】

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第2章 私の都合と彼の都合

2-1 恋人生活

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「筧くん。ちょっと」

翌日、悠生が会社まで送ってくれた。

出勤した途端に上司に捕まり、そのまま連行された部屋の中には社長をはじめ、お偉い方々。

「……昨日、なにがあった?」

……なにって?

昨日のことおよび朝までされたことを思い出して……一気に、顔に熱が上がっていく。

「なにがあったのか聞いているだが?」

私が黙ってしまい、上司の声が苛立つ。

「……なにもない、……です」

「あっただろう!
なにか!
下坂さんと!」

上司は真っ赤になって怒っているけど。
言えないし、あんなこと。

「上機嫌で下坂さんが、アポイントの電話かけてきたんだぞ!?
おかしいだろ!?」

……ああ。
それで皆さん、怯えてらっしゃるのですね。
というか、そんなに嬉しかったんだ、悠生。


「なにもないですよ?
下坂さんも人間ですから、機嫌のいい日だってありますよ」

「あの人に限って、そんなことはあり得ないんだー!!!」

上司が絶叫するのを、笑いを堪えてみていた。

……そんなに怖がられているんだ、悠生。
私の前ではあんななのに。

おかしくておかしくてたまらない。

結局、上機嫌でその日の午後やってきた悠生に、会社の上役の皆さん、胃薬をがぶ飲みしたとかいう噂。



時間のあう日は、悠生が会社まで迎えにきてくれた。

……そんな悠生の姿に、上司たちはいつまでも慣れないらしく、胃薬の消費量が凄いらしいが。

「ただ単に、近くにきたついでだ」

いつもそう言いながら、悠生は赤くなって怒っている。
けど訳すと「会いたかったから」だ。

怒っているのは照れているから。
極度のツンデレ体質な悠生の口から、素直な言葉が出ることはない。

「大事」「特別」は「好き」「愛してる」の意味。

いまだに「僕のおもちゃ」って言われるけど、「僕の恋人」だって理解しているから、いじけたりしない。

悠生のマンションに行くのはいいんだけど、なかなか寝かせてくれないのが難点。

次の日の仕事に響くので困るのだけど、……わざわざ会社まで送ってくれるし。

翌日が休日だと、出掛ける予定がパーになったり、晩ごはんが出前になったり、……最悪、ピザ一択すらもなくて、コンビニ弁当の場合もあったりするのはさすがにどうかと思う。
いや、食べるものに文句があるわけじゃなくてね?
そこまで、その、……悠生がヤりたがるのが。

けど。

「だいたい僕はこういうことにさほど熱心じゃないのに、沙也加の身体がやめさせてくれないのが悪い」

とか言いながらも、唇を塞いできたりするから。
結局、黙るしかない。

……まあ、嬉しくないかって言われれば、結構嬉しかったりするし。


「お茶、飲むだろ。
コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶。
そうだな、今日はミントティにしよう」

聞いてくる癖に、私に決定権があったことは一度もない。
聞く必要はないんじゃないかと思うが、習慣みたいだからしょうがない。

悠生はサンルームに行ってミントを摘んでいる。

さすがに高層階のベランダは危ないからか、リビングの一角がサンルームにリフォームしてあって、そこでハーブなんか育てている。

「あーん」

目の前に差し出されるフィナンシェを素直に口に入れる。
座らされるのは悠生の足のあいだ。
私をホールドする悠生の腕。
拒否権はないらしく、絶対にここ。
じゃないと機嫌が悪くなる。

「沙也加程度の味覚なら、こんなものだろ」

「……前のよりさくさくでこっちの方が好きデス」

嬉しそうに笑った悠生が、さらにフィナンシェを差し出してくる。

……出されるお菓子は大抵、悠生のお手製。
よくごはんも作ってくれたりする。

薄々気付いているかもしれないが、悠生はかなり、凝り性だ。
ハマると抜け出せなくなるらしい。
そして飽きるということも知らないらしく、妥協するってことが苦手。

……だから、沙也加の心配は無駄だな。

そう言って笑い飛ばされたのは、つい先日のこと。

「晩飯、なに食いたい?」

「このあいだのコロッケが美味しかったデス」

「んー、僕は沙也加を食いたい」

じーっと見つめられて、唇が重なる。
恥ずかしいくらいのリップ音をたてて続く口付け。

「ここでいいか?
ベッドがいいか?」

「……ベッド」

……おやつをいっぱい食べさせられるのは。

こうやって晩ごはんが遅くなることが多いから、というのもアリマス。



その日、悠生のマンションに行くと冷蔵庫が新しくなってた。

「買い換えた」

ああ、そう。

まるで靴でも買い換えたみたいな悠生の口振り。
その辺の感覚はいまだにわからない。
だいたい、悠生と一緒に買い物していると冷や汗が出る。

いわゆるファストファッション的なお店がお気に入り、というか経済的にそういうところにどうしてもなってしまう私に対し。
悠生はやっぱり、普通の……というか、私から見れば高級なお店が好き。
しかもそんなお店で、ぽんぽん簡単に買うし。
私のお財布心配して!とか思っていたら。

「なに?
僕の隣をみすぼらしい格好で歩くとか、許されるとでも思ってるのか?」

と、全部買ってくれました。

ちなみに外食するときは、

「君と割り勘できる程度のお店で、僕が満足できるとでも?」

と、払ってくれます。

どちらも、

「僕が沙也加を着飾らせたいだけだから」

「金の心配せずに、うまいものを食べさせたいだけだから」

であっていると思われます。

冷笑、じゃなくて赤くなって怒っているから。

この状態が当たり前って思うようになるのはよくないと思うけど、少しは慣れないと心臓が保たないデス……。


無言で開けられた冷蔵庫。
いつか私が好きだって言った、プリンが山ほど詰まっていた。
野菜庫には大好きな苺。

前の冷蔵庫より遙かに大きい冷凍室にはパッキン単位で、私が好きだけど滅多に食べない高級アイスクリームという理解できない状態。

あと冷凍パスタとかピザとか。

しかも私がときどきご褒美に買う、ちょっとだけ高い奴じゃなくて、最近スーパーなんかでちらほら見かけるようになった、冷食にしてはかなりお高い、某イタリアンのお店の奴。

ほかにもどこで買うんだろ?これ?って思う、そこそこ名の通ったお店のパッケージ。

「これで夜中のコンビニ弁当は回避できる」

はい?
もしかして、そのためだけに冷蔵庫を買い換えましたか?

「だから今日は……」

悠生の唇が私の唇にふれて離れる。

……いや、だからいいとかいう問題じゃないんじゃ?

私の唇を喰むようにふれ続ける柔らかい唇に、次第に理性は飛んでいく。

……結局。
早速、買い換えた冷蔵庫の、中身にお世話になる羽目になりました。
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