14 / 71
第3章 祖父VS三橋さん
5.一緒に寝ると一緒の部屋に寝るは同じじゃない
しおりを挟む
……その後。
「俺はまだ、認めたわけじゃねぇからな……」
一升瓶を抱え、祖父が転がっている。
三橋さんといえば。
「このお素麺、美味しいですね。
特にこの、お出汁のよく染みたナスが」
けろっとした顔で〆だといわんばかりにナス素麺を食べていた。
「あの。
大丈夫ですか……?」
ちらりと見た部屋の隅には、祖父が抱くのともう一本、空になった酒瓶が置かれている。
「ああ。
私、いくら飲んでも酔わないんですよね、不思議なことに」
「そう、ですか……」
涼しい顔で三橋さんはお漬物のキュウリをバリバリ囓っている。
今回ばかりは祖父も、勝負を挑んだ相手が悪かったようだ。
「今日はもう、泊まっていってください。
さすがに、心配です。
……いいよね、お母さん」
うんうん、と母が頷く。
「大丈夫ですよ、これくらい」
証明するかのように三橋さんが立ち上がる。
「バカ、無理するもんじゃない」
「あれ?」
けれど父に軽く胸を押されただけで、その場に尻餅をついてしまった。
「自覚してなくても酔ってるんだ。
今日はもう、泊まっていけ。
……じいさん、そんなところで寝たら風邪引くぞ」
父が祖父を支え、部屋へと連れていく。
「お父様の言うとおり、酔っているみたいですね。
お言葉に甘えて泊まらせていただきます」
へら、と笑った三橋さんはちょっと情けなくて可愛かった。
「かーさん、布団、どこに引くー?」
風呂はさすがに危ないので、明日の朝に入ってもらうようにした。
「鹿乃子の部屋でいいんじゃなーい?」
「……は?」
母はいったい、なにを考えているんだろうか。
嫁入り前の娘の部屋に男を一緒に寝せるなど。
祖父が聞いていたらまた激怒しそうだが、もう父に部屋へ連れていかれていない。
「可愛い鹿乃子さんと一緒に寝られるんですか!?」
三橋さんはもう、嬉しくてたまんないって顔をしているが、一緒に寝るんじゃなくて一緒の部屋で寝る、だから。
そこは大きな違いだから間違わないでもらいたい。
「ほら、お風呂入ってるあいだに引いとくから、あんたはさっさと入っておいで」
「いってらっしゃーい」
いい感じに酔っているのか、へらへらと笑いながら三橋さんが私へ向かって手を振る。
「ええーっ」
渋々ながらお風呂に入る。
上がったときには宣言どおり、私の部屋に三橋さんの分の布団が引かれていた。
「ここが可愛い鹿乃子さんの部屋ですか」
昔の彼氏がゲーセンで取ってくれた、ピンク色の大きなうさぎのぬいぐるみを抱いて三橋さんが部屋の中を見渡す。
ちなみにぬいぐるみは未練があるとかではなく、なんとなくそのまま置いてあるだけだ。
あと、抱き心地がいいから。
「可愛い鹿乃子さんらしく、可愛い部屋ですね」
にへら、と実に締まらない顔で三橋さんは笑った。
小学校高学年になってもらったこの部屋は、あの当時からあまり変わりがない。
学習机は若干のカスタマイズはしたもののそのまま使っているし、ベッドもマットレスは替えたが、フレームはそのままだ。
「幼いだけですよ」
この部屋を出ていくだなんて、考えたこともなかった。
なんとなく、お婿さんをもらってこの家で暮らし続けていくんだって思っていたから。
「我が家も、素敵な家にしましょうね」
にこにこと嬉しくて仕方ないという顔で三橋さんは笑っている。
結局、祖父との飲み比べに勝った彼は、私との同居をもぎ取った。
「そう、ですね……」
とはいえ、どこまでカスタマイズしていいのかは悩むところ。
住むなら居心地がいい方がいいが、最大四ヶ月ほどの話なのだ。
三橋さんと結婚すればずっとあそこに住むのだろうが、私にはまだその気はない。
「明後日、また来ます。
今度は連休なので、ゆっくり……」
次第に声が小さくなっていき、そのうち聞こえなくなった。
「三橋さん?」
ベッドから見下ろすと、ぬいぐるみを抱いたままぽてっと倒れ、スースーと気持ちよさそうな寝息を立てている。
「風邪、引きますよ」
苦労して身体の下からタオルケットを引き抜き、かけてやる。
「……ふふっ。
鹿乃子、さん……可愛い……」
幸せそうに笑いながら、三橋さんはぬいぐるみを私と思っているのか、ぎゅーっと抱き締めて眠っている。
そういうのが可愛くて、憎めないんだよね、この人。
「私も寝るか……」
電気を消してベッドへ潜り込んだ。
「俺はまだ、認めたわけじゃねぇからな……」
一升瓶を抱え、祖父が転がっている。
三橋さんといえば。
「このお素麺、美味しいですね。
特にこの、お出汁のよく染みたナスが」
けろっとした顔で〆だといわんばかりにナス素麺を食べていた。
「あの。
大丈夫ですか……?」
ちらりと見た部屋の隅には、祖父が抱くのともう一本、空になった酒瓶が置かれている。
「ああ。
私、いくら飲んでも酔わないんですよね、不思議なことに」
「そう、ですか……」
涼しい顔で三橋さんはお漬物のキュウリをバリバリ囓っている。
今回ばかりは祖父も、勝負を挑んだ相手が悪かったようだ。
「今日はもう、泊まっていってください。
さすがに、心配です。
……いいよね、お母さん」
うんうん、と母が頷く。
「大丈夫ですよ、これくらい」
証明するかのように三橋さんが立ち上がる。
「バカ、無理するもんじゃない」
「あれ?」
けれど父に軽く胸を押されただけで、その場に尻餅をついてしまった。
「自覚してなくても酔ってるんだ。
今日はもう、泊まっていけ。
……じいさん、そんなところで寝たら風邪引くぞ」
父が祖父を支え、部屋へと連れていく。
「お父様の言うとおり、酔っているみたいですね。
お言葉に甘えて泊まらせていただきます」
へら、と笑った三橋さんはちょっと情けなくて可愛かった。
「かーさん、布団、どこに引くー?」
風呂はさすがに危ないので、明日の朝に入ってもらうようにした。
「鹿乃子の部屋でいいんじゃなーい?」
「……は?」
母はいったい、なにを考えているんだろうか。
嫁入り前の娘の部屋に男を一緒に寝せるなど。
祖父が聞いていたらまた激怒しそうだが、もう父に部屋へ連れていかれていない。
「可愛い鹿乃子さんと一緒に寝られるんですか!?」
三橋さんはもう、嬉しくてたまんないって顔をしているが、一緒に寝るんじゃなくて一緒の部屋で寝る、だから。
そこは大きな違いだから間違わないでもらいたい。
「ほら、お風呂入ってるあいだに引いとくから、あんたはさっさと入っておいで」
「いってらっしゃーい」
いい感じに酔っているのか、へらへらと笑いながら三橋さんが私へ向かって手を振る。
「ええーっ」
渋々ながらお風呂に入る。
上がったときには宣言どおり、私の部屋に三橋さんの分の布団が引かれていた。
「ここが可愛い鹿乃子さんの部屋ですか」
昔の彼氏がゲーセンで取ってくれた、ピンク色の大きなうさぎのぬいぐるみを抱いて三橋さんが部屋の中を見渡す。
ちなみにぬいぐるみは未練があるとかではなく、なんとなくそのまま置いてあるだけだ。
あと、抱き心地がいいから。
「可愛い鹿乃子さんらしく、可愛い部屋ですね」
にへら、と実に締まらない顔で三橋さんは笑った。
小学校高学年になってもらったこの部屋は、あの当時からあまり変わりがない。
学習机は若干のカスタマイズはしたもののそのまま使っているし、ベッドもマットレスは替えたが、フレームはそのままだ。
「幼いだけですよ」
この部屋を出ていくだなんて、考えたこともなかった。
なんとなく、お婿さんをもらってこの家で暮らし続けていくんだって思っていたから。
「我が家も、素敵な家にしましょうね」
にこにこと嬉しくて仕方ないという顔で三橋さんは笑っている。
結局、祖父との飲み比べに勝った彼は、私との同居をもぎ取った。
「そう、ですね……」
とはいえ、どこまでカスタマイズしていいのかは悩むところ。
住むなら居心地がいい方がいいが、最大四ヶ月ほどの話なのだ。
三橋さんと結婚すればずっとあそこに住むのだろうが、私にはまだその気はない。
「明後日、また来ます。
今度は連休なので、ゆっくり……」
次第に声が小さくなっていき、そのうち聞こえなくなった。
「三橋さん?」
ベッドから見下ろすと、ぬいぐるみを抱いたままぽてっと倒れ、スースーと気持ちよさそうな寝息を立てている。
「風邪、引きますよ」
苦労して身体の下からタオルケットを引き抜き、かけてやる。
「……ふふっ。
鹿乃子、さん……可愛い……」
幸せそうに笑いながら、三橋さんはぬいぐるみを私と思っているのか、ぎゅーっと抱き締めて眠っている。
そういうのが可愛くて、憎めないんだよね、この人。
「私も寝るか……」
電気を消してベッドへ潜り込んだ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜
瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。
まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。
息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。
あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。
夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで……
夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
先生
藤谷 郁
恋愛
薫は28歳の会社員。
町の絵画教室で、穏やかで優しい先生と出会い、恋をした。
ひとまわりも年上の島先生。独身で、恋人もいないと噂されている。
だけど薫は恋愛初心者。
どうすればいいのかわからなくて……
※他サイトに掲載した過去作品を転載(全年齢向けに改稿)
明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。
平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり……
恋愛、家族愛、友情、部活に進路……
緩やかでほんのり甘い青春模様。
*関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…)
★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。
*関連作品
『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点)
『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)
上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。
(以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)
15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~
深冬 芽以
恋愛
交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。
2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。
愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。
「その時計、気に入ってるのね」
「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」
『お揃いで』ね?
夫は知らない。
私が知っていることを。
結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?
私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?
今も私を好きですか?
後悔していませんか?
私は今もあなたが好きです。
だから、ずっと、後悔しているの……。
妻になり、強くなった。
母になり、逞しくなった。
だけど、傷つかないわけじゃない。
サディスティックなプリテンダー
櫻井音衣
恋愛
容姿端麗、頭脳明晰。
6か国語を巧みに操る帰国子女で
所作の美しさから育ちの良さが窺える、
若くして出世した超エリート。
仕事に関しては細かく厳しい、デキる上司。
それなのに
社内でその人はこう呼ばれている。
『この上なく残念な上司』と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる