天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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「華やかな色もお似合いですが、落ち着いた色もゼリンダさんの違った魅力を引き出しますね」
 男装の麗人という言葉がまさにぴったりのミアに、耳元でささやくように褒められる。
「ありがとうございますぅ……」
 ゼリンダは身体をカチコチに強張らせて緊張しながら、頬を染めてどきどきしていた。王都の仕立て屋は働いている人も舞台俳優のようにキラキラしている。やはり都会はすごいとゼリンダは改めて思った。こんなにきれいでカッコいい女性を初めて間近に見た。いい匂いもする。
 まずは夜会用のドレスに使う生地を選んでいた。どの色が最もゼリンダの魅力を引き出すか、ミアがゼリンダの首に布を当てて考えている。
「カイ様、私の妻に嫉妬なさらないでください」
 ゼリンダとミアの様子を、おもしろくないという雰囲気を隠さず見ているカイに、エリアスが真顔で言う。珍しくカイがピリピリしていた。
「なんでミアはゼリンダ口説いてんの?」
「口説いておりません。お似合いになる色を探しております」
 耳に入る曲者同士の会話に、シエルは苦笑いを浮かべる。カイにも嫉妬という感情はあったのかとシエルはちらりとカイを見た。それならどうしてミアに嫉妬するのに、シエルに対してはヤキモチを妬かないのか。カイの感覚がシエルにはわかるようなわからないような複雑な思いを抱く。
 だがゼリンダを共有しているのだから、三人にとってその方が良いのだろう。この先、ゼリンダがカイと結婚するとなればいろいろ問題は起きるだろうが、それまでは波風立てずに過ごしたいのがシエルの本音だ。シエルは大貴族の子息ではないし、弟がいる。両親には申し訳ないが、家は弟に継いでもらう。根無し草のシエルより、王宮の騎士を目指している弟の方が堅実だ。幸い弟も優秀で、現在、王立魔法学院の生徒だ。シエルはゼリンダと結婚できなくても一緒にいられればそれで良いと思っていた。
 カイはもともとそれほど表情豊かなタイプではない。普段の表情との違いがわかるようになっていることに、シエルは小さく肩をすくめる。それほど長い時間を一緒にいたというのもあるが、ゼリンダに出会ってから、うまく言葉にできないが何かが明確に変わった。悪い方向だとはシエルは感じていない。むしろ、ずっと虫眼鏡で太陽の光を集めてじりじり焼け焦がしていたような胸の奥の感覚が和らいでいる。柔らかな日差しに包まれているような今の穏やかな日々が続けば良いと思っていた。
「ゼリンダさんの清らかなのに匂い立つような色香を纏う白い肌を彩るのは、この深紅の生地で仕立てたドレスにいたしましょう」
 少し大人っぽい深い紅の生地を手に、艶のある微笑みを浮かべるミアを目の前にしてゼリンダは眩しくて目が開かない。
「は、はい!」
 大きな声で良い子の返事をする。ゼリンダはすっかりまな板の上の鯉になっていた。
「露出は控えめのデザインにいたしましょう。ですが愛らしさより、大人っぽさを。ゼリンダさんの王子様は、あなたが心配でたまらないようだから」
 小さく笑ってミアはカイとシエルにいたずらっぽい視線を向ける。ミアの言葉に、ゼリンダは照れ笑いをした。
「では、奥で採寸をさせていただきます」
 カイとシエルに断って、ミアはゼリンダを店の奥へ連れて行く。採寸のため、ゼリンダは姿見の前で下着姿になった。ふと鏡に映った自分の下着の色気のなさが気になる。とても素敵なドレスにこの簡素な下着は合っていない気がする。
「あの、ミアさん」
「どうされましたか?」
 ゼリンダの身体のサイズを手早く測りながら、ミアはゼリンダの顔を覗き込む。
「ドレスに合う素敵な下着を売っているところ、ご存じありませんか?」
「私の馴染みの店でよろしければ、ご紹介いたしますよ」
 ぱあっと表情が明るくなったゼリンダに、ミアはにこにこしながらうなずく。この素直で愛らしいところにふたりの王子は惹かれているのだろう。
「ぜひ、よろしくお願いします!」
「場所をお教えいたします。仕事中なので一緒に伺うことは難しいですが、私から連絡を入れておきますのでご安心ください」
「ありがとうございます!」
 ゼリンダはミアに深々とお辞儀をした。
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