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第6章 差出人無記名の手紙
6-5 家政夫執事のハイテンション
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今日のアフタヌーンティは豪華だった。
定番のサンドイッチとスコーン。
それにパイとチョコレートケーキにイチゴのタルトとスイーツ三種類盛り。
さらに美しくカットされたフルーツが盛られている。
「どうしたの?」
「たまにはこんな日があってもよろしいのではないでしょうか」
紅茶を注ぎながら僅かに松岡くんは早口だ。
「……うん」
もしかして、私に会えるのが嬉しかった……?
そう気づくと、にやける顔を止められない。
知られたくなくて俯いて紅茶を口に運んだ。
「……美味しい」
長い休みの間、何度かチャレンジしてみたけれど、やはりこんなに美味しくはならなかった。
同じお茶っ葉のはずなのに不思議だ。
「それはよかったです」
黙って食べたサンドイッチは変わらず美味しかった。
スコーンもしっとりさくさくだし。
けれどスイーツ三つにフルーツはお腹に厳しい……。
「……これって残しておいてあとで食べられる?」
もし、捨てなきゃいけないっていうのなら、無理して食べちゃうけど。
「ああ、申し訳ございません!
こちらと、こちらは冷凍保存できますので大丈夫です」
「わかった」
やっと、私のお腹には厳しい量だと気づいたようで、松岡くんは恐縮しきってしまった。
でも、テンション上がってたくさん作ってきてくれたのは嬉しいんだよ?
けれど、それをうまく伝えるすべを持たない自分がもどかしい。
冷凍できるっていうチョコレートケーキとパイを残し、フルーツとイチゴのタルトを食べる。
フルーツは食べるのがもったいないほどきれいにカットされていたし、タルトも某有名店よりも絶対にこっちが美味しい。
「では、残りは冷凍保存しておきます」
まだ松岡くんは落ち込んでいる。
そんなに落ち込まなくていいんだけどな。
「うん。
……松岡くん」
彼の肩に手をのせ、その頬にそっと……口付けした。
「……ありがとう。
嬉しかった」
我ながら大胆な行動に、松岡くんの顔を見られない。
俯いた視界に見える自分の手は、指先まできれいに赤く染まっていた。
「……可愛い」
ぼそりと呟かれ、顔を上げる。
松岡くんは口もとを手で隠して、ぷるぷる震えていた。
「可愛い、紅夏」
今度は彼の手が私の肩にのり、ゆっくりと傾きながら顔が近づいてくる。
その後の展開に気づき、怖くなって目を閉じた……。
――ちゅっ。
彼の唇が触れて離れる。
おそるおそるまぶたを開けると、おかしそうに笑っている松岡くんの顔が見えた。
「ばーか。
唇にでもすると思ったか」
彼が口付けを落としたのは私の――鼻、だった。
「お子様の紅夏にはそれで十分だ」
「……ひど」
ちゃんと唇にしてほしかった、そんなことを考えている自分を慌てて否定する。
松岡くんは私が本当に好きな人じゃない。
仮の彼氏だ。
――仮、の。
「掃除をいたしますので仕事部屋にご移動願えますか、ご主人様?」
「はいはい」
わざとらしく彼がお辞儀をし、私も苦笑いで仕事部屋へ移動する。
けれどどきどきと速い心臓の鼓動はごまかせない。
本当はうすうす気づいている。
でも私は気づかないふりをした。
認めてしまうのが――酷く怖かったから。
デジタルメモを立ち上げ、例のプロットにいまの気持ちを反映させる。
恋に苦悩する彼女は私そのものだ。
「私の、気持ち……」
ずっとごまかし続けるなんてできない。
きっとこの小説を書き上げれば、自分の気持ちがはっきりする。
いつも以上に私は、小説の中へ没頭していった。
「郵便が届いております」
「あ、うん」
松岡くんの声で、現実に引き戻される。
郵便、ということはまたあれが届いているのかな……。
受け取った束の中にはまた、例の茶封筒が入っていた。
「……はぁーっ」
無意識に、口から大きなため息が落ちる。
「どうかなさいましたか」
心配そうに眉をひそめて聞いてくる松岡くんへ、封筒を渡す。
「……お正月から毎日届くの」
「開けてもよろしいですか」
私がうなずくと、机の上のペン立てからはさみを抜いて彼は封を切った。
中から出てきたのはいつも通り、A4用紙一枚。
「……酷くなってねーか、これ」
「え?」
渡された紙を受け取る。
10ptMS明朝は変わっていなかったが、内容と色が変わっていた。
今日、一面に打ち出されていたのは赤で〝殺す〟という文字。
「なに、これ……」
手の中からはらはらと紙が落ちていく。
恐怖で震える身体を両手で抱きしめたって、震えは止まらない。
「紅夏」
ぎゅっと、松岡くんに抱きしめられた。
それでもまだ、身体はがたがたと震え続ける。
「警察、行くか」
――警察?
ああ、それもひとつの手かもしれない。
……けれど。
「来週、立川さんに会うから相談してみる」
びくん、と背中の松岡くんの手が跳ねた。
「……なんで立川なんだ?」
松岡くんの声がワントーン低くなり、今度は私の身体がびくんと揺れる。
「そ、その。
前に桃谷さんから作家に対する嫌がらせが相次いでいるからって注意されたから」
「……ならなんで、桃谷じゃねーんだ」
「同じ出版社だから事情は知っていると思うし。
わざわざ忙しい桃谷さんに相談しなくても来週、立川さんに会う……から」
私を抱きしめる松岡くんの手が痛い。
彼が怒っているのはわかるが、なんで怒っているのか全くわからない。
「仕事の一環なんだよな」
「そう、だね」
「わかった。
けど、条件がある」
私を身体から離し、松岡くんがじっと見つめてくる。
「このペンダント、絶対につけていくこと」
彼の手がチャリッとハートのペンダントトップを揺らした。
「紅夏に手、出されたら困る」
にやりと右頬だけを歪めて笑い、白い歯が僅かに覗く。
私はただ呆然と、それを見ていた。
定番のサンドイッチとスコーン。
それにパイとチョコレートケーキにイチゴのタルトとスイーツ三種類盛り。
さらに美しくカットされたフルーツが盛られている。
「どうしたの?」
「たまにはこんな日があってもよろしいのではないでしょうか」
紅茶を注ぎながら僅かに松岡くんは早口だ。
「……うん」
もしかして、私に会えるのが嬉しかった……?
そう気づくと、にやける顔を止められない。
知られたくなくて俯いて紅茶を口に運んだ。
「……美味しい」
長い休みの間、何度かチャレンジしてみたけれど、やはりこんなに美味しくはならなかった。
同じお茶っ葉のはずなのに不思議だ。
「それはよかったです」
黙って食べたサンドイッチは変わらず美味しかった。
スコーンもしっとりさくさくだし。
けれどスイーツ三つにフルーツはお腹に厳しい……。
「……これって残しておいてあとで食べられる?」
もし、捨てなきゃいけないっていうのなら、無理して食べちゃうけど。
「ああ、申し訳ございません!
こちらと、こちらは冷凍保存できますので大丈夫です」
「わかった」
やっと、私のお腹には厳しい量だと気づいたようで、松岡くんは恐縮しきってしまった。
でも、テンション上がってたくさん作ってきてくれたのは嬉しいんだよ?
けれど、それをうまく伝えるすべを持たない自分がもどかしい。
冷凍できるっていうチョコレートケーキとパイを残し、フルーツとイチゴのタルトを食べる。
フルーツは食べるのがもったいないほどきれいにカットされていたし、タルトも某有名店よりも絶対にこっちが美味しい。
「では、残りは冷凍保存しておきます」
まだ松岡くんは落ち込んでいる。
そんなに落ち込まなくていいんだけどな。
「うん。
……松岡くん」
彼の肩に手をのせ、その頬にそっと……口付けした。
「……ありがとう。
嬉しかった」
我ながら大胆な行動に、松岡くんの顔を見られない。
俯いた視界に見える自分の手は、指先まできれいに赤く染まっていた。
「……可愛い」
ぼそりと呟かれ、顔を上げる。
松岡くんは口もとを手で隠して、ぷるぷる震えていた。
「可愛い、紅夏」
今度は彼の手が私の肩にのり、ゆっくりと傾きながら顔が近づいてくる。
その後の展開に気づき、怖くなって目を閉じた……。
――ちゅっ。
彼の唇が触れて離れる。
おそるおそるまぶたを開けると、おかしそうに笑っている松岡くんの顔が見えた。
「ばーか。
唇にでもすると思ったか」
彼が口付けを落としたのは私の――鼻、だった。
「お子様の紅夏にはそれで十分だ」
「……ひど」
ちゃんと唇にしてほしかった、そんなことを考えている自分を慌てて否定する。
松岡くんは私が本当に好きな人じゃない。
仮の彼氏だ。
――仮、の。
「掃除をいたしますので仕事部屋にご移動願えますか、ご主人様?」
「はいはい」
わざとらしく彼がお辞儀をし、私も苦笑いで仕事部屋へ移動する。
けれどどきどきと速い心臓の鼓動はごまかせない。
本当はうすうす気づいている。
でも私は気づかないふりをした。
認めてしまうのが――酷く怖かったから。
デジタルメモを立ち上げ、例のプロットにいまの気持ちを反映させる。
恋に苦悩する彼女は私そのものだ。
「私の、気持ち……」
ずっとごまかし続けるなんてできない。
きっとこの小説を書き上げれば、自分の気持ちがはっきりする。
いつも以上に私は、小説の中へ没頭していった。
「郵便が届いております」
「あ、うん」
松岡くんの声で、現実に引き戻される。
郵便、ということはまたあれが届いているのかな……。
受け取った束の中にはまた、例の茶封筒が入っていた。
「……はぁーっ」
無意識に、口から大きなため息が落ちる。
「どうかなさいましたか」
心配そうに眉をひそめて聞いてくる松岡くんへ、封筒を渡す。
「……お正月から毎日届くの」
「開けてもよろしいですか」
私がうなずくと、机の上のペン立てからはさみを抜いて彼は封を切った。
中から出てきたのはいつも通り、A4用紙一枚。
「……酷くなってねーか、これ」
「え?」
渡された紙を受け取る。
10ptMS明朝は変わっていなかったが、内容と色が変わっていた。
今日、一面に打ち出されていたのは赤で〝殺す〟という文字。
「なに、これ……」
手の中からはらはらと紙が落ちていく。
恐怖で震える身体を両手で抱きしめたって、震えは止まらない。
「紅夏」
ぎゅっと、松岡くんに抱きしめられた。
それでもまだ、身体はがたがたと震え続ける。
「警察、行くか」
――警察?
ああ、それもひとつの手かもしれない。
……けれど。
「来週、立川さんに会うから相談してみる」
びくん、と背中の松岡くんの手が跳ねた。
「……なんで立川なんだ?」
松岡くんの声がワントーン低くなり、今度は私の身体がびくんと揺れる。
「そ、その。
前に桃谷さんから作家に対する嫌がらせが相次いでいるからって注意されたから」
「……ならなんで、桃谷じゃねーんだ」
「同じ出版社だから事情は知っていると思うし。
わざわざ忙しい桃谷さんに相談しなくても来週、立川さんに会う……から」
私を抱きしめる松岡くんの手が痛い。
彼が怒っているのはわかるが、なんで怒っているのか全くわからない。
「仕事の一環なんだよな」
「そう、だね」
「わかった。
けど、条件がある」
私を身体から離し、松岡くんがじっと見つめてくる。
「このペンダント、絶対につけていくこと」
彼の手がチャリッとハートのペンダントトップを揺らした。
「紅夏に手、出されたら困る」
にやりと右頬だけを歪めて笑い、白い歯が僅かに覗く。
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