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第8章 ずっと一緒にいられる方法
8-2 あくまで執事な家政夫ですが(どやぁ)
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月曜日は当然、松岡くんがやってくる。
「本日もよろしくお願いいたします」
ちゅっ、頬に口付けを落とされるだけで、嬉しくて仕方ない。
「すぐにお茶にいたしますね」
「よろしく」
茶の間から台所でお茶の準備をしている松岡くんをぼーっと眺める。
なんだかそれが、幸せだなーなんて思っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
今日は玉子サンドとスコーン、それに抹茶のシフォンケーキ。
「小豆が入ってるんだ?」
シフォンケーキの断面には茶色い粒が見えている。
「はい」
「もしかして、小豆も煮たの?」
「はい、そうですが」
くいっと松岡くんが上げた眼鏡がきらりと光る。
うん、愚問だったね。
シフォンケーキは小豆が入っているからか、甘さ控えめだった。
そこがまた、いい。
「前から思ってたんだけどさ。
ケーキってワンホールで作るよね?
余ったのはどうするの?」
前から疑問だった。
私が食べる以外のケーキはどうするんだろうって。
きっと同じ日に伺うお宅には出しているんだろうけど、それでも半分くらいは余るはず。
「知り合いのカフェで販売しておりますが」
「へ?」
……お店で売っているの?
「こちらにお持ちするお菓子の類いは衛生上の問題や行政からの許可の関係で、知り合いのカフェで作らせていただいております。
というよりも、カフェのために作ったものの一部をお持ちしておりますね」
それってカフェ従業員とはいわないのかな。
「……松岡くんの本業ってなに?」
「私はあくまで執事な家政夫でございます」
くいっと眼鏡が上がり、にやっと右の口端が持ちがある。
そのどや顔に、きっといつか言おうと待っていた決め台詞なのだと気づいた。
……ヤバい、可愛すぎる!!!!!!!
「それに弊社は副業禁止ではないですし」
問題ないならいいかー。
いや待って。
ということは。
「松岡くんお手製のケーキが食べられる、お店があるってこと?」
しまった、そんな顔をしたっても遅い。
だって、聞いちゃったもん。
「……ありますね」
「それって、どこ?」
「教えません」
ぎゅーっと口を固く閉じ、松岡くんはそっぽを向いてしまった。
「ねー、どこ?
教えてー」
「……」
「食べに行きたいから、教えてー。
持ち帰りもできるんだったら、買って帰るしー」
「……」
「ねー」
「ああもう、うるさいな!」
私の肩を掴んだ、松岡くんの顔が一気に迫ってくる。
……えっ、ちょっと待って!
それって契約違反……!
「ばーか、するかと思ったか」
閉じていた目をおそるおそる開ける。
レンズ越しに目のあった松岡くんは、ぷにっと私の頬を摘まんだ。
「……痛い」
楽しそうにぷにぷに摘まんだ頬を揺らされたって、困る。
「毎回、ちゃんと持ってきてやってるからいいだろ。
ほかにも食べたいときがあるなら連絡しろ。
特別に届けてやる」
「……はい」
「よし」
満足げに笑って、松岡くんは手を離した。
「お茶のお代わりはいりますか」
「もらう」
執事モードへ戻った松岡くんへカップを差し出す。
――さっき、唇じゃなく、頬に触れた唇がせつないなんて……思って、ない。
お茶の後はいつも通り、仕事部屋にこもって仕事をする。
さっさといまの仕事を終わらせて、あれに手をつけたい。
いつも以上に集中して、キーを叩き続けた。
「郵便が届いております」
松岡くんの声で、ぴたりと手が止まる。
「……あれは、ある?」
「残念ながら、二通」
松岡くんが二通の茶封筒を私の目の前に差し出し、はぁーっともう、ため息しか出ない。
「一応、中を確認するよ」
「私が」
止めようとした松岡くんを制して自分で開ける。
これは自分の問題なのだ。
いつまでも松岡くんに頼り切って怯えていてもしょうがない。
少しは、強くならないと。
中から出てきた紙にはこの間と同じで、シェイクスからコピーした私の画像に真っ赤な線が一本。
「誰がこんなこと、やってるんだろうね……」
犯人に少しは届けばいいと、封筒を睨みつける。
「大丈夫だ、紅夏は絶対に俺が守る」
「……うん」
松岡くんにぎゅっとされると安心できた。
「それで、立川はなんて言っていたんだ?」
松岡くんの声が、少し重い。
きっと、いままで聞くタイミングを探していたのだろう。
「いまのところ特になにもできない、って」
「……役立たず」
ぼそっと呟いた松岡くんの声は酷く冷たくて、背中がびくんと大きく震える。
「で、でも出版社では犯人捜しに躍起になってて、奨金まで出たらしいよ」
慌ててフォローしてみたけれど、どうなんだろう?
「へー。
それって俺が捕まえても奨金出るのかな」
私の身体を離した松岡くんが、右頬だけを歪めて笑う。
もしかして、捕まえる気ですか?
「ど、どうだろう……ね」
「どっちにしても紅夏に危害を加える奴は許しておけないからな」
完全に私から離れた松岡くんは、私のあたまを軽くぽんぽんした。
「……年下のくせに子供扱い」
ぶーっと唇を尖らせてみたものの。
「だって紅夏は精神年齢、俺より下だろ」
にやっと笑った松岡くんへ、手近にあった資料の本を投げつける。
「そんだけ元気がありゃいいよな。
……では、食事の支度をして参りますので」
慇懃にお礼をして松岡くんは部屋を出て行った。
「なんでいつも、あんなに意地悪なんだろう」
でもおかげで、暗くなりそうな気持ちは持ち直した。
もしかして、それが狙いだったのかな……?
「本日もよろしくお願いいたします」
ちゅっ、頬に口付けを落とされるだけで、嬉しくて仕方ない。
「すぐにお茶にいたしますね」
「よろしく」
茶の間から台所でお茶の準備をしている松岡くんをぼーっと眺める。
なんだかそれが、幸せだなーなんて思っていた。
「どうぞ」
「ありがとう」
今日は玉子サンドとスコーン、それに抹茶のシフォンケーキ。
「小豆が入ってるんだ?」
シフォンケーキの断面には茶色い粒が見えている。
「はい」
「もしかして、小豆も煮たの?」
「はい、そうですが」
くいっと松岡くんが上げた眼鏡がきらりと光る。
うん、愚問だったね。
シフォンケーキは小豆が入っているからか、甘さ控えめだった。
そこがまた、いい。
「前から思ってたんだけどさ。
ケーキってワンホールで作るよね?
余ったのはどうするの?」
前から疑問だった。
私が食べる以外のケーキはどうするんだろうって。
きっと同じ日に伺うお宅には出しているんだろうけど、それでも半分くらいは余るはず。
「知り合いのカフェで販売しておりますが」
「へ?」
……お店で売っているの?
「こちらにお持ちするお菓子の類いは衛生上の問題や行政からの許可の関係で、知り合いのカフェで作らせていただいております。
というよりも、カフェのために作ったものの一部をお持ちしておりますね」
それってカフェ従業員とはいわないのかな。
「……松岡くんの本業ってなに?」
「私はあくまで執事な家政夫でございます」
くいっと眼鏡が上がり、にやっと右の口端が持ちがある。
そのどや顔に、きっといつか言おうと待っていた決め台詞なのだと気づいた。
……ヤバい、可愛すぎる!!!!!!!
「それに弊社は副業禁止ではないですし」
問題ないならいいかー。
いや待って。
ということは。
「松岡くんお手製のケーキが食べられる、お店があるってこと?」
しまった、そんな顔をしたっても遅い。
だって、聞いちゃったもん。
「……ありますね」
「それって、どこ?」
「教えません」
ぎゅーっと口を固く閉じ、松岡くんはそっぽを向いてしまった。
「ねー、どこ?
教えてー」
「……」
「食べに行きたいから、教えてー。
持ち帰りもできるんだったら、買って帰るしー」
「……」
「ねー」
「ああもう、うるさいな!」
私の肩を掴んだ、松岡くんの顔が一気に迫ってくる。
……えっ、ちょっと待って!
それって契約違反……!
「ばーか、するかと思ったか」
閉じていた目をおそるおそる開ける。
レンズ越しに目のあった松岡くんは、ぷにっと私の頬を摘まんだ。
「……痛い」
楽しそうにぷにぷに摘まんだ頬を揺らされたって、困る。
「毎回、ちゃんと持ってきてやってるからいいだろ。
ほかにも食べたいときがあるなら連絡しろ。
特別に届けてやる」
「……はい」
「よし」
満足げに笑って、松岡くんは手を離した。
「お茶のお代わりはいりますか」
「もらう」
執事モードへ戻った松岡くんへカップを差し出す。
――さっき、唇じゃなく、頬に触れた唇がせつないなんて……思って、ない。
お茶の後はいつも通り、仕事部屋にこもって仕事をする。
さっさといまの仕事を終わらせて、あれに手をつけたい。
いつも以上に集中して、キーを叩き続けた。
「郵便が届いております」
松岡くんの声で、ぴたりと手が止まる。
「……あれは、ある?」
「残念ながら、二通」
松岡くんが二通の茶封筒を私の目の前に差し出し、はぁーっともう、ため息しか出ない。
「一応、中を確認するよ」
「私が」
止めようとした松岡くんを制して自分で開ける。
これは自分の問題なのだ。
いつまでも松岡くんに頼り切って怯えていてもしょうがない。
少しは、強くならないと。
中から出てきた紙にはこの間と同じで、シェイクスからコピーした私の画像に真っ赤な線が一本。
「誰がこんなこと、やってるんだろうね……」
犯人に少しは届けばいいと、封筒を睨みつける。
「大丈夫だ、紅夏は絶対に俺が守る」
「……うん」
松岡くんにぎゅっとされると安心できた。
「それで、立川はなんて言っていたんだ?」
松岡くんの声が、少し重い。
きっと、いままで聞くタイミングを探していたのだろう。
「いまのところ特になにもできない、って」
「……役立たず」
ぼそっと呟いた松岡くんの声は酷く冷たくて、背中がびくんと大きく震える。
「で、でも出版社では犯人捜しに躍起になってて、奨金まで出たらしいよ」
慌ててフォローしてみたけれど、どうなんだろう?
「へー。
それって俺が捕まえても奨金出るのかな」
私の身体を離した松岡くんが、右頬だけを歪めて笑う。
もしかして、捕まえる気ですか?
「ど、どうだろう……ね」
「どっちにしても紅夏に危害を加える奴は許しておけないからな」
完全に私から離れた松岡くんは、私のあたまを軽くぽんぽんした。
「……年下のくせに子供扱い」
ぶーっと唇を尖らせてみたものの。
「だって紅夏は精神年齢、俺より下だろ」
にやっと笑った松岡くんへ、手近にあった資料の本を投げつける。
「そんだけ元気がありゃいいよな。
……では、食事の支度をして参りますので」
慇懃にお礼をして松岡くんは部屋を出て行った。
「なんでいつも、あんなに意地悪なんだろう」
でもおかげで、暗くなりそうな気持ちは持ち直した。
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