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第五章 最高のパートナー

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戻ってきた仮設司令所では、祖母と威宗が待っていた。

「やったね。
もうこれで一人前だ」

「痛い、痛いよ、ばあちゃん!」

背中をバンバン叩いて私を労う祖母に苦笑いする。
しかし、一度は破れたA級相手だったのだ、今度は大丈夫だと思っていても不安だったのだろう。

「あとは翠に任せて、私も引退しようかね」

「えっ、それはまだ勘弁して……!」

祖母の口から〝引退〟なんて言葉が出てきて慌ててしまう。
A級に勝てたとはいえ、ようやくなのだ。

「もう私もあちこち身体にガタがきててね。
C級でも穢れと戦うのは骨が折れるんだよ……」

手を置いた肩を動かしながら、祖母がわざとらしくため息をつく。
けれどかくしゃくとしていて修行でも私より元気だった祖母から弱音を吐かれても、あまり説得力がない。

「なに言ってんだ、ばばぁ。
ばばぁは殺しても死なねーだろうがよ」

今度は鬱陶しそうに伶龍がため息をつく。

「私をばばぁなんて言うのはどの口だい?
この口か?」

「いてててっ!
やめろ、ばばぁ!
いや、おばあ様!」

祖母に口もとを捻りあげられた伶龍が悲鳴を上げ、威宗も私も笑っていた。

「けれど光恵様。
光恵様はまだまだお元気です。
引退などと淋しいことを言わないでください」

笑い終わった威宗が、真面目な顔で進言する。

「そうだよ、まだいろいろ教えてもらわないといけないんだしさ。
引退とか言わないでよ」

祖母はすでに還暦を過ぎている。
まだしばらくは大丈夫だが、そろそろこの先を考え始めておかなければならない。
それでも私は巫女になって一年も経たない駆け出しで、頼りない部分も学ばなければならないことも多い。
祖母に引退なんてされては困るのだ。

「……そうですよ。
光恵様がいなくなったら、誰がこの跳ねっ返りの刀と巫女を制御するのですか」

「ひっ」

いつの間にか混ざっていた柴倉さんに暗ーく言われ、思わず飛び上がっていた。



祖母は引退こそしなかったが、これからは極力現場には出ないらしい。

「言っただろ、もう飛んだり跳ねたりは私には無理だって」

祖母は物憂げにため息をついてみせたが、今朝、お供えのお菓子を強奪していく伶龍を怒鳴って追いかけていたのは誰だ?
「私は後方支援で、現場はアンタに任せる。
もちろん、手に負えないクラスの穢れが出たときは援助に出るから、心配しなくていい」

「……わかったよ」

我が儘は言えなかった。
本当なら母が現役で、祖母は引退していてもおかしくないのだ。
母が早くに亡くなった分、祖母には苦労をさせている。
その分、私がしっかりしなければ。

とはいえ、朝のお勤めはやはり、祖母がやる。
私はまだ、〝条件〟とやらが揃ってないらしい。
私は刀を授かって巫女にはなったが、まだ巫女としては覚醒していない状態だという。
どうすれば覚醒するのかと祖母にも曾祖母にも問うたが、そのときが来ればわかるとしか教えてくれなかった。

今朝のお勤めでもやはり、伶龍は私の隣で船を漕いでいる。
そういうところはいまだに変わらない。
それに祖母の声が大きくなるのもいつもの光景だ。
私はといえば、もうすぐやってくるクリスマスにうきうきしていた。
もう、伶龍にプレゼントは用意してある。
料理も手配済みだ。

「……来る」

祝詞が終わった祖母が、小さく呟く。
その声は酷く重かった。

「来るね」

別の声が聞こえ、思わずそちらを見る。
そこにはこの時間は寝ているはずの曾祖母が立っていた。
その目は大きく見開かれ、いつもは曲がっている腰がしゃんと伸びている。

「ああ。
大穢れが、来るよ」

振り向いた祖母が、私たちに告げる。

「……大穢れ」

つい、その単語を繰り返す。

「大穢れが来るのか!?」

不安な気持ちになっている私とは違い、伶龍は大興奮だ。

「出現予定日は十二月二十四日」

穢れは自然災害のようなもので、いつ来るのかわからない。
事前に宣託が下るだけ、地震よりはマシだ。
それでも、なんでよりによってその日に?
しかも大穢れだとか。

「とんだクリスマスプレゼントだね」

祖母は笑っているが、それしかできないのだろう。

「そう、だね」

こんなクリスマスプレゼント、遠慮したい。
戦う私たちも迷惑だが、非難する人たちも迷惑だ。
それに大穢れとなれば多数の市町村に避難命令が出る。

「アタシも出るよ」

「そうだね。
よろしくお願いします」

祖母が曾祖母に出撃を頼む。
曾祖母にまで出てもらわなければならない規模の穢れって、どれだけ強いのだろう。

「なに、大丈夫さ。
いつもどおりやれば」

「う、うん」

祖母は元気づけてくれるが、私の不安は一向に晴れない。
深まっていくばかりだ。

「準備はしっかりと。
頼んだよ、威宗、春光、伶龍」

「はい」

「やるぞ、やるぞ、俺はやるぞ!」

深刻な面持ちの面々の中でひとり、伶龍だけがやる気に満ちあふれていた。
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