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第6章 差出人無記名の手紙
6-1 TLノベル作家失格
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【彼と初めてのクリスマス。
最初はいい雰囲気だったけど、プレゼントのことで喧嘩した。
なんで彼が怒っているのか、私にはわからない。
TLノベル作家、失格だ……。
#彼の日#彼ごはん#初めてのクリスマス#最悪のクリスマス#ごめんねダーリン#ごめんなさい】
シェアボタンを押し、そのまま画面を見つめる。
すぐにピコンピコンと通知音が鳴り出し、いいねとどうでもいいコメントがついていく。
けれど。
待っている人からのコメントはおろか、いいねもつかない。
「やっぱり怒ってるんだよね……」
はぁーっ、重いため息が口から落ちた。
いつもなら、【喜んでもらえて嬉しいよ】なんてコメントがすぐにつくのだ。
――松岡くんから。
ニャンスタを捕捉されてあまつさえフォローまでされたときは戦々恐々とした。
でも、毎回つけてくれるコメントが嬉しくなってきて。
最近ではそれを見るだけで幸せな気持ちになれた。
なのに――今日はいつまでたってもコメントはつかない。
「もしかしたら、まだ帰ってないだけかも……」
無理矢理にコメントがつかない理由を考えてみる。
しかし一晩中携帯を握りしめて待っていても、松岡くんからのコメントはなかった。
「……」
松岡くんの顔を見るけれど無視された。
「……はぁーっ」
ため息をついてとぼとぼと仕事部屋へと引っ込む。
これ以上、茶の間にいて無視され続けるのはつらい。
イブの三日後である月曜日、松岡くんは今年最後の仕事には来てくれたけれど……お茶すら淹れてくれなかった。
……まだ怒ってるんだ。
三日もたてばもしかしたら、そんな淡い期待は音を立てて崩れ去っていく。
自分の行動が彼を怒らせたのだとわかるものの、なにが悪かったのかさっぱりわからない。
この間、取材を受けた『シェイクス』の記事では〝恋愛のプロ〟なんて文字が躍っていたが、私はこんなことすらわからない。
いままで自分が書いてきたものがいかに薄っぺらなものだったかわかる。
なにがこれでプロのTLノベル作家だ。
完全に自信は失っていたし、現実逃避に執筆しようとしても、一字も書けなかった。
「どうしたらいいんだろう……」
開けた引き出しの中には松岡くんから突っ返された財布が入っている。
あの日、ああなる前までは最高に幸せだったのだ。
なのになんで、こんなことになっているんだろう。
「食事の支度ができました」
「あ、はい!」
声をかけられて慌てて返事をする。
が、松岡くんはさっさと台所に戻っていった。
「……いただきます」
気まずいまま、夕食を食べた。
今日は肉じゃがだったが、妙にジャガイモが喉に詰まる。
食べながらなおも必死に、どうしたらいいのか考えた。
今日を逃したら年末年始で次に会えるのは十一日後だ。
「松岡くん。
その……」
「なんですか」
こっちは勇気を出して声をかけたのに、冷ややかな視線で見下ろされ、びくんと身が竦む。
「……ご飯、お代わり」
正直、食欲なんて全くない。
「……ありがとう」
無言で差し出されたお茶碗を受け取り、もそもそとご飯を口に運ぶ。
また泣いたら面倒くさい女だと思われるとわかっていながら、涙がじわじわと滲んでくる。
とうとう耐えられなくなって、慌ててずっと鼻を啜ってごまかした。
「……はぁーっ」
松岡くんの口から大きなため息が落ち、顔を上げる。
瞬間、目のあった彼は困ったように笑った。
「なんで俺が怒ってるのか、わかったのかよ」
「……わかんない」
わからないからどうしていいのかわからなくて、いまだにうじうじ悩んでいる。
「ほんとにそれで、TLノベル作家かよ」
「……自分でもそう思う」
わかっているだけにここ三日、ずっとヘコんでいるんだし。
「もし俺が他の女からもらったものを、お前の前で身につけていたらどう思うよ?」
「……気に入ったのかな、って」
はぁーっ、あきれたように松岡くんがため息をついた。
「じゃあ、俺に気のある女からもらったものを使っていたらどうするよ?」
「……立川さんはそんなんじゃないし」
「いいから」
渋々、だけど想像してみる。
松岡くんを狙っている女性からもらったものを、彼が使っているとしたら……。
「……いや。……かも」
なんだかそんなプレゼント自体、私のものだってマーキングされているみたいで嫌だ。
それをさらに、松岡くんが使っているとなると。
「かも、かよ。
ま、いいや。
そういうこと」
松岡くんはやっぱり、困ったように笑っているけれど。
「でも、立川さんが私に気があるとかありえないし……」
「男が女にネックレスを贈る意味、調べたか」
そんなの、調べようとすら思わなかった。
「俺のものってマーキングの意味がある。
しかもあれは意味深に鍵モチーフだったし」
松岡くんのポケットからあの日、持って帰ってしまったペンダントが出てくる。
「あとは束縛したいって意味。
犬の首輪と一緒」
松岡くんの手が私の背中に回り、カチリとペンダントの金具を留めた。
「俺の考えすぎでただ単に、女性にウケがよくて気軽に贈りやすいもの、だったのかもしれんけど。
それでも紅夏の首に初めてつけるネックレスは俺が贈りたい、って思ってたのに、他の男が贈ったのが先についてるって俺がどれだけ、ショックだったかわかる?」
「……ごめん」
ようやく、だけど、松岡くんが怒っていた理由を理解した。
こんなこともわからない私はやっぱり、TL小説家なんて失格だ。
――なんて思いつつ、ネックレスを贈る意味はいつか使おうと、しっかり心のメモに書き留めておいたけど。
「あれはもう、最低でも俺が仮彼氏の間は二度と使うなよ」
「わかった。
……ところで。
このペンダントの意味は?」
私の胸にはハートのモチーフが揺れている。
「さあな」
右頬だけ歪めてにやりと、松岡くんは笑った。
「それでは本日はこれで失礼いたします。
次回は一月七日、金曜日に参ります」
「はい、ご苦労様でした」
今日はセバスチャンを抱いてお見送り。
十一日も先なんて待ち長い、なんて思っていたけれど。
「……一日、おせちの差し入れに来る。
ついでに初詣に行こう」
「……うん」
ちゅっと額に口付けしそんなことを言われたらもう、天にも昇りそうなくらい嬉しかった。
最初はいい雰囲気だったけど、プレゼントのことで喧嘩した。
なんで彼が怒っているのか、私にはわからない。
TLノベル作家、失格だ……。
#彼の日#彼ごはん#初めてのクリスマス#最悪のクリスマス#ごめんねダーリン#ごめんなさい】
シェアボタンを押し、そのまま画面を見つめる。
すぐにピコンピコンと通知音が鳴り出し、いいねとどうでもいいコメントがついていく。
けれど。
待っている人からのコメントはおろか、いいねもつかない。
「やっぱり怒ってるんだよね……」
はぁーっ、重いため息が口から落ちた。
いつもなら、【喜んでもらえて嬉しいよ】なんてコメントがすぐにつくのだ。
――松岡くんから。
ニャンスタを捕捉されてあまつさえフォローまでされたときは戦々恐々とした。
でも、毎回つけてくれるコメントが嬉しくなってきて。
最近ではそれを見るだけで幸せな気持ちになれた。
なのに――今日はいつまでたってもコメントはつかない。
「もしかしたら、まだ帰ってないだけかも……」
無理矢理にコメントがつかない理由を考えてみる。
しかし一晩中携帯を握りしめて待っていても、松岡くんからのコメントはなかった。
「……」
松岡くんの顔を見るけれど無視された。
「……はぁーっ」
ため息をついてとぼとぼと仕事部屋へと引っ込む。
これ以上、茶の間にいて無視され続けるのはつらい。
イブの三日後である月曜日、松岡くんは今年最後の仕事には来てくれたけれど……お茶すら淹れてくれなかった。
……まだ怒ってるんだ。
三日もたてばもしかしたら、そんな淡い期待は音を立てて崩れ去っていく。
自分の行動が彼を怒らせたのだとわかるものの、なにが悪かったのかさっぱりわからない。
この間、取材を受けた『シェイクス』の記事では〝恋愛のプロ〟なんて文字が躍っていたが、私はこんなことすらわからない。
いままで自分が書いてきたものがいかに薄っぺらなものだったかわかる。
なにがこれでプロのTLノベル作家だ。
完全に自信は失っていたし、現実逃避に執筆しようとしても、一字も書けなかった。
「どうしたらいいんだろう……」
開けた引き出しの中には松岡くんから突っ返された財布が入っている。
あの日、ああなる前までは最高に幸せだったのだ。
なのになんで、こんなことになっているんだろう。
「食事の支度ができました」
「あ、はい!」
声をかけられて慌てて返事をする。
が、松岡くんはさっさと台所に戻っていった。
「……いただきます」
気まずいまま、夕食を食べた。
今日は肉じゃがだったが、妙にジャガイモが喉に詰まる。
食べながらなおも必死に、どうしたらいいのか考えた。
今日を逃したら年末年始で次に会えるのは十一日後だ。
「松岡くん。
その……」
「なんですか」
こっちは勇気を出して声をかけたのに、冷ややかな視線で見下ろされ、びくんと身が竦む。
「……ご飯、お代わり」
正直、食欲なんて全くない。
「……ありがとう」
無言で差し出されたお茶碗を受け取り、もそもそとご飯を口に運ぶ。
また泣いたら面倒くさい女だと思われるとわかっていながら、涙がじわじわと滲んでくる。
とうとう耐えられなくなって、慌ててずっと鼻を啜ってごまかした。
「……はぁーっ」
松岡くんの口から大きなため息が落ち、顔を上げる。
瞬間、目のあった彼は困ったように笑った。
「なんで俺が怒ってるのか、わかったのかよ」
「……わかんない」
わからないからどうしていいのかわからなくて、いまだにうじうじ悩んでいる。
「ほんとにそれで、TLノベル作家かよ」
「……自分でもそう思う」
わかっているだけにここ三日、ずっとヘコんでいるんだし。
「もし俺が他の女からもらったものを、お前の前で身につけていたらどう思うよ?」
「……気に入ったのかな、って」
はぁーっ、あきれたように松岡くんがため息をついた。
「じゃあ、俺に気のある女からもらったものを使っていたらどうするよ?」
「……立川さんはそんなんじゃないし」
「いいから」
渋々、だけど想像してみる。
松岡くんを狙っている女性からもらったものを、彼が使っているとしたら……。
「……いや。……かも」
なんだかそんなプレゼント自体、私のものだってマーキングされているみたいで嫌だ。
それをさらに、松岡くんが使っているとなると。
「かも、かよ。
ま、いいや。
そういうこと」
松岡くんはやっぱり、困ったように笑っているけれど。
「でも、立川さんが私に気があるとかありえないし……」
「男が女にネックレスを贈る意味、調べたか」
そんなの、調べようとすら思わなかった。
「俺のものってマーキングの意味がある。
しかもあれは意味深に鍵モチーフだったし」
松岡くんのポケットからあの日、持って帰ってしまったペンダントが出てくる。
「あとは束縛したいって意味。
犬の首輪と一緒」
松岡くんの手が私の背中に回り、カチリとペンダントの金具を留めた。
「俺の考えすぎでただ単に、女性にウケがよくて気軽に贈りやすいもの、だったのかもしれんけど。
それでも紅夏の首に初めてつけるネックレスは俺が贈りたい、って思ってたのに、他の男が贈ったのが先についてるって俺がどれだけ、ショックだったかわかる?」
「……ごめん」
ようやく、だけど、松岡くんが怒っていた理由を理解した。
こんなこともわからない私はやっぱり、TL小説家なんて失格だ。
――なんて思いつつ、ネックレスを贈る意味はいつか使おうと、しっかり心のメモに書き留めておいたけど。
「あれはもう、最低でも俺が仮彼氏の間は二度と使うなよ」
「わかった。
……ところで。
このペンダントの意味は?」
私の胸にはハートのモチーフが揺れている。
「さあな」
右頬だけ歪めてにやりと、松岡くんは笑った。
「それでは本日はこれで失礼いたします。
次回は一月七日、金曜日に参ります」
「はい、ご苦労様でした」
今日はセバスチャンを抱いてお見送り。
十一日も先なんて待ち長い、なんて思っていたけれど。
「……一日、おせちの差し入れに来る。
ついでに初詣に行こう」
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