天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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怪物 4

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 ゼリンダはカイとシエルにノーラの道具屋へ一緒に行ってもらうことにした。カイはノーラに頼まれた修理があったので、もともと行くつもりだった。
 三人で訪れると店の前には休業を知らせる看板がドアに吊るされていた。しかしカイはそんなことを全く気にせずドアノブに手をかける。キイ、と小さな音を立てて扉は開いていた。
「おばあ、直った」
「ありがとうよ」
 ノーラは修理の終わった魔道具をカイから受け取る。それからすぐに魔法で作られた契約書にサインをした。これで代金が銀行口座に支払われる仕組みだ。
「その顔は、ある程度ふたりから話を聞いてきたんだね」
 図星をさされてゼリンダはどきりとする。隠し事のできない自分のふがいなさにうなだれた。
「はい。聞きました」
 あっさり白状する。
聞いたんだい?」
「テハノは人間の成れの果てで、ほとんど出現しなくなっていたのに最近の現象はウォルフガングさんのお知り合いの方が関わってるかもしれないと聞きました」
「なら、ほとんど知ってるね」
 ノーラは苦笑いを浮かべた。ゼリンダがおどおどする様子を見て、シエルがポンと肩を叩く。
「ノーラさんは怒ってないよ」
 ゼリンダはシエルの穏やかな微笑みを見て落ち着きを取り戻す。それを見ていたノーラも小さく微笑んだ。
「ああ、怒ってなんてないさ。ゼリンダ、あんたはこれからは必ず、カイかシエルのどちらかとは一緒にいるようにするんだ。今朝みたいにひとりで行動するのは危ない」
「わかった」
 返事をしたのはカイだった。ゼリンダはノーラからの忠告に混乱していた。どうしてゼリンダがひとりだと危ないのかわからない。
「テハノは習性で澱の浄化能力者の香りに惹きつけられる。ガブリエル・レジオンドがやっているかはわからないけれど、全く関わっていないってことはないだろ。ガブリエル・レジオンドが発表した論文に人工的にテハノを作れる可能性があったけど、あまりにも危険だって禁書になってた」
「あんた、あれをどうやって」
「ローズブレイドの力を使えば、だいたいの無理は通る」
 ノーラは大きなため息をついた。国のおえらいさん達はこの天才魔導師に甘すぎる。特に甘やかしていると思われるおじの顔が何人か頭をよぎった。
「テハノを次々に生み出すのは、浄化能力者を探している可能性もある。だからゼリンダ目を離すな、だろ」
 淡々といつもの調子で話すカイを見つめて、ゼリンダは呆気に取られる。ノーラにはゼリンダの力の秘密を知られても良いのだろうか。むしろ、ノーラはすでに気づいているようだった。道具屋の女主人は大きなため息をつく。それを気にした様子もなく、カイは淡々と話続けた。
「ガブリエル・レジオンドの件は可能性だ。違う目的かもしれない。違う人間の仕業かもしれない。とにかくゼリンダは心配しなくても良い。俺たちが絶対に守るから、離れるな」
 カイの力強い言葉にゼリンダはうなずく。そして気になっていたことをノーラに質問した。
「ノーラさんは、どうして私の力のことを?」
「経験と勘だよ。王宮の聖女としていろいろ見てきたからねぇ」
 おろおろするゼリンダに、ノーラはにやりと不敵な笑みを見せる。ゼリンダは圧倒的な経験の差を見せつけられた。ノーラの厳しい視線はふたりの青年に向けられる。
「カイ、シエル。あんたたちはこの子をここへ引っ張り出した責任をちゃんと持つんだ」
「はい」
「言われなくても」
 引き締まった表情で返事をするシエルと、生意気な返答をするカイにノーラは小さく笑った。
「ここでゼリンダがお世話になるときは、俺が付き添うようにします」
「ありがとう」
 シエルにお礼を言うゼリンダの様子をノーラは微笑ましく見守る。彼らのような悲劇は二度と繰り返してはいけない。ガブリエルは国の機密情報も多く取り扱っており、他の聖女には頼めないとすでに現役を退いていたノーラにお鉢が回ってきた。急行した現場で見た、冷たくなった最愛の人を呆然と見つめるガブリエルの顔を今でも忘れることができない。
「ほらほら、今日はもうデートでもして気分転換しておいで」
「そうだ、お鍋」
 ゼリンダはキラキラと目を輝かせた。
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