98 / 129
第15話 社長秘書
3.尚恭の海外出張
しおりを挟む
結局、二週間ほど尚恭の元で働いた……といえるかどうかは怪しいが。
そろそろ、尚一郎が約束したひと月が過ぎようとしている。
尚恭の話だと、ヨーロッパ本社の業績も徐々にだが上向きはじめ、そう遠くないうちに尚一郎の役目も終わるんじゃないかという。
さらに。
「いってらっしゃいませ」
「なにを云っているんですか?
朋香さんも一緒に行くんですよ」
「はい?」
ヨーロッパ視察に行く尚恭を見送りにきた朋香だったが、専用ロビーから出国手続きに向かう尚恭がさも当たり前のように云うものだから、思わず大きくぱちくりと瞬きをしてしまう。
「でも、なにも準備してないですし。
パスポートとか」
そもそも、尚恭の見送りだけだと思っていたので、携帯くらいしか持っていない。
「ああ、パスポートは優希が預かっています。
準備もすべて、昌子さんと優希が」
傍に控えていた優希が内ポケットからなにかを取り出すと尚恭に渡した。
さらに尚恭から朋香に渡されたそれはパスポートで、開いてみると間違いなく自分のものだった。
「え、ええっと……」
「ほら、行きますよ」
尚恭に強引に手を引っ張られ、困惑したまま出国手続きへと向かう。
「じゃあ、あとは頼んだよ、優希」
「いってらっしゃいませ」
こうして朋香は突然、ヨーロッパへと旅だった。
飛行機はさすがというかプライベートジェットだった。
ただし個人所有ではなく、会社で所有しているのだという。
おかげでフランスまで十二時間ほどの旅も快適に過ごせた。
さらには、尚一郎に会えるんじゃないかという期待がある。
「向こうには何時に着きますか?」
「そんなに尚一郎に会えるのが嬉しいですか?
妬けてきますね」
おかしそうにくすくすと尚恭に笑われ、一気に顔が熱くなった。
「それは、その」
「申し訳ないです。
もっと早く、尚一郎の元に送り届けて差し上げたかったのですが、私の都合がつかずに長々と秘書として働いていただく羽目になって」
「いえ……」
すまなそうな尚恭に、朋香の方が申し訳ない気持ちになった。
家に帰さなかったのも、秘書として四六時中、傍に置いておいたのもすべて朋香のためだとすでに理解していた。
朋香がひとりでいれば、達之助がどんな強引な手を使って拐かしにきていたのかわからない。
「時差があるので現地時間で昼過ぎには着きます。
あと少しの辛抱ですよ。
ああ、尚一郎を驚かせたいので、くれぐれも秘密にしておいてくださいね」
いたずらっぽく尚恭にぱちんとウィンクされ、朋香はその場にへなへなと崩れそうになった。
そろそろ、尚一郎が約束したひと月が過ぎようとしている。
尚恭の話だと、ヨーロッパ本社の業績も徐々にだが上向きはじめ、そう遠くないうちに尚一郎の役目も終わるんじゃないかという。
さらに。
「いってらっしゃいませ」
「なにを云っているんですか?
朋香さんも一緒に行くんですよ」
「はい?」
ヨーロッパ視察に行く尚恭を見送りにきた朋香だったが、専用ロビーから出国手続きに向かう尚恭がさも当たり前のように云うものだから、思わず大きくぱちくりと瞬きをしてしまう。
「でも、なにも準備してないですし。
パスポートとか」
そもそも、尚恭の見送りだけだと思っていたので、携帯くらいしか持っていない。
「ああ、パスポートは優希が預かっています。
準備もすべて、昌子さんと優希が」
傍に控えていた優希が内ポケットからなにかを取り出すと尚恭に渡した。
さらに尚恭から朋香に渡されたそれはパスポートで、開いてみると間違いなく自分のものだった。
「え、ええっと……」
「ほら、行きますよ」
尚恭に強引に手を引っ張られ、困惑したまま出国手続きへと向かう。
「じゃあ、あとは頼んだよ、優希」
「いってらっしゃいませ」
こうして朋香は突然、ヨーロッパへと旅だった。
飛行機はさすがというかプライベートジェットだった。
ただし個人所有ではなく、会社で所有しているのだという。
おかげでフランスまで十二時間ほどの旅も快適に過ごせた。
さらには、尚一郎に会えるんじゃないかという期待がある。
「向こうには何時に着きますか?」
「そんなに尚一郎に会えるのが嬉しいですか?
妬けてきますね」
おかしそうにくすくすと尚恭に笑われ、一気に顔が熱くなった。
「それは、その」
「申し訳ないです。
もっと早く、尚一郎の元に送り届けて差し上げたかったのですが、私の都合がつかずに長々と秘書として働いていただく羽目になって」
「いえ……」
すまなそうな尚恭に、朋香の方が申し訳ない気持ちになった。
家に帰さなかったのも、秘書として四六時中、傍に置いておいたのもすべて朋香のためだとすでに理解していた。
朋香がひとりでいれば、達之助がどんな強引な手を使って拐かしにきていたのかわからない。
「時差があるので現地時間で昼過ぎには着きます。
あと少しの辛抱ですよ。
ああ、尚一郎を驚かせたいので、くれぐれも秘密にしておいてくださいね」
いたずらっぽく尚恭にぱちんとウィンクされ、朋香はその場にへなへなと崩れそうになった。
1
あなたにおすすめの小説
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
クリスマスに咲くバラ
篠原怜
恋愛
亜美は29歳。クリスマスを目前にしてファッションモデルの仕事を引退した。亜美には貴大という婚約者がいるのだが今のところ結婚はの予定はない。彼は実業家の御曹司で、年下だけど頼りになる人。だけど亜美には結婚に踏み切れない複雑な事情があって……。■2012年に著者のサイトで公開したものの再掲です。
思い出のチョコレートエッグ
ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。
慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。
秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。
主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。
* ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。
* 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。
* 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
社長は身代わり婚約者を溺愛する
日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。
引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。
そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松丹子
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
ワイルド・プロポーズ
藤谷 郁
恋愛
北見瑤子。もうすぐ30歳。
総合ショッピングセンター『ウイステリア』財務部経理課主任。
生真面目で細かくて、その上、女の魅力ゼロ。男いらずの独身主義者と噂される枯れ女に、ある日突然見合い話が舞い込んだ。
私は決して独身主義者ではない。ただ、怖いだけ――
見合い写真を開くと、理想どおりの男性が微笑んでいた。
ドキドキしながら、紳士で穏やかで優しそうな彼、嶺倉京史に会いに行くが…
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる