あなた色に染まり……ません!~呉服屋若旦那は年下彼女に独占宣言される~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第3章 祖父VS三橋さん

6.……キス

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朝はいつもよりも早く起きた。
三橋さんを七時の新幹線に乗せなければいけない。
店の開店時間には間に合わないが、遅れると連絡を入れているので大丈夫だと言っていた。

「お風呂、ありがとうございました」

朝ごはんを作っていたら、三橋さんがお風呂から上がってきた。
今日はまだ、両親も祖父母も起きてきていない。
私がやるから寝ていていいよ、とも言ったしね。

「朝ごはんできてるんで、よかったら食べていってください」

テキパキとご飯や味噌汁をよそい、三橋さんの前へ並べていく。

「なにからなにまですみません……」

恐縮しつつ、三橋さんはダイニングの椅子に座った。

「鹿乃子さんが作ってくれたんですか」

「はい。
お口にあうかわかりませんが」

私もエプロンを外し、一緒にテーブルに着く。

「可愛い鹿乃子さんが作ってくれた食事が朝から食べられるなんて、幸せです」

なんだか噛みしめているが……たいしたものは作っていないけれどね?

「いただきます」

まるで拝むかのように手をあわせ、三橋さんは箸を取った。
そのままお椀を手に、ひとくち。

「美味しいです。
鹿乃子さんは可愛いだけじゃなく、料理も上手なんですね」

眼鏡の下で目尻を下げ、にっこりと笑われれば頬が熱くなっていく。

「……変なこと言ってないで、さっさと食べちゃってください。
間に合わなくなります」

「そうですね」

照れて、ありがとうと言えなかった。
いくら相手が三橋さんでも、そういう素直じゃない自分、嫌い。

食べ終わり、母の車で駅まで送る。

「じゃあ、次は明後日……もう、明日ですね。
来ますので」

「そんなに無理に、詰めてくることないですよ。
私は仕事ですから」

休みのたびに来るのは大変じゃないだろうか。
交通費はおいておいて、移動だけでも疲れるはず。

「私が可愛い鹿乃子さんに会いたいだけなので、気にしないでください」

「はぁ……」

さらりと三橋さんは言ってくるけど、恥ずかしくないのかな?

「今日、仕事が終わって、間に合えばそのままこちらへ来ます。
また、連絡しますね」

「だからそんな無理をしなくても……」

「私が可愛い鹿乃子さんに、一分、一秒でも早く会いたいだけなので」

……うん。
だんだん、心配するのが虚しくなってきた……。

改札の前で今日も、彼は私の手を握ったまま立っている。

「このまま、可愛い鹿乃子さんも連れていけたらいいのに……」

手が引っ張られ、前回のことがあるから踏ん張った。
けれど三橋さんの方が力が強く、結局その胸に飛び込まさせられる。

「早ければ今晩にはもう会えるのはわかっているのに、こんなにも離れがたい」

ぎゅっ、と私を包み込んだ三橋さんからは今日、父と同じボディソープのにおいがした。

「……愛してる、鹿乃子」

三橋さんの手が、私の顎を持ち上げる。
ゆっくりと顔が近づいてきて、え、まさかキスする気!? と怖くなって目を閉じた。

「じゃあ、また、夜」

するりと名残惜しそうに私の頬を撫で、彼が改札の向こうへと消えていく。

「……キス、しないんだ」

そっと、自分の額を押さえる。
三橋さんの唇が触れたのは、額だった。

「帰って仕事、しよ」

あの人は強引に押してくる癖に、こういうところは一線を越えない。
それはどこか、安心できたし嬉しかった。
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