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第一・五章 願
1.5-1
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「僕の元で働く気は、ない?」
じっと、レンズ越しにレンの目を見つめる。その瞳は迷うように数度、揺れた。
「……わるい」
しかし、気まずそうに目を伏せた彼の口から出たのは、断りの言葉だった。
「……そっか」
必死に縋っていた細い綱が、プツンと切れた。そのまま、足下に大きく口を開けていた、暗い穴の底へと落ちていく。レンはやはり、僕を見捨てるんだ。大統領になるのが決まったときも、こうやって僕の願いを断った。大統領なんて僕に務まるんだろうか。不安で、心細くて、せめて親友であるレンには傍にいてもらいたかったのに、彼はちっともわかってくれなかった。
今日だってそうだ。もう、限界が近いのは自分でもわかっていた。周囲から過剰に期待され、いつも正解を選ばなければならない。これは間違っていないか、いつも人の顔色ばかりうかがっていた。それに加え、周辺諸国の老獪な政治家たちと渡りあっていかなければならない。こちらの腹の内は見せず、相手の真意を探る。そんな芸当、彼らからすればまだ子供に過ぎない僕が、できるわけがない。こんな、恐ろしいほどの重圧から逃げてしまいたいが、僕にはそれすら許されないのだ。
……お願いだから、レンに傍にいてほしい。レンだけでいいから、僕の気持ちをわかってほしい。
なのに、レンは僕の願いを聞いてくれない。
「じゃあ、仕方ないね」
きっとレンは、昔の彼ではないのだ。僕よりも僕のことを理解し、優しく笑いかけてくれた、あのレンでは。
「護衛を巻くのはやめていただきたい」
官邸に戻ってきた僕の顔を見た途端、セドリードが苦言を呈してくる。
「ウォルター少佐が一緒だから、問題なんてないだろ」
苛々と寝室へ向かう僕をセドリードは追ってきた。
「なにをそんなに苛ついているのです?」
きっとわかっているのに、そんなことを聞いてくるヤツにカッと頬が熱くなる。
「お前に関係ないだろっ!」
振り返るとすぐ傍にアイツの顔があった。その冷たい瞳に背筋がぞくりとする。僕が何事か口を開こうとするより先に、アイツの唇が重なった。突っぱねようと胸を押すが、びくともしない。僅かな隙間を見逃さず、唇を割ってヤツの舌が侵入してきた。すぐに捕らえられ、翻弄される。嫌なはずなのにそのうち、僕の瞼は落ちていた。
「……忘れさせてあげましょうか」
唇を話したヤツが、ニィッと右の口端をつり上げる。
「……忘れさせてくれ」
俯いて目を逸らし、ヤツの胸に縋った。
ベッドの上でセドリードが、僕を組み伏す。もう何度、こうやってコイツとまぐわっただろう。最初のきっかけがなんだったかなんて、もう思い出せない。ただ、重圧に負けそうになり隠れて子供のように泣いていた僕を、楽にしてやるとアイツは無理矢理犯した。もちろん、抗議はした。――しかし。
『でも、気持ちは楽になったでしょう?』
問われて、あんなにつらかった気持ちが楽になっているのに気づいた。いや、根本的にはなにも解決していないのだ。ただ、快楽に溺れて一時的に忘れているだけ。わかっていたが、それでも僕には十分だった。
それからは何度も、セドリードとまぐわった。最初のうちこそ人目を気にして寝室でヤっていたが、この頃はつらい気持ちを少しでも早く誤魔化したくて、執務室でもまぐわっていた。ダメだとわかっていながら、ヤツとの関係に溺れていく。セドリードが僕にもたらす快楽は、まるで麻薬のようだった。
「満足しましたか」
果てたアイツがずるりと僕の中から出ていく。
「まだだ。もっと、――もっと、犯せ」
起き上がってヤツの首に腕を回し、媚びるように自分から唇を重ねる。ずっとこのまま、快楽に浸っていたい。いっそこのまま、僕を狂わせ、壊してくれ――。
じっと、レンズ越しにレンの目を見つめる。その瞳は迷うように数度、揺れた。
「……わるい」
しかし、気まずそうに目を伏せた彼の口から出たのは、断りの言葉だった。
「……そっか」
必死に縋っていた細い綱が、プツンと切れた。そのまま、足下に大きく口を開けていた、暗い穴の底へと落ちていく。レンはやはり、僕を見捨てるんだ。大統領になるのが決まったときも、こうやって僕の願いを断った。大統領なんて僕に務まるんだろうか。不安で、心細くて、せめて親友であるレンには傍にいてもらいたかったのに、彼はちっともわかってくれなかった。
今日だってそうだ。もう、限界が近いのは自分でもわかっていた。周囲から過剰に期待され、いつも正解を選ばなければならない。これは間違っていないか、いつも人の顔色ばかりうかがっていた。それに加え、周辺諸国の老獪な政治家たちと渡りあっていかなければならない。こちらの腹の内は見せず、相手の真意を探る。そんな芸当、彼らからすればまだ子供に過ぎない僕が、できるわけがない。こんな、恐ろしいほどの重圧から逃げてしまいたいが、僕にはそれすら許されないのだ。
……お願いだから、レンに傍にいてほしい。レンだけでいいから、僕の気持ちをわかってほしい。
なのに、レンは僕の願いを聞いてくれない。
「じゃあ、仕方ないね」
きっとレンは、昔の彼ではないのだ。僕よりも僕のことを理解し、優しく笑いかけてくれた、あのレンでは。
「護衛を巻くのはやめていただきたい」
官邸に戻ってきた僕の顔を見た途端、セドリードが苦言を呈してくる。
「ウォルター少佐が一緒だから、問題なんてないだろ」
苛々と寝室へ向かう僕をセドリードは追ってきた。
「なにをそんなに苛ついているのです?」
きっとわかっているのに、そんなことを聞いてくるヤツにカッと頬が熱くなる。
「お前に関係ないだろっ!」
振り返るとすぐ傍にアイツの顔があった。その冷たい瞳に背筋がぞくりとする。僕が何事か口を開こうとするより先に、アイツの唇が重なった。突っぱねようと胸を押すが、びくともしない。僅かな隙間を見逃さず、唇を割ってヤツの舌が侵入してきた。すぐに捕らえられ、翻弄される。嫌なはずなのにそのうち、僕の瞼は落ちていた。
「……忘れさせてあげましょうか」
唇を話したヤツが、ニィッと右の口端をつり上げる。
「……忘れさせてくれ」
俯いて目を逸らし、ヤツの胸に縋った。
ベッドの上でセドリードが、僕を組み伏す。もう何度、こうやってコイツとまぐわっただろう。最初のきっかけがなんだったかなんて、もう思い出せない。ただ、重圧に負けそうになり隠れて子供のように泣いていた僕を、楽にしてやるとアイツは無理矢理犯した。もちろん、抗議はした。――しかし。
『でも、気持ちは楽になったでしょう?』
問われて、あんなにつらかった気持ちが楽になっているのに気づいた。いや、根本的にはなにも解決していないのだ。ただ、快楽に溺れて一時的に忘れているだけ。わかっていたが、それでも僕には十分だった。
それからは何度も、セドリードとまぐわった。最初のうちこそ人目を気にして寝室でヤっていたが、この頃はつらい気持ちを少しでも早く誤魔化したくて、執務室でもまぐわっていた。ダメだとわかっていながら、ヤツとの関係に溺れていく。セドリードが僕にもたらす快楽は、まるで麻薬のようだった。
「満足しましたか」
果てたアイツがずるりと僕の中から出ていく。
「まだだ。もっと、――もっと、犯せ」
起き上がってヤツの首に腕を回し、媚びるように自分から唇を重ねる。ずっとこのまま、快楽に浸っていたい。いっそこのまま、僕を狂わせ、壊してくれ――。
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