家政夫執事と恋愛レッスン!?~初恋は脅迫状とともに~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第8章 ずっと一緒にいられる方法

8-1 猫に嫌われる運命の人は前世でなにかしたのか

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 翌日の土曜日、なぜか――立川さんは我が家にいた。

「なんか、すみません」

「こちらこそ、わざわざすみません」

 立川さんは恐縮しきっているけれど、呼んだのは私の方だ。
 こういう話だから、なるべく人には聞かれたくない。
 いろいろ考えた結果、面倒だから家に来てもらったというわけだ。

「それで。
拝見、させていただいてよろしいですか」

「お願いします」

 昨日の手紙と一緒に、封を切っていない封筒も一緒に渡す。
 かなり皺の寄ってしまったそれを見て、立川さんの顔色がさっと変わった。

「酷いですね、これ。
さぞショックだったでしょう」

「……はい」

 これを見たとき、松岡くんがいてくれたからそれほど取り乱さずにすんだのだと思う。
 もし頼る人が誰もいなかったらきっと、パニックになっていただろう。

「お預かりした手紙、社の人間にも見せたんですが、やはり例の嫌がらせ犯と同一人物だろうということでした。
警察にも届けたんですが、手がかりがないようで……」

 どこにでもある紙、どこにでもある封筒。
 家庭用プリンタだって、一般的に広く普及している。
 そして一般的なMS明朝の文字。
 そんな目立った特徴のないものたちから人物を特定するなんて、砂浜の中から一粒の極小ビーズを見つけだすほど難しいだろう。

「そうですか……」

 はぁーっと思わず、ため息が漏れる。

「そんな落ち込んだ顔、しないでください!
いや、これで元気を出せっていう方が難しいのはわかっているんですが……」

 がっくりと肩を落とした立川さんの口からも、はぁーっとため息が落ちた。

「とにかくいま、犯人を見つけだそうと皆、躍起になっています。
社内では奨金も出たほどです。
遠からず、捕まりますよ」

「そうですね」

 無理にでも笑ってみる。
こんな卑劣な嫌がらせをする人に、屈したくない。

「だから、心配しないでください。
……なんて断言できたらいいんですけどね」

 すっかり立川さんは恐縮しきっているが、悪いのは犯人で立川さんじゃない。

 その後、淹れたお茶を飲みながら、作品の話を少ししたりした。

「あの。
こんなときになんなんですが。
……あれが噂のセバスチャンですか」

 ちらっ、ちらっと、立川さんの視線がセバスチャンへと向かっている。
 猫好きとしてはたまらないのだろう。

「はい。
……セバスチャン、おいでー」

「ふーっ!」

 いつもだって呼んですぐ来る、なんてことはないが、こんなに毛を逆立てて警戒することもない。

「どうしたの?」

「シャーッ!」

 そっと手を出したら、さらに警戒された。
 視線の先にいるのは……立川さん?

やっぱり僕、猫から嫌われる運命なんですね……」

 はははっ、と力なく立川さんの口から笑いが落ちる。

「いつもはこんなこと、ないんですけど……」

 セバスチャンは人懐っこい。
 たまに来る、宅配のお兄さんにもすり寄っているくらいだ。

「そうだ、おやつあげてみたら!」

 大好きなおやつを持ってきて、目の前に出してみた。

「セバスチャン、おやつだよー」

「シャーッ!」

 いつもなら目の色を変えて飛びつくおやつなのに、今日は警戒を解こうとしない。

「大藤先生、無理しないでいいですよ。
もう、仕方がないことだから」

「すみません、なんか」

 本当にセバスチャンはどうしてしまったのだろう。
 こんなことは初めてで、戸惑ってしまう。

「僕いったい、猫になにをしたんだろう……?」

 すっかり立川さんは落ち込んでしまった。
 こんなに猫に嫌われるなんて、前世でなにかしたんだろうか。


「本当にすみません。
お役に立てなくて」

「いえ、立川さんのせいじゃないので」

 玄関まで立川さんを見送った。

「じゃあ、またなにかあったら連絡ください」

「はい、お休みの日にわざわざすみません」

「作家を守るのは編集の仕事ですから」

 仕事として言っているのはわかっている。
 けれど立川さんから守るなんて言われると、ついつい頬を赤らめて「……はい」なんて言ってしまいそうだ。

「じゃあ、これで」

「本当にありがとうございました」

 立川さんが帰り、ぴしゃっと玄関が閉まった。

「やっぱり、王子様だよね……」

 頼もしくて当てになる。
 さらには優しげなまさしく王子といった風貌。

 ――いや、松岡くんが頼りならないなんてちっとも思っていないとも。

 ちゃんと、守るって言ってくれたし。

 でも、こう、包容力の差?
 やっぱり年の功なのか、それは断然、立川さんの方が上だし。
 あと、誰かさんみたいにドSじゃないから、意地悪なことは言わないし。

「にゃー」

 中へ戻ろうとしたら、セバスチャンが廊下へ出てきた。
 まるで立川さんが帰ったのを確認するかのように玄関をうろうろし、そのまま家の中のパトロールをはじめる。

「セバスチャーン。
なーんであんなに、立川さんが嫌いなの?」

 返事なんてないのがわかっていながら、それでも聞いてしまう。
 セバスチャンは一通り家の中を点検し、満足したのかこたつに潜り、丸くなって眠ってしまった。

「ほんと、なんでなんだろうね……?」

 猫の考えることは全く、理解ができない。
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