君は僕の大切なおもちゃ【R18】

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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最終章 唯一大事なおもちゃ

3-1 秘密のお買い物

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「よかったね、いいのが買えて」

「うん。翔のおかげだよ」

腕時計売り場で包装待ち。
利香は興味がないから、自分のアクセサリー見ているって、その辺をぶらぶらしている。

今日のお買い物の目的は、悠生の誕生日プレゼント兼婚約指環のお礼。

いつも私のことを大事にしてくれる、悠生にちゃんとお返ししたくて。
利香と翔に相談した。

婚約指環のお返しも兼ねているから、長く使えるもので身につけてもらえるもの。

というわけで、腕時計がいい、そう結論を出したまではよかった。

けど、悠生が使うくらいの奴、ってなるとお値段がハンパない。

少額ながらも毎月のお給料から貯蓄に回す癖はついていたし、悠生と付き合うようになって、さりげなく援助してくれていたからさらに増えている。

それで足りない、ってことはないのはわかっている。

けど、実家のことを考えると、使うのには躊躇して。

悩んで悩んで、食欲が落ちた。

「マリッジブルーで」

そう誤魔化してみたのだけれど。

「君にもそんな繊細なところがあったんだな」

皮肉たっぷりに言いながらも、悠生の顔には心配って書いてある。
けど、悠生には言えないし。

結局、実家に帰ったときに、ばあちゃんに打ち明けてみた。

ばあちゃんは私の数少ない、相談相手だ。
高校で利香に会うまではばあちゃんだけだった。

ばあちゃんは結婚の話をすると喜んでくれて、……そして。

「これ、使いなさい」

ばあちゃんから渡された通帳。
しかも私名義。

「ばあちゃんはね、沙也加に幸せになって欲しいんだ。
あんな母親にしてしまったの、ばあちゃんにも責任があるし。
こんなことしかできなくて、ごめんな」

「ばあちゃん……」

ばあちゃんにしがみついてわんわん泣いた。
なぜか少しだけ、気持ちがすっきりしていた。

最後にばあちゃんは、

「まあ、うちは結納返しとかできないから。
それで勘弁してもらって」

と笑っていたけれど。



いざ買うとなると、どれがいいのかわからない。
一緒に行って、って手もあるけど、できれば秘密にしたい。

それで翔に、一緒にきてもらうことにした。

同じ男だし、年だってわりと近い。
職種も営業で、身なりにかなり、気を使うタイプだし。

そして今日、利香と翔と三人で、お買い物に行くことになったというわけだ。



包装してもらった時計を受け取って、利香と合流。

「結婚祝い!」

利香から差し出された紙袋。

……えっと?

「一応、シルクのパジャマだから、悠生さんも文句言わないと思う」

「あ、ありがとう……」

……気、使わせちゃったな。
ふたりが結婚するときは、私もすてきなプレゼント、考えよう。

紙袋の中身を見ると、なぜか箱がふたつ入っていた。
意味がわからずに、つい利香の顔を見てしまう。

「小さい方の箱はね、悠生さんの誕生日に開けて。
ぜーったい、喜ぶと思うから!」

ぐふぐふとなぜか意味深そうに利香は笑っている。
なぜか翔も。

……ええ。
確かに誕生日、悠生は凄く喜んで、大変なことになりましたとも。


お茶して、少しぶらぶらして、ふたりと別れて。
地下鉄に乗って桜坂のマンションに帰る。

悠生は送り迎えするって言ったけど、断った。

以前のアイランドシティのマンションと違い、桜坂からだと地下鉄一本で天神。

すぐ、だし。
わざわざ車出す方が大変だし。

ちょっといじけていた悠生のために、チーズタルト。

地下街のチーズケーキ屋さんはいつも長蛇の列で、買うのはなかなか面倒。
悠生は食べたいくせに、並ぶのがあまり好きじゃないから。
だから、今日は頑張って買ってみた。
もっとも、三人でおしゃべりしながら並んでいたら、あっという間だったけど。


「ただいまー」

「遅い」

玄関まで出迎えてくれた悠生とキス。

あ、「遅い」は「お帰り」ね。

実際のところ、約束通りの時間に帰っても、本気で遅いと思っている節もあるけど。

「お茶、飲むだろ?
コーヒー、紅茶、ウーロン茶、緑茶、どれが……」

「あ、チーズタルトがあるよ!」

「……コーヒーにしよう」

悠生が全部言い終わらないうちに遮る。
ニヤリ、悠生は片頬をあげると、コーヒーを淹れ始めた。

「しかし、あの列に並ぶとは、沙也加はよっぽど暇人なんだな」

……いや、ゆるみきった顔でそんなことを言われてもね?

私が座っているのは悠生の足のあいだ。
しっかりと私をホールドする悠生の腕。
悠生の手で私の口に入れられるチーズケーキ。

……初めて部屋に連れ込まれたあの日から、なにも変わっていない。

と、いうか慣れたよ、いい加減。

「……で。
あの男は誰だ?」

「……はい?」

唐突に悠生の口から出た言葉。

いったい、なんでしょう?

「今日、男とふたりだっただろ?
誰だ、あの男?」

さっきまでの甘い雰囲気は一転。
私を見下ろす、悠生の冷たい視線。
顎を掴んでいる手はぎりぎりと締め付け、痛い。

「友達で、利香の彼氏、だけど。
……というか、つけてたの?」

「そんな暇なことはしない。
修理に出してたカフスボタン、取りに行ってただけだ。
……友達?
あんな顔で笑っていて?」

レンズが光って顔がよく見ない。
口元は嘲笑するかのように歪んでいる。

「友達、だから。
高校から一緒で、相談とかも乗ってもらってて、その、お兄ちゃん、みたいな。
だから」

「誰だろうと、男とふたり、だったんだろう?」

「利香も一緒だった、よ」

じっと私を見つめる、レンズの向こうの冷たい瞳。
私も逸らさないでじっと見返す。
ふっと一瞬、悠生が笑ったかと思ったら。

「嘘つきは悪い子だ、そう教えたはずなのに、まだわかってないようだな」

「ついてない、嘘」

私の手首を痛いくらいに掴んで悠生が立ち上がる。
引きずられるように寝室に連れて行かれ、そして。

「入ってろ」

「えっ!?
いや、出して!
出して!」

押し込められた、クローゼット。
扉の前になにか置かれたのか、押してもびくともしない。

――ドンドンドン、ドンドンドン!

「出して!
出してってば!」

私の訴えは虚しく。
扉は開けてもらえなかった。
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