19時、駅前~俺様上司の振り回しラブ!?~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第5章 元彼は突然に

7. タイミングが合わない

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間野くんは社内で女性を暴行しようとした現行犯で、懲罰委員会の取り調べを受けた。
もちろん、私も話を聞かれたけれど。

「できるだけ笹岡の不利にならないようにする」

そう言って頷いてくれた片桐課長が心強かった。

それに、三好さんからも話を聞いたようだ。
自分が間野くんを手引きした共犯になっていると知って、真っ青になって必死に否定したらしい。

当初、片桐課長は警察に突き出すって聞かなかったけれど、やめてもらった。

「どうしてだ!? あいつにあんな目に遭わされたんだぞ!?」

片桐課長の不満はわかる。
私だってそれくらいしたい。
けれど。

「……間野くんとの関係を、また人に話すのは嫌なので」

「……っ」

ぼそっと私が呟くと、片桐課長は悔しそうに目を逸らした。
あの日、片桐課長に簡単に説明するのすら、つらかった。
もう間野くんのことは忘れてしまいたい。

「一番つらいのは笹岡だもんな」

甘えるように片桐課長に寄りかかる。
彼は私の代理として、間野くんの件の審議に出ていた。
本来は直属の上司である高来課長が出るべきなんだろうけど、今回は部長代理という肩書きを利用している。
公私混同だとは思うけれど、嬉しくないわけがない。

「……樹馬さんにはたくさん感謝しています」

片桐課長は酷く理性的に間野くんと話を進めているようだ。
それはもう――冷酷なくらいに。
訴えはしなかったが、間に弁護士を入れた。
会社側も間野くんに諭旨解雇の通達を出している。

「樹馬さん……」

じっとレンズ越しに片桐課長の瞳を見つめる。
片桐課長も私をじっと見返した。

「私は樹馬さんが……」

――ピコン!

いいタイミングで、片桐課長の携帯が通知音を立てた。

「あー、高来から。
留奈が熱出したから、今日の食事会はまた今度って」

「そうですか」

笑っている片桐課長に私も笑い返したものの。
このタイミングでNYAINしてきた高来課長を恨んだ私に罪はないはずだ。



少しして間野くんは会社を辞めた。
送別会すらさせないほど突然だったので同期の間では噂になったが、なにも知らないで通した。
それに、片桐課長のお陰であの件は全く誰も知らなかったし。

その後噂で彼が離婚したと聞いたが、ああそう、くらいの気持ちにしかならなかった。


「でもあの日の笹岡は最高だったな」

思い出したのか、片桐課長はくつくつとおかしそうに笑いだした。

「……ちょっと酷いです」

なんだか複雑な心境で、持っていたナイフとフォークを置く。
ようやく騒ぎが落ち着き、週末の金曜日、お祝いだと少しいいレストランに連れてきてくれた。

「でもそうだろ?
男の急所に膝蹴り食らわせるとかさ」

もーたまんねーとか片桐課長が笑い転げるから、顔が熱くなってくる。

「だって……」

我ながら、少しやり過ぎだったかな、とも思う。
でもあのときはほんとにあたまにきていたのだ。

「いや、あいつもいい薬になったんじゃないか」

笑いすぎて目尻に溜った涙を片桐課長が拭い、さすがに少し、ムッとした。

「……ですかね」

もし、あの日。
片桐課長が駆けつけるのが遅くなっていたら、そう思うと身体が震える。

訪問するはずだった得意先から急用が入ったからとキャンセルを受け、予定時間よりも片桐課長たちは早く帰ってきていた。
私がいないのをおかしいと思い、挙動不審だった三好さんを問い詰めたらしい。

「樹馬さんには感謝しています」

「別に俺は感謝されるようなことはしてないし、とにかく。
……笹岡が無事でよかった」

眩しそうに目を細め、少しだけ目尻が下がる。
その笑顔に。

――胸がきゅん、と締め付けられる。

ドキドキと速い心臓の鼓動を落ち着けるように、グラスの水を黙って口に運んだ。

「そうだ、近いうちにまた、泊まりで旅行に行かないか。
連休も明けたから空いてるし」

「そう、ですね」

五月の連休は間野くんの件でゴタゴタしていて忙しかった。
少しくらい、ゆっくりしたい。

――でも、その前に。

「樹馬さん」

雰囲気のいい今日なら、いいチャンスだ。
これで告白しなきゃ、いつするの?

真っ直ぐ、レンズ越しに片桐課長の瞳を見つめる。
決心したはずなのに、用意した言葉はなかなか出てこない。
黙ってしまった私を不思議そうに片桐課長が見ている。
俯いて、はぁっと小さく、深呼吸をした。
再び顔を上げ、今度こそ口を開く。

「私は、樹馬さんが」

「あ、俺、明日、用事があるんだった」

「……は?」

突然、私の言葉を遮った片桐課長を、間抜けにもぽかんと見つめてしまう。

……なんで、このタイミング?

「奥川部長に頼まれて、社長の娘と見合いすんの。
終わったら行きたいとこがあるから、笹岡、お前、ホテルのカフェで待ってろ」

困惑している私なんか無視して、片桐課長は平然とそう言い放った。

「……誰が」

お腹の中でマグマがふつふつと煮えたぎる。

「誰がそんなところ、行くもんかー!!」

私はあたまから、火山を噴火させていた。
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