天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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回復薬作りの練習

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 カイは調べたい魔法があるから王宮の書庫に行くとひとりで出かけた。
 ゼリンダはソファに横たわって、お腹に両手を当てていた。静かに目を閉じ血液と気の流れに集中する。陰部の炎症にじんわりと弱い治癒魔法を与える。痛みが和らいでいくのがゼリンダ自身わかった。確実にツキフジ村にいた時より魔力は上がっているし、上達している。
 シエルはゼリンダが弱い回復魔法を自分にかけていることに気づいた。きちんと出力のコントロールされた良い魔法だ。ツキフジ村でずっと基礎的なことを頑張って続けていた成果だと思う。
 穏やかに微笑んだシエルの優しい手がゼリンダの額に触れる。魔法に温かさが加わった。
 ゼリンダが魔法を止めたのでシエルは話しかける。
「ゼリンダ、歩けそう?」
 シエルの問いかけにゼリンダはうなずいた。
「うん。もう大丈夫」
 笑顔で起き上がったゼリンダの隣にシエルは腰かける。彼女をそっと抱きしめて、茶色いサラサラの長い髪にキスをした。
「ごめんね。俺たち回復魔法が使えなくて」
「ふたりが回復魔法まで使えたら会えなかったよ?」
「そんなことはないよ」
 回復魔法と澱の浄化は別物だ。シエルはゼリンダの頬をゆったりと撫で、優しく唇を重ねる。魔法石がまた温かくなるのを感じていた。
 シエルからの穏やかで優しい愛情表現にゼリンダはどきどきしていた。いつもならこのままセックスになだれ込むが、今はその気配が全くない。これから出かけるので当然かもしれないが、少し新鮮だった。
 名残惜しいが、シエルはゼリンダから離れて立ち上がった。
「そろそろ行こうか」
 差し出された手をゼリンダは掴んで、ソファから立ち上がる。
 約束の時間が近かったので、シエルとゼリンダはノーラのところへ手をつないで向かった。今日は道具屋の二階で、回復薬の作り方を教えてもらうことになっていた。
「おじゃまします」
 ふたりが道具屋へ入ると、おじいさんが店番をしていた。
「いらっしゃい」
 笑顔のおじいさんに会釈して、ノーラの待つ二階へ階段を上る。この階段は、いつもは魔道具の力で隠されているが今日は特別だった。ゼリンダのためだ。
 二階はたくさんの薬や魔道具がジャンルごとにきっちり分けられ、整然と並べられていた。部屋の中央には背の高い円形の小さなテーブルが置いてあり、その上に青い小瓶が十二本入った箱と品質管理用の魔道具があった。隣にはノーラがいる。
「お待たせしました」
「いらっしゃい」
 ノーラはにやりと不敵に笑う。ゼリンダは少し緊張した。
「よろしくお願いします」
「最初は一本作れれば良い方だから、そんなに緊張しなくて大丈夫だよ」
 ゼリンダは少しホッとして身体の力が抜ける。
「早速だけど」
 ノーラは仕草でゼリンダに隣へ来るように促す。
「失礼します」
 ゼリンダは小さく頭を下げてノーラの隣に立った。彼女の動きのひとつひとつが子猫のようで愛らしいとシエルは目を細める。
「魔法薬作りは感覚的なものだからね。合う合わないはある。裏方の魔法薬作りより、戦場で生身の人間に回復魔法を叩き込む方が得意な子もいる。私の回復薬の作り方は、この瓶を優しく慈しむような気持ちで魔力を流し込んでやるんだ。中身は王宮の聖女たちが浄化した聖水で、瓶は回復薬を作るための特製だから、とにかく音が鳴るまで魔力を流し込むんだ」
「優しく慈しむ……」
 ゼリンダは小瓶にぎりぎり触れない距離で、両手で包む。両目を閉じて魔力を流し込むことに集中しようとした。
 優しく慈しむを、ゼリンダは具体的に想像しようと該当するものを経験から探す。ふと脳内に現れたのはゼリンダの名を優しく妖艶にささやく裸のカイとシエルだった。
 ゼリンダはあせって、違う、これだけどこれじゃないと脳内の別の抽斗を開けようとするが、カイとシエルは出ていってくれない。それどころか、昨夜から今朝の房事を詳細に思い出してしまう。
「ゼリンダ?」
 ゆでダコのように真っ赤になったゼリンダを心配してシエルは声をかける。その直後、ポンと軽やかな音が鳴った。ゼリンダはハッと我に返る。
「どれどれ」
 ノーラが最初の一本を魔道具の中央に置いた。中身の判定が行われる。
「これは……」
 少し驚いた様子のノーラに、ゼリンダはもしかして最初から上手くできてしまったのかと期待して判定を覗き込む。
 媚薬、と表示されていた。ゼリンダは目が点になる。
「珍しいものを作ったね。最初から何かにできるのは大したもんだ。ただ、うちではこれは扱ってないから持ってお帰り」
 ノーラはゼリンダが人生で初めて作った薬を本人に手渡した。
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