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第10章 猫を捕まえるのって流行ってるんですか
10-1 作家の指は傷つけていいものじゃない
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「寝てた!」
金曜日、がばっと勢いよく起きた場所は――ベッド。
「……あれ?」
机で前日と同じく、寝落ちたはずなのだ。
なのなんで、ベッド?
そういえば月曜日も目が覚めたら、ベッドだった……。
「松岡くん、ごめん。
寝てた」
「……おはようございます」
慌てて茶の間へ行く。
けれど松岡くんは私を無視するかのように台所へ行ってしまった。
「……うん、おはよう」
誰にでもなくそれだけ呟いて、洗面所で顔を洗う。
面倒になってきていた化粧も、松岡くんがいる日だからサボらずにちゃんとする。
もちろん仕上げはハートのペンダント。
「あの、仕事しているので、なにかあったら声かけて……クダサイ」
松岡くんはちらっとだけ私を見て作業を再開した。
はぁーっと思いため息をつき、とぼとぼと仕事部屋へ行く。
……まだ、怒ってるんだ。
なんだか少し、腹が立つ。
こっちだって立川さんなんてなんとも思っていないのだと説明したいのに、聞く耳持たないし。
そもそもあれだよ?
もう会うなとか、担当変えてもらえとか。
一方的に言ってきたのが悪いんじゃん。
椅子の上で膝を抱え、ぶーっと唇を尖らせた。
「にゃー」
私が起きたから遊んでもらえると思ったのか、セバスチャンが入ってくる。
捕まえて目線の高さまで持ち上げた。
「ねー、セバスチャンもそう思うよねー」
「なぁー」
セバスチャンの声は、低い。
「お前も松岡くんの味方か?
そうなのか?」
「なぁー」
額をくっつけてぐりぐりした。
セバスチャンは迷惑そうだけど。
「……郵便が届いております」
「はいっ!?」
思わずセバスチャンが手から落ちる。
セバスチャンは危なげなくシュタッと床に着地して部屋を出て行った。
「えっと……」
こわごわ振り返ると松岡くんと眼鏡越しに目があった。
真顔で立っていた彼はそのまま私の傍まで来て机の上に郵便の束を置き、部屋を出て行く。
「……だから」
いままでだったらあんな光景を目にしたら、くすっとか莫迦にするように小さく笑ったりしていたのだ。
あれはあれで腹が立ったが、そんな反応すらないのは悲しくなってくる。
「それで今日も来てるんだよねー」
郵便物を確認するが、ここ三週間くらい届いていた、大きめの厚い封筒はない。
が、薄い、前の封筒へ戻っていた。
「本を買う予算がなくなったのかな……?」
少しでも面白く考えてみる。
そうでもしないと憂鬱でしょうがない。
「いたっ!」
封を切って中身を出すと同時に指先に痛みが走った。
ぽたぽたと血が、床の上に落ちていく。
「えっ、なに……?」
身体ががたがたと震える。
人差し指と中指の先から、血がしたたり落ちていった。
「なに?
えっ、なに?
なんなの?」
あたまがうまく回らない。
どういうこと?
この血、なに?
血がどんどん流れ出て目の前が真っ暗になった。
「……にか。
紅夏!」
「まつ、おか……くん?」
のろのろと視線を上げた先に、酷く心配そうな松岡くんの顔が見えた。
けれど目があうとさっと逸らされる。
「ちょっと待っていてください」
部屋を出て行った松岡くんはすぐに、絆創膏とタオルを持って戻ってきた。
「指を」
「あ、……うん」
ずきずきと痛む右手を差し出す。
松岡くんは手に付いていた血を濡らしてきたタオルで拭い、傷を確認した。
「もう血も止まっていますし、大丈夫だと思います」
器用にくるくると私の指に絆創膏を巻いてくれる。
自分ではたくさん出たと思った血だけれど、ぽたぽたと落ちたから勘違いしたみたいだ。
「顔も」
「……ん」
血塗れの手で触ってしまった顔もタオルで拭いてくれる。
「それで。
今日の郵便はこれですか」
「……うん」
慎重に松岡くんは郵便を開いた。
「……カミソリの刃が仕込んである」
私に見せるように開かれた封筒の口にはカミソリの刃が貼り付けてあった。
中に入っていた紙には大きく赤で〝天誅〟の文字。
「……本気で、殺すつもりなのかな」
いままで、どうせ郵便を送ってくるだけで実際の被害はなにもないしと、高をくくっていた部分がなかったとはいえない。
けれど直接、こんなふうに危害を加えられると怖くなってくる。
「……俺が紅夏を殺させない」
そっと松岡くんの手が頬に触れ、まっすぐに私を見つめる。
「やっぱりこんなときに、意地張ってる場合じゃないよな」
彼が私の右手を掴み、持ち上げる。
「今日の郵便、俺が開ければよかった。
……作家の指にこんな、傷」
まるで慈しむようにちゅっと口付けを落とされた。
それだけで指先の痛みが止まる。
いまなら私の気持ちを聞いてもらえそうで口を開いた。
「あのね、そのね、立川さんはただの理想の王子様で、それで、ずっと王子様を夢見てきたから憧れで、でもただそれだけで、立川さんはきっといなくなっても、あーあ、いなくなっちゃった、残念だなーって思うだけで、でも松岡くんがいなくなったら私、悲しくて悲しくて生きていけなくなると思うの。
だから、その」
纏まりのない言葉が一気に溢れ出ていく。
話しても話しても、うまく伝わっているか自信がない。
「うん、わかった」
ぼすっといきなり、松岡くんに抱きしめられた。
温かいお日様みたいな匂いに包まれると泣きそうになる。
「だからね、そのね」
次第に、声が鼻声になっていく。
こらえきれなくなってずっと鼻を啜った。
「わかったから。
だいたい、精神年齢は俺の方が上なんだから、大人にならないとな」
「……なんか、酷い」
ずっ、もう一度、鼻を啜って松岡くんの胸に額を擦りつける。
「でも、松岡くんが……」
「あのさ」
せっかく人が勇気を振り絞ろうとしていたのに、遮られた。
むすっと唇を結んで彼を見上げる。
「なに?」
「立川には会うな」
「……また、その話?」
もそもそと松岡くんの腕から抜け出る。
そこまで私を拘束したいとかだったら、ヤダ。
「見たんだ、立川が猫を捕まえているところ」
「は?」
いやいやいや、松岡くんがなにを言っているのか、ちょっと理解できない。
「俺、ちょっと遠くの猫のたまり場まで足を伸ばすんだけどさ。
そこで、猫を捕まえてる男を見た。
保護かなんかかと思ったけど、袋に詰め込んで雑に扱ってて。
声かけようとしたらもう、車で走り去ったあとだった」
「それが、立川さんだっていうの?」
松岡くんが頷いた。
「そのあともちょくちょく、ほかの猫のたまり場とかでもそいつを見かけるようになった。
捕まえてた現場を見たのはあの一回だけだったけど」
「それで?」
それだけで会うなと言われても困る。
それに立川さんは猫好きだから、猫のたまり場にいたっておかしくない。
――捕まえていた、はわかんないけど。
「この間の本、付いていたのは猫の血だって言っていたよな?
だとしたらあいつが怪しい」
「いくらなんでも短絡的すぎない?」
仮に、立川さんが本当に、猫を捕まえていたとする。
でも、それだけで猫の血塗れの本を送ってきたのが立川さんだとは決めつけられない。
猫を捕まえるなんてそんなに難しくないはずだ。
そもそも、あんなに私によくしてくれる立川さんが、私へ嫌がらせをする動機がわからない。
「なんか、あいつの紅夏を見る目付きが気に入らない」
いや、それはただのヤキモチじゃないかい?
「紅夏に好意を持っているというよりも、こう、ねっとりと絡みつく……ああっ、うまく言えねー」
出てこない言葉をどうにかするように、彼はがしがしとあたまを掻いた。
「俺も紅夏みたいに小説家だったら、こんなときにぴったりの言葉が見つかるのにな」
困ったように笑った彼の口から、白い歯がのぞく。
「う、……うん」
なんだかそういう松岡くんが可愛くて、顔が熱くなってきた。
「とにかく。
ただ紅夏に好意を持ってるだけ、とかだったらいけ好かない奴だなとは思うけど、会うのを止めたりしない。
でもあいつが紅夏に持っている感情は絶対、そんなもんじゃねー。
だから紅夏にはあいつに、会わないでほしい」
真剣に松岡くんが私を見つめる。
言いたいことはわかるし、松岡くんが私を心配してくれているのもわかる。
が、彼のカンだけの話なので、信じろって言われても無理。
「ぜ、善処します」
「……信じてないのか」
じろっと松岡くんに眼鏡の奥から眼光鋭く睨まれ、びくんと身が竦む。
「し、信じてないわけじゃないけど……」
信じたいけれど、あの王子立川さんが嫌がらせの手紙を送っているとか。
さらには猫を捕まえて傷つけているだとか。
信じろっていう方が無理。
悪いけど、悪い魔法使いと一緒になってお姫様をいじめるのがぴったりなのは、松岡王子の方だし。
「……はぁーっ」
松岡くんがため息をつき、おそるおそる顔を上げる。
目があった彼は仕方ないな、とでもいうふうに笑った。
「確かに、急にこんな話、信じろって方が無理だよな。
証拠だってないし。
……わかった。
なら、この件が解決するまで、立川と会うのは俺がいるときにしろ。
わかったな?」
「……それ、ちょっと無理……」
立川さんにだって都合があるのだ。
それに毎回、うちまで来てもらうわけにもいかないし。
「はぁっ!?」
ぎろりんとまた松岡くんが睨んでくる。
「う、うん。
そうする。
……なるべく」
「なるべくぅ?」
松岡くんの声はドスがきいていて、ますます身が小さく縮こまる。
「はい、そうし、……マス」
なんで私は、松岡くんにこんなことをさせられなきゃいけないんだろうか。
ちょっと納得がいかない。
でも、松岡くんが私を守るのに必死なのはわかる。
だから、従うことにした。
金曜日、がばっと勢いよく起きた場所は――ベッド。
「……あれ?」
机で前日と同じく、寝落ちたはずなのだ。
なのなんで、ベッド?
そういえば月曜日も目が覚めたら、ベッドだった……。
「松岡くん、ごめん。
寝てた」
「……おはようございます」
慌てて茶の間へ行く。
けれど松岡くんは私を無視するかのように台所へ行ってしまった。
「……うん、おはよう」
誰にでもなくそれだけ呟いて、洗面所で顔を洗う。
面倒になってきていた化粧も、松岡くんがいる日だからサボらずにちゃんとする。
もちろん仕上げはハートのペンダント。
「あの、仕事しているので、なにかあったら声かけて……クダサイ」
松岡くんはちらっとだけ私を見て作業を再開した。
はぁーっと思いため息をつき、とぼとぼと仕事部屋へ行く。
……まだ、怒ってるんだ。
なんだか少し、腹が立つ。
こっちだって立川さんなんてなんとも思っていないのだと説明したいのに、聞く耳持たないし。
そもそもあれだよ?
もう会うなとか、担当変えてもらえとか。
一方的に言ってきたのが悪いんじゃん。
椅子の上で膝を抱え、ぶーっと唇を尖らせた。
「にゃー」
私が起きたから遊んでもらえると思ったのか、セバスチャンが入ってくる。
捕まえて目線の高さまで持ち上げた。
「ねー、セバスチャンもそう思うよねー」
「なぁー」
セバスチャンの声は、低い。
「お前も松岡くんの味方か?
そうなのか?」
「なぁー」
額をくっつけてぐりぐりした。
セバスチャンは迷惑そうだけど。
「……郵便が届いております」
「はいっ!?」
思わずセバスチャンが手から落ちる。
セバスチャンは危なげなくシュタッと床に着地して部屋を出て行った。
「えっと……」
こわごわ振り返ると松岡くんと眼鏡越しに目があった。
真顔で立っていた彼はそのまま私の傍まで来て机の上に郵便の束を置き、部屋を出て行く。
「……だから」
いままでだったらあんな光景を目にしたら、くすっとか莫迦にするように小さく笑ったりしていたのだ。
あれはあれで腹が立ったが、そんな反応すらないのは悲しくなってくる。
「それで今日も来てるんだよねー」
郵便物を確認するが、ここ三週間くらい届いていた、大きめの厚い封筒はない。
が、薄い、前の封筒へ戻っていた。
「本を買う予算がなくなったのかな……?」
少しでも面白く考えてみる。
そうでもしないと憂鬱でしょうがない。
「いたっ!」
封を切って中身を出すと同時に指先に痛みが走った。
ぽたぽたと血が、床の上に落ちていく。
「えっ、なに……?」
身体ががたがたと震える。
人差し指と中指の先から、血がしたたり落ちていった。
「なに?
えっ、なに?
なんなの?」
あたまがうまく回らない。
どういうこと?
この血、なに?
血がどんどん流れ出て目の前が真っ暗になった。
「……にか。
紅夏!」
「まつ、おか……くん?」
のろのろと視線を上げた先に、酷く心配そうな松岡くんの顔が見えた。
けれど目があうとさっと逸らされる。
「ちょっと待っていてください」
部屋を出て行った松岡くんはすぐに、絆創膏とタオルを持って戻ってきた。
「指を」
「あ、……うん」
ずきずきと痛む右手を差し出す。
松岡くんは手に付いていた血を濡らしてきたタオルで拭い、傷を確認した。
「もう血も止まっていますし、大丈夫だと思います」
器用にくるくると私の指に絆創膏を巻いてくれる。
自分ではたくさん出たと思った血だけれど、ぽたぽたと落ちたから勘違いしたみたいだ。
「顔も」
「……ん」
血塗れの手で触ってしまった顔もタオルで拭いてくれる。
「それで。
今日の郵便はこれですか」
「……うん」
慎重に松岡くんは郵便を開いた。
「……カミソリの刃が仕込んである」
私に見せるように開かれた封筒の口にはカミソリの刃が貼り付けてあった。
中に入っていた紙には大きく赤で〝天誅〟の文字。
「……本気で、殺すつもりなのかな」
いままで、どうせ郵便を送ってくるだけで実際の被害はなにもないしと、高をくくっていた部分がなかったとはいえない。
けれど直接、こんなふうに危害を加えられると怖くなってくる。
「……俺が紅夏を殺させない」
そっと松岡くんの手が頬に触れ、まっすぐに私を見つめる。
「やっぱりこんなときに、意地張ってる場合じゃないよな」
彼が私の右手を掴み、持ち上げる。
「今日の郵便、俺が開ければよかった。
……作家の指にこんな、傷」
まるで慈しむようにちゅっと口付けを落とされた。
それだけで指先の痛みが止まる。
いまなら私の気持ちを聞いてもらえそうで口を開いた。
「あのね、そのね、立川さんはただの理想の王子様で、それで、ずっと王子様を夢見てきたから憧れで、でもただそれだけで、立川さんはきっといなくなっても、あーあ、いなくなっちゃった、残念だなーって思うだけで、でも松岡くんがいなくなったら私、悲しくて悲しくて生きていけなくなると思うの。
だから、その」
纏まりのない言葉が一気に溢れ出ていく。
話しても話しても、うまく伝わっているか自信がない。
「うん、わかった」
ぼすっといきなり、松岡くんに抱きしめられた。
温かいお日様みたいな匂いに包まれると泣きそうになる。
「だからね、そのね」
次第に、声が鼻声になっていく。
こらえきれなくなってずっと鼻を啜った。
「わかったから。
だいたい、精神年齢は俺の方が上なんだから、大人にならないとな」
「……なんか、酷い」
ずっ、もう一度、鼻を啜って松岡くんの胸に額を擦りつける。
「でも、松岡くんが……」
「あのさ」
せっかく人が勇気を振り絞ろうとしていたのに、遮られた。
むすっと唇を結んで彼を見上げる。
「なに?」
「立川には会うな」
「……また、その話?」
もそもそと松岡くんの腕から抜け出る。
そこまで私を拘束したいとかだったら、ヤダ。
「見たんだ、立川が猫を捕まえているところ」
「は?」
いやいやいや、松岡くんがなにを言っているのか、ちょっと理解できない。
「俺、ちょっと遠くの猫のたまり場まで足を伸ばすんだけどさ。
そこで、猫を捕まえてる男を見た。
保護かなんかかと思ったけど、袋に詰め込んで雑に扱ってて。
声かけようとしたらもう、車で走り去ったあとだった」
「それが、立川さんだっていうの?」
松岡くんが頷いた。
「そのあともちょくちょく、ほかの猫のたまり場とかでもそいつを見かけるようになった。
捕まえてた現場を見たのはあの一回だけだったけど」
「それで?」
それだけで会うなと言われても困る。
それに立川さんは猫好きだから、猫のたまり場にいたっておかしくない。
――捕まえていた、はわかんないけど。
「この間の本、付いていたのは猫の血だって言っていたよな?
だとしたらあいつが怪しい」
「いくらなんでも短絡的すぎない?」
仮に、立川さんが本当に、猫を捕まえていたとする。
でも、それだけで猫の血塗れの本を送ってきたのが立川さんだとは決めつけられない。
猫を捕まえるなんてそんなに難しくないはずだ。
そもそも、あんなに私によくしてくれる立川さんが、私へ嫌がらせをする動機がわからない。
「なんか、あいつの紅夏を見る目付きが気に入らない」
いや、それはただのヤキモチじゃないかい?
「紅夏に好意を持っているというよりも、こう、ねっとりと絡みつく……ああっ、うまく言えねー」
出てこない言葉をどうにかするように、彼はがしがしとあたまを掻いた。
「俺も紅夏みたいに小説家だったら、こんなときにぴったりの言葉が見つかるのにな」
困ったように笑った彼の口から、白い歯がのぞく。
「う、……うん」
なんだかそういう松岡くんが可愛くて、顔が熱くなってきた。
「とにかく。
ただ紅夏に好意を持ってるだけ、とかだったらいけ好かない奴だなとは思うけど、会うのを止めたりしない。
でもあいつが紅夏に持っている感情は絶対、そんなもんじゃねー。
だから紅夏にはあいつに、会わないでほしい」
真剣に松岡くんが私を見つめる。
言いたいことはわかるし、松岡くんが私を心配してくれているのもわかる。
が、彼のカンだけの話なので、信じろって言われても無理。
「ぜ、善処します」
「……信じてないのか」
じろっと松岡くんに眼鏡の奥から眼光鋭く睨まれ、びくんと身が竦む。
「し、信じてないわけじゃないけど……」
信じたいけれど、あの王子立川さんが嫌がらせの手紙を送っているとか。
さらには猫を捕まえて傷つけているだとか。
信じろっていう方が無理。
悪いけど、悪い魔法使いと一緒になってお姫様をいじめるのがぴったりなのは、松岡王子の方だし。
「……はぁーっ」
松岡くんがため息をつき、おそるおそる顔を上げる。
目があった彼は仕方ないな、とでもいうふうに笑った。
「確かに、急にこんな話、信じろって方が無理だよな。
証拠だってないし。
……わかった。
なら、この件が解決するまで、立川と会うのは俺がいるときにしろ。
わかったな?」
「……それ、ちょっと無理……」
立川さんにだって都合があるのだ。
それに毎回、うちまで来てもらうわけにもいかないし。
「はぁっ!?」
ぎろりんとまた松岡くんが睨んでくる。
「う、うん。
そうする。
……なるべく」
「なるべくぅ?」
松岡くんの声はドスがきいていて、ますます身が小さく縮こまる。
「はい、そうし、……マス」
なんで私は、松岡くんにこんなことをさせられなきゃいけないんだろうか。
ちょっと納得がいかない。
でも、松岡くんが私を守るのに必死なのはわかる。
だから、従うことにした。
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