結婚直後にとある理由で離婚を申し出ましたが、 別れてくれないどころか次期社長の同期に執着されて愛されています

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第八章 それでもあなたに会えてよかった

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「瑞木係長。
オンゾーシが呼んでるけど、なんかしたの?」

会長とのランチの翌週、いつもどおり仕事をしていたら同僚男性から声をかけられた。

「御曹司が……?」

「そう、オンゾーシが」

同僚のいう御曹司とは、紘希のことではない。
薄々、彼が会長の身内だっていうのはもうバレているが。
この場合は、子会社の、鏑木社長の息子の正俊まさとしを指す。
当人としてはそう呼ばれてちやほやされていると思っているみたいだが、大多数はカタカナのオンゾーシ呼びで彼を疎んじていた。

「それともあれか?
矢崎課長の件であたりにきたか。
なんにしろ、ご愁傷様」

「は、はははは」

慰めるように彼が私の肩を叩く。
それに引き攣った笑顔を向けた。

「失礼します」

指定されたミーティング室へと入った途端、今年入ってきた女の子と目があった。
正俊の隣に座らせられていた彼女は、涙の浮かぶ目で縋るように私を見た。

「もーさー、もうちょっと気を利かせてくんない?」

ニヤニヤいやらしく笑っている正俊の手は彼女の太ももにのっていて、なにをしようとしていたのか丸わかりだ。

「それはすみません」

つかつかと彼らの傍に勢いよく寄り、彼女の手を引っ張って立たせる。
そのまま、庇って彼と彼女のあいだに立った。
怒りで、頭が沸騰する。
けれど、ここで熱くなったほうが負けだ。
少しでも冷静でいろと自分に言い聞かせた。

「あとはいいから、戻りなさい」

しかし彼女は、おどおどと正俊を窺っている。
きっと、言うことを聞かなければクビにしてやるとか言われたのだろう。

「大丈夫、なにも心配しなくていいから。
ほら」

今度は、できるだけ安心させるように彼女に微笑みかける。
それでようやく彼女は表情を緩ませ、ぺこりと頭を下げて部屋を出ていった。

「鏑木さん。
セクハラ行為について散々注意を受けているはずですが」

彼がこちらに来ては女子社員やアルバイトを口説いているのは、問題になっていた。
ただ口説くだけならまだいいが、親の、会長の威を借り食事に無理矢理連れていき、……そのあとは想像にお任せする。
訴えられないのはひとえに、問題になる前に父親が金で解決してしまうからだ。

「へぇー、俺にそんな口、きいていいの?」

いやらしく彼が、ニヤニヤと笑う。
それが格好いいと思っているのか、シャツの第二ボタンまで開け、彼はだらしなくネクタイを緩めていた。
足を大きく開いて座り、くちゃくちゃとガムを噛んでいる様は、御曹司というよりも安いチンピラだ。

「いいと思っています」

平然と余裕を持って、彼の前に座る。
クビにしたいのならすればいい。
もっとも、子会社とは違い、ここでは彼の要求なんて誰も聞かない。
それに先ほどの件を出せば、分が悪いのは彼のほうだ。

「ふーん。
……殺人犯の娘のくせに」

「……え?」

一気に血液が引いて、目の前が真っ暗になった。
寒くもないのに全身がカタカタと震える。
なのにじっとりと、冷たい汗を掻いた。

「紘希はアホだし、じじぃは上手く騙してるみたいだけど、オレたちは騙されねーよ。
オマエ、西木にしきの娘だろ」

「わた、しは」

椅子に座っているはずなのに、その場に崩れ落ちそうだった。
目の前がぐるぐると回る。

「最近、紘希のヤツ、調子に乗ってるから、いいネタないかと付き合ってるっていうオマエを調べてみたら、まさかあの、西木の娘だったとはね」

わざとらしく彼が、声を上げて笑う。

「次期社長の嫁が、殺人犯の娘とかヤバいよなぁ。
あ、わるい。
殺人未遂犯かぁ」

ニタニタと笑う彼は、まったく悪いなんて思っていない。
それに私も、ショックが大きすぎてなにも反応できなかった。

「……わた、し、は」

「サンキューな、いいネタを提供してくれて」

最初から私が、紘希の足枷になるとわかっていた。
だからこそ結婚を躊躇ったし、紘希の将来が決まったら別れようと決めていた。
なのにこの頃の私は、このまま誰にも知られず、幸せな結婚生活が続けられるんじゃないかとか期待していた。
とんだバカで、笑いたくなる。

「まあ、アンタ次第じゃ、黙っていてやってもいいけど?」

醜く正俊の顔が歪むのを、怯えて見ていた。
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