家政夫執事と恋愛レッスン!?~初恋は脅迫状とともに~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第10章 猫を捕まえるのって流行ってるんですか

10-2 蒼海文芸大賞

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「本日はこれで失礼させていただきます。
次回はまた、来週の月曜日」

「はい、ご苦労様でした」

 今日の夕食はちゃんと、松岡くんも一緒に食べてくれた。
 帰りもちゃんと、お見送り。

「今日は手があれなんだから、無理するなよ」

「あー、うん」

 あれから松岡くんはわざわざ、貼っていたら傷が治るタイプの絆創膏を買ってきてくれた。
 もちろん、指の傷はそれに巻き替えてくれた。

「俺が来ない日もちゃんとメシ食え。
ここんとこまともに食ってないだろ。
やつれてるぞ」

 心配そうに彼の手が、私の頬を撫でる。

 ……誰のせいだ。

 なんて出そうになった言葉は飲み込んだ。

「寝るのはベッドで。
机で寝ていたら風邪を引く」

「あー、うん」

 そっと、頬に触れる彼の手に、自分の手を重ねる。

「とにかく。
……あんなに無理して仕事をするな」

「……うん」

 眼鏡の向こうから艶やかなオニキスが私を見ている。
 ゆっくりと顔が近づいてきて……鼻に、唇が触れた。

「……おやすみ、紅夏」

「……おやすみ」

 離れがたくて手が離せない。
 松岡くんもじっと、私を見ている。

「……紅夏」

 再び、彼の顔が近づいてくる。
 期待して目を閉じた……ものの。

「にゃー」

 たしゅっとセバスチャンに足をタッチされて、目を開けた。
 と同時に、手も離れる。

「……セバスチャン」

「にゃー」

 どうも盛んに私の足をタッチするセバスチャンは、私たちが遊んでいると思っているようだ。

「……日曜日。
休みだからケーキ持ってきてやる」

 セバスチャンに気を取られている間に、松岡くんがぼそっと呟き、耳元に口付けを落として離れる。

「……う、うん」

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみな、さい」

 ぴしゃっと玄関が閉まり、自転車の音が聞こえなくなるまで見送った。



「来るって言ったけど、何時に来るんだろう……」

 日曜日はお昼過ぎには起きた。
 ちゃんと着替えてお化粧し、そわそわと待つ。
 いや、NYAINなりなんなりして尋ねればいいのはわかっている。
 が、なんとなく照れくさい。

「来るまで今日は、執筆するか……」

 二日ぶりにデジタルメモのふたを開く。

 金曜の夜は指を気遣って書かなかった。
 それにここ二週間くらい、まともに寝ていなかったし。
 松岡くんが帰って早々に寝た。

 土曜日も指が怖くてなんとなく、休んだし。

 でもそろそろ再開しないと、蒼海文芸大賞に間に合わなくなりそう。

「蒼海文芸大賞、か」

 あんなに大きな賞に自分の作品を応募するなど、まだちょっと現実感がない。
 立川さんは大丈夫だと言ってくれたが、一次選考も突破できなければ、いままで自分がなにをやってきたのかわからなくなる。

「全部の力を出して頑張るのみ」

 おそるおそるキーの上に指を置く。
 軽く叩いてみたが、痛みはなさそうだ。
 ただ、絆創膏のせいで少し叩きにくいが。
 それでも少しずつ、集中していく。
 そのうち、絆創膏の違和感なんか忘れて、キーをひたすら叩いていた。

「べーにか。
お茶、しない?」

「うわっ」

 いきなり肩から抱きつくように腕が降りてきて、心臓が止まるかと思った。

「い、いつ来たの……?」

 そろそろと振り返り、彼を見上げる。

「んー、一時間くらい前?」

 時計を確認すると、すでに四時を過ぎていた。

「声、かけてくれればよかったのに」

 はぁーっ、ため息をつきつつ彼の手に自分の手を重ねる。

「だって紅夏、すっげー集中してたし」

 彼が、指を絡めて私の手を握ってくる。
 顔を後ろから回してちゅっと私の頬へ口付けした。

「それで。
お茶、する?」

「……する」

 笑う彼――松岡くんにつられて私も笑う。

 「じゃあ、行こうか」

 差し出された手に自分の手をのせて立ち上がった。

 ――どうでもいいが、なんで休みなのに執事服なんだろう?
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