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第四章 絶体絶命のときに救ってくれるのは……
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朝はアラームが鳴るよりも早く起きた。
まだ寝ている駒木さんを起こさないようにベッドを出て、顔を洗う。
そのまま、じっと鏡の中の私を見つめた。
……大丈夫、私は頑張れる。
気合いを入れるように思いっきり頬をぱちんと叩き、顔を拭いた。
ランドリーから戻ってきていた服に着替える。
昨日と同じ服で出社したらまた嫌味を言われそうだが、そんなの私の勝手だ。
コーヒーを飲みながら携帯でニュースをチェックしていたら、駒木さんが起きてきた。
「おはよう、花夜乃さん。
せっかく僕がキスで起こしてあげようと思ってたのに、先に起きてるんだもんな」
彼は残念そうだが、普段からどこか掴み所がないだけに、どこまで本気なのかわからない。
「花夜乃さん、これ。
もう着替えてるから二度手間かもしれないけど」
駒木さんが大小ふたつの紙袋を渡してくれる。
大きいほうには服が、小さいほうには化粧品が入っていた。
「どうしたんですか、これ?」
「んー、頑張ってる花夜乃さんに、僕からのご褒美」
私に向かって片目をつぶり、彼は洗面所へ行った。
その背中に頭を下げる。
こんなに気を遣ってもらって、本当にありがたい。
寝室でもう一度、服を着替える。
袋から出してみた服はピンクの立ち襟ブラウスに黒のレーススカートと組み合わせは普通だったが、いつも私が買う服よりも0がひとつ多いブランドだった。
「……まあ、駒木さんだから」
あまり深く、考えないようにしよう。
服がそうならば、化粧品もそうなわけで。
高級ブランド品が一揃えで驚いてしまう。
「ほんと、謎だよね……」
着ているスーツもあれ、たぶん高級フルオーダーだし。
身につけているものもひと目でわかるハイブランド品。
ぽんとこうやって、スイート、しかも広さからいって最上級の部屋に泊まったり、若き官僚で片付けるには無理がある気がするんだよね……。
化粧まで済ませて寝室を出たときには、駒木さんもほとんど身支度が済んでいた。
「朝食もルームサービスを頼んであるけど、いいかい?」
「はい、ありがとうございます」
ほんと、気が利く人で、こういう人が旦那様だったら楽だろうな……。
いや、私が駒木さんを好きになるとかないんだけど!
まもなくして運ばれてきた朝食は、無難な洋食セットだった。
「駒木さん。
その、ありがとうございました」
おかげで、あんなに落ち込んでいた気持ちは浮上している。
それに、頑張ろうって気にさせてくれた。
「花夜乃さんが元気になったんなら、僕は嬉しいよ」
締まらない顔でふにゃんと嬉しそうに彼が笑う。
その顔を見たら、私まで嬉しくなっちゃうのはなんでだろう?
「あのね、花夜乃さん」
食べ終わり、ナプキンで口を拭った彼は改まって私の顔を見た。
おかげで、背筋が伸びる。
「花夜乃さんが話さないなら、僕はなにも聞かない。
だから昨日は、なにも聞かなかった。
でも、僕はいつでも花夜乃さんの味方だよ。
愚痴でも弱音でも、なんでも吐いて、僕を利用していいからね」
眼鏡の向こうの目は強い意志で溢れている。
それを見ていたら温かいものが私の胸を満たしていくのと同時に、申し訳なくなった。
「……ありがとうございます。
でも、私は……」
「僕は絶対に花夜乃さんを本気にさせるから、心配しないでどんどん頼ってよ」
私の言葉を封じるように彼が口を開く。
口角をつり上げてにっこりと笑われ、なんか気が抜けた。
「まあ、頑張ってください」
……いつもこんなふうに甘やかせてくれたら、好きになっちゃうかも?
なんて思っているのは内緒だ。
駒木さんは送ると言ってくれたが、断った。
そこまでしてもらうのは悪い。
それでも、タクシーで行きなよって押し込められたけれど。
「おはよーございまーす」
私が出勤してきて、部署にいた人間の目が集まった。
昨日の今日だ、仕方ない。
でも、気にしない、気にしない。
職場の空気は最悪だが、課長から上も取りあわないようだと教えてもらって機嫌がいい。
しかし、念のためにコンペのプレゼン用資料制作は会社でのみ行い、課長と共有なんて条件をつけられたのは悲しいが。
翌日には上の対応も周囲の人に知れ渡り、噂は沈静化したように……見えた。
まだ寝ている駒木さんを起こさないようにベッドを出て、顔を洗う。
そのまま、じっと鏡の中の私を見つめた。
……大丈夫、私は頑張れる。
気合いを入れるように思いっきり頬をぱちんと叩き、顔を拭いた。
ランドリーから戻ってきていた服に着替える。
昨日と同じ服で出社したらまた嫌味を言われそうだが、そんなの私の勝手だ。
コーヒーを飲みながら携帯でニュースをチェックしていたら、駒木さんが起きてきた。
「おはよう、花夜乃さん。
せっかく僕がキスで起こしてあげようと思ってたのに、先に起きてるんだもんな」
彼は残念そうだが、普段からどこか掴み所がないだけに、どこまで本気なのかわからない。
「花夜乃さん、これ。
もう着替えてるから二度手間かもしれないけど」
駒木さんが大小ふたつの紙袋を渡してくれる。
大きいほうには服が、小さいほうには化粧品が入っていた。
「どうしたんですか、これ?」
「んー、頑張ってる花夜乃さんに、僕からのご褒美」
私に向かって片目をつぶり、彼は洗面所へ行った。
その背中に頭を下げる。
こんなに気を遣ってもらって、本当にありがたい。
寝室でもう一度、服を着替える。
袋から出してみた服はピンクの立ち襟ブラウスに黒のレーススカートと組み合わせは普通だったが、いつも私が買う服よりも0がひとつ多いブランドだった。
「……まあ、駒木さんだから」
あまり深く、考えないようにしよう。
服がそうならば、化粧品もそうなわけで。
高級ブランド品が一揃えで驚いてしまう。
「ほんと、謎だよね……」
着ているスーツもあれ、たぶん高級フルオーダーだし。
身につけているものもひと目でわかるハイブランド品。
ぽんとこうやって、スイート、しかも広さからいって最上級の部屋に泊まったり、若き官僚で片付けるには無理がある気がするんだよね……。
化粧まで済ませて寝室を出たときには、駒木さんもほとんど身支度が済んでいた。
「朝食もルームサービスを頼んであるけど、いいかい?」
「はい、ありがとうございます」
ほんと、気が利く人で、こういう人が旦那様だったら楽だろうな……。
いや、私が駒木さんを好きになるとかないんだけど!
まもなくして運ばれてきた朝食は、無難な洋食セットだった。
「駒木さん。
その、ありがとうございました」
おかげで、あんなに落ち込んでいた気持ちは浮上している。
それに、頑張ろうって気にさせてくれた。
「花夜乃さんが元気になったんなら、僕は嬉しいよ」
締まらない顔でふにゃんと嬉しそうに彼が笑う。
その顔を見たら、私まで嬉しくなっちゃうのはなんでだろう?
「あのね、花夜乃さん」
食べ終わり、ナプキンで口を拭った彼は改まって私の顔を見た。
おかげで、背筋が伸びる。
「花夜乃さんが話さないなら、僕はなにも聞かない。
だから昨日は、なにも聞かなかった。
でも、僕はいつでも花夜乃さんの味方だよ。
愚痴でも弱音でも、なんでも吐いて、僕を利用していいからね」
眼鏡の向こうの目は強い意志で溢れている。
それを見ていたら温かいものが私の胸を満たしていくのと同時に、申し訳なくなった。
「……ありがとうございます。
でも、私は……」
「僕は絶対に花夜乃さんを本気にさせるから、心配しないでどんどん頼ってよ」
私の言葉を封じるように彼が口を開く。
口角をつり上げてにっこりと笑われ、なんか気が抜けた。
「まあ、頑張ってください」
……いつもこんなふうに甘やかせてくれたら、好きになっちゃうかも?
なんて思っているのは内緒だ。
駒木さんは送ると言ってくれたが、断った。
そこまでしてもらうのは悪い。
それでも、タクシーで行きなよって押し込められたけれど。
「おはよーございまーす」
私が出勤してきて、部署にいた人間の目が集まった。
昨日の今日だ、仕方ない。
でも、気にしない、気にしない。
職場の空気は最悪だが、課長から上も取りあわないようだと教えてもらって機嫌がいい。
しかし、念のためにコンペのプレゼン用資料制作は会社でのみ行い、課長と共有なんて条件をつけられたのは悲しいが。
翌日には上の対応も周囲の人に知れ渡り、噂は沈静化したように……見えた。
応援ありがとうございます!
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