孕むまでオマエを離さない~孤独な御曹司の執着愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ

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第五章 私は道具

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翌日は体調が悪いせいもあって気持ちは駄々下がりだった。

「大丈夫か?
休んだほうがいいんじゃないか」

お腹の痛みを堪え、眉間に皺を寄せて彼の淹れてくれたホットミルクを飲む私を海星さんが心配してくれる。

「大丈夫ですよ。
病気じゃないんで」

平気だと言いながらも笑顔を作る余裕もない。
渡してくれた水で痛み止めを飲んだ。
薬が効いてくるまでの我慢、我慢だ。

「でもつらい人間は寝込むほどつらいんだろ?
花音も休んで寝ていたほうがいいんじゃないか」

「大丈夫ですから。
ほら、行きますよ!
遅刻してしまいます」

どこまでも心配し続ける海星さんを追い立てるようにレジデンスを出る。
心配してくれるのは嬉しいが、これくらいで休んでいては仕事にならない。

「少しでもつらかったらすぐに帰れよ」

別れるときまで彼は心配していて苦笑いしてしまう。
あんなに理解のある上司なら、部下は生理休暇を取りやすそうだ。
うちは右田課長はすぐに許可を出してくれるが、その上の部長がそれでも働いている女性はいるんだし特別扱いはできないって却下するからさ……。

薬が効いてもまだ鈍く痛むが、我慢して仕事を続ける。
今日は残業しないで帰る、遠慮せずにタクシーだって使っちゃうぞと誓っていたんだけれど……。

「飲みにいくぞー」

終業間際になって一士本部長が顔を出した。
彼は部が違うのにうちの部署にしょっちゅう顔を出しては、強引にみんなを飲みに連れていった。
今の彼のお気に入り、百合ゆりちゃんがいるのと、あとは右田課長にたかるためだ。

「ほら、オマエらも仕事切り上げて一緒に行くぞ」

一士本部長がみんなを追い立てる。
行きたくない。
それでなくても一士本部長の飲み会はアルハラが酷いし、さらに生理中で体調も悪い。
どうしても今日中に片付けなきゃいけない仕事があるからと残ってやり過ごそう。

「あ?」

ぞろぞろとみんなを引き連れ、出ていこうとしていた一士本部長が足を止める。

「おい、そこの……坂下?
いや、盛重か。
オマエ、なんで来ない?」

不機嫌そうに睨み、彼が私の席まで来る。

「あの、今日中にやってしまわないといけない仕事が残っているので……」

「は?
オレと仕事、どっちが大事なんだよ?」

そんなの、仕事に決まっている。
オレとでも言ってもらえると思っているんだろうか。

「あの、えっと」

それでも機嫌を損ねると面倒臭いので言葉を濁す。

「それともあれか?
義弟の酒は飲めない、と?」

にたぁといやらしく、一士本部長の顔が歪む。
そこでそれを持ち出されると断れなくなった。
海星さんの顔を潰すわけにはいかない。

「あ、明日でも大丈夫な仕事でした。
ご一緒させていただき、……ます」

手早く机の上を片付け、愛想笑いで立ち上がった。

一士本部長お気に入りの、近くの居酒屋へ入る。
座る前にトイレに行ってナプキンを予備で持っている夜用に変え、海星さんに連絡を入れた。

【急な飲み会になりました。
遅くなります。
帰りはタクシー使うので心配しなくて大丈夫です】

メッセージを送るだけして、既読になるかとか確認せずに携帯をバッグにしまいトイレを出る。
長く一士本部長を待たせるとなにを言われるかわからない。

「盛重さんは、あっち」

いつものように末席に座ろうとしたら、一士本部長の隣に座らされた。
離れた席で百合ちゃんが申し訳なさそうに頭を下げるのが見える。
一士本部長がお気に入りの彼女ではなく私を隣に座らせたのはきっと、今日は私をいびるのが目的なのだ。

「じゃあ。
オレの新しい義妹に。
かんぱーい!」

意気揚々な一士本部長とは反対に、微妙な笑顔でみんながおのおのグラスやジョッキを上げる。

「いやー、こんな美人な妹ができるとか、オレも幸せ者だよな。
これからよろしく頼むよ」

わざとらしく笑いながら彼は私の背中をバンバン叩いてきた。

「は、はぁ……。
こちらこそ、よろしくお願いします……」

笑顔を貼り付け、それに応える。
あんなに私のお茶出しが不満そうだった彼に美人とか言われても嫌悪しかない。
それでも、とにかくなるべく一士本部長の機嫌を損ねないようにこの場を切り抜けなければならない。
彼を挟んで向こうに座る右田課長が短く頷く。
きっと課長もいるからなんとかなる……はず。

「みんな飲めよー、飲んでないヤツは減給だからな。
それとも左遷がいいか?」

おかしそうに一士本部長はひとり笑っているが、まったく笑い事ではない。
しかも一士本部長の奢りならまだ辛抱できるが、彼は一銭も払わないどころかなにかと理由をつけてお金を巻き上げようとするので、反感しかなかった。
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