天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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ベッドを買いに

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 色事に耽っている間に昼を過ぎていた。
 三人並んで眠るためのベッドを求めて、王都で一番と言われる家具屋へゼリンダとカイとシエル買い物に出かける。アジトからそう遠くない場所に店が構えられていた。
「すごい!」
 展示されている家具はどれも一級品で、お店全体がキラキラしているとゼリンダは大興奮だった。フジツキ村では見たことのないものばかりだ。広さも品ぞろえも村とは比べ物にならないほど豊富だ。
 三人は迷わずベッドコーナーへ移動する。展示されているだけでもかなりの数があった。どれを見ても、三人の少し未来で起こるであろういかがわしい想像をしてしまう。それでまた今朝の睦事を思い出して照れていた。シエルとカイの整った横顔をそれぞれ見つめていると、彼らの双眸が凶悪な色気を振りまいている瞬間がよみがえってくる。
 軽い金属でできた、蝶々の細工の施された白いベッドフレームにゼリンダは一目惚れした。店員に尋ねると求めるサイズがなかった。どこか妖艶さを漂わせていて、カイとシエルを連想させたのに残念に思う。おとぎ話のお姫様が眠っているような素敵なベッドだとうきうきしたが、実現できずに肩を落とした。
「これじゃすぐ壊れる」
 強度も足りないとカイにダメ出しされた。
「どうしてこれじゃすぐ壊れるの?」
「三人で寝るベッドだぞ」
「なるほど」
 カイの言葉にゼリンダはうなずく。確かに三人分の体重に耐えられるものでなければいけないとゼリンダは納得した。このデザインでは心許ないかもしれない。
 シエルはゼリンダにカイの意図は伝わっていないと見抜いていた。大きく深いため息をこぼす。カイは弱いベッドフレームでは三人で性行為をするとベッドが激しく軋んで壊れることを懸念している。
 ゼリンダに教えてやるべきか悩んだが、ピュアな彼女にここで言うことでもないかとシエルは冷静に判断して黙っていた。ゼリンダにはあまり早々と汚れないでいて欲しい。純粋なのに組み敷くと快楽に弱いギャップが良いのだ。ここからどんな風に育つかも楽しみである。彼女がどう変化しても、シエルはゼリンダから離れるつもりはない。
 結局カイのお眼鏡にかなうものが見つからず、ローズブレイド家が懇意にしている家具職人にお願いすることにした。家具屋の近所にある工房へ移動してお坊ちゃまが直談判する。デザイナーが三人の要望を取り入れ、全員が納得する原案を作ってくれた。
 特急で仕上げてくれるらしいが、どんなに頑張っても材料の仕入れなどがあるので納入までひと月程度はかかるそうだ。出来上がるまではカイの魔法でしのぐ。そう決めたとき、カイがどこか嬉しそうな顔をしているようにゼリンダは見えた。
 工房から出てすぐにゼリンダはカイに問いかけた。
「どうしてカイ、嬉しそうなの?」
 気になったことはすぐに聞くのがゼリンダの良いところだ。
「魔法を使ったら、ゼリンダが澱を浄化してくれるだろ?」
 にやりと得意げに笑うカイがかわいいが照れくさい。ゼリンダは心を一旦落ち着けるために両手で顔を覆った。深呼吸をして、指の隙間からカイを上目遣いに見る。
「別に、澱が溜まってなくても……その、する、よ? 恋人なんだし」
 周囲に聞こえないよう気をつけてささやく。
「もちろん、シエルにも」
「ありがとう」
 シエルはふわりと微笑んでゼリンダの頭を優しく撫でる。その様子を偶然見かけて目を瞠っている女性がいたことに三人は気づかなかった。
「あ、おばあに帰ってきたら店に来てくれって言われてたの忘れてた」
「魔道具の修理か?」
「ああ。ゼリンダのことをおばあに頼もうと思ってたから丁度良い」
 カイはにやりと笑ってゼリンダを見る。
 三人はアジトの方へ戻った。おばあの店はアジトのすぐ近くにあるとカイとシエルがゼリンダに教える。
 古びた道具屋の看板を下げた店にカイはずかずか入っていく。
「失礼します。こんにちは」
 シエルはカイの後ろから礼儀正しく挨拶をして入った。
「シエルくん、良く来たねぇ」
 小柄でにこやかな老婦人がカウンターの向こう側にいた。ご機嫌な声でシエルを迎える。
「こんにちは。お邪魔します」
 ゼリンダはおばあさんにペコリと一礼する。
「おや」
 おばあさんは初めて見るゼリンダに目を丸くした。
「ゼリンダに回復魔法と回復薬の作り方教えてやって」
「あんたは挨拶もせずにそれかい」
 老婦人はカイに渋い顔を見せた。それでゼリンダは彼女に自己紹介していないと気づく。
「はじめまして! ゼリンダ・メルランと申します」
 深々と頭を下げるゼリンダを見つめる老婦人の目は鋭かった。だがゼリンダが顔を上げたときには彼女は優しい笑顔を見せた。
「はじめまして、ゼリンダさん。ノーラ・バルヒェットだよ」
「おばあはこう見えて王宮に仕えていた聖女で、指導係もやってたから」
 とんでもない肩書の持ち主だったことにゼリンダは驚く。王都はやはりすごい魔法使いが集まっている。
「こう見えては余計だよ。カイ、回復薬の鑑定機の調子が悪いから修理してもらいたいんだ。その子を見るのは魔道具が直ってからだよ」
「回復薬の鑑定機?」
「人の手で作るから、回復薬の瓶によって効き目が全然違ったりすることがあるんだ。だからノーラさんの店ではカイの作った魔道具の鑑定機で品質管理してる」
「すごい……」
 シエルの話を聞いて、ゼリンダは感心してカイを見る。カイはいつもと何も変わらない様子だった。
「売り込んで採用してくれたの、おばあだけだったから」
「あの、すみません」
 カイとノーラの思い出話を遮るように、警察の、幹部候補生の制服を着た凛としたショートカットの美女が店に入ってきた。
「サシャ……?」
 シエルが驚きながら彼女の名前を呼んだ。
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