家政夫執事と恋愛レッスン!?~初恋は脅迫状とともに~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第11章 小説なんて書かない方がいい

11-8 髪は傷むから乾かして寝た方がいい

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「紅夏!」

「……!」

 手を掴まれて動きが止まる。

「ただいま」

 ちゅっ、私の頬に口付けを落とした松岡くんは一瞬前と違い、優しかった。

「メシにしよう。
簡単なもんだけど」

「……うん」

 促されてのろのろと立ちがある。
 こたつの上には生姜焼きが準備されていた。

「いただきます」

「……いただきます」

 箸を取ってごはんを食べる。
 昨日は夕食を食べていないし、今朝もサンドイッチを食べただけだけど、お腹はあまり空いていない。
 それでも、黙々と生姜焼きを詰め込んでいく。

「なんか変わったこととかなかったか」

「特にない。
……たぶん」

 松岡くんが帰ってきたのにも気づかないほど、集中してキーを叩いていたのだ。
 なにかあっても気づけない。

「荷物が届いてた」

「荷物……?」

 宅配の人が来た覚えなんてない。
 が、昼間に起こされて出るのが面倒で不在ボックスを置いているので、あれに入っていたのかも。

「じゃあ、誰が出したかわかる……?」

 郵便は差出人不明でいいが、宅配便はそういうわけにはいかないはず。

「残念ながら。
定形外郵便で記載がない」

「……そうなんだ」

 これで解決かと思ったけど、そう簡単にはいかないらしい。

「あ、でも、定形外だったらポストに入らないサイズなら、窓口で出すよね……?」

 ポストに入らないサイズっていったいなにが入っているんだろう?

 想像しかけて慌てて止める。
 それは、私が知らない方がいいこと、だ。

「確かにな。
そこからわかったらいいな」

「そうだね」

 少し、解決の糸口が見えた気がした。
 うん、きっともうすぐ捕まる。
 だから、もう怯えなくても大丈夫。

 そう、思ったんだけど――。


「ごちそうさまでした」

「ん、お粗末様でした。
風呂、入るだろ」

「ん……」

 悩んでいるうちに肩を押され、風呂場へ連行された。

「昨日入ってないんだし、ゆっくり温まってこい」

 すぐにバタンとドアが閉められる。
 お風呂のふたを開けてみたら、すでに沸かしてあった。
 着替えもちゃんと、置いてある。

「用意周到すぎ……」

 なんだかおかしくて、少し笑えてきた。

 ゆっくりお風呂で温まると、眠気が襲ってくる。
 日中、よほど気を張っていたみたいだ。

「あがったよ……」

「おう。
……ってなんで髪を乾かしてこないんだよ」

「……面倒くさい」

 そしていつもそのまま寝るから、朝は寝癖が酷い。

「座ってろ」

 おとなしくし座って松岡くんを待つ。
 すぐに彼はドライヤーを手に戻ってきた。

「髪は絶対、乾かした方がいいから。
濡れたまま寝たら痛む」

「……どこぞの女子ですか」

 私の髪を乾かしてくれるのはいいけど、言うことが完全に女子でおかしい。

「しかも手際いいし」

「いっつも姉ちゃんにさせられてたんだよっ」

 どうも松岡くんは、お姉さんに勝てないらしい。

 髪が乾くと、とっとと寝ろってベッドに連行された。

「……眠くない」

「嘘つけ。
昨日、寝返りばかりうってた」

 そんなことまで知っているということは、松岡くんもあまり寝ていないってことだけど……大丈夫、なのかな。

 今日も髪を撫でられながら、次第に眠くなっていく。

「……紅夏は俺が、絶対に守るから」

 このところの松岡くんは完全にお姫様を守るナイトで、なんか調子狂うな……。



 水曜日は起きたら松岡くんがいた。

「……おはよう」

「おはよ」

 ちゅっ、額に落ちたキスでいっぺんに目が覚める。

「今日、休み?」

「ああ」

 その割にうちで朝から洗濯とかしていたら、全然休みにならないと思うんだけど……?

 一緒に、ごはんを食べる。
 なんかこうやって朝から向かい合ってごはんを食べているのって、新婚さんにでもなったみたいだ……。

「仕事、するのか」

「そうだね」

 ごはんが終わって仕事部屋に向かおうとしたら止められた。

「指、見せてみろ」

「……うん」

 そういえば昨日はがんがんキーを叩いていたのに怒られなかった。
 なんでだろう。

「大丈夫そう、かな。
もう絆創膏、貼らなくていいと思う」

「ほんとに?」

「ああ」

 また悪化しているとか言われたらどうしようって不安だったけれど、安心した。

「三時になったら声かける。
お茶、するだろ?」

「うん。
……あのね、松岡くん。
その、仕事とか、いいの?」

 不安が軽くなると気になってくる。
 だいたい、お客の家にまで泊まるとか業務規定違反なんだし。
 それに、カフェの方だって。

「バレなきゃ平気。
それにカフェの方はしばらく休むって連絡入れたし」

「そうなんだ」

 そういう問題なんだろうか。
 でもここ数日は松岡くんがいてくれてほんとによかったけど。
 ひとりだったらきっと、耐えられなかった。

「それで、いつまで泊まるの?」

 ちょっとだけ、気になっていた。
 泊まるのはあの日だけかと思ったら、まだいるんだもん。
 いや、でも、いてもらった方がよかったんだけど。

「ずっと。
……とか言いたいけど」

 松岡くんはなぜか、困ったように笑った。

「明後日、嫌がらせがエスカレートする日だろ?
それ見て考える」

「そっか。
ありがと」

 なんで私はがっかりしているんだろう。
 私も一緒にいたいから?
 ううん、まだ仮彼氏なんだし、そんなの許されるはずがない。


 仕事部屋でデジタルメモを立ち上げる。
 嫌がらせ犯には腹が立つが、現実逃避していたおかげであと二、三日で書き上がりそうだ。

「終わったら推敲して……ってひと月しかないから、ぎりぎりだー!」

 ぎりぎりなのがわかっていて出すことを決めたのだから仕方ない。
 それでも、できる力は全部出し切ろう。
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