天才魔導師と秀才魔法剣士を(いろんな意味で)癒すのがお仕事です

うづきなな

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媚薬 1

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 ゼリンダが魔力を込めた最後の小瓶を、ノーラが判定機に置く。何と表示されるか、ゼリンダは祈る気持ちで固唾を飲んで見守った。無意識に両手を胸の前で合わせていた。
 最初は媚薬になってしまい、二本目も媚薬と判定された。それ以降は何の薬にもなっていない失敗続きでゼリンダはあせっていた。
 適度に休憩を挟みつつ、ついに今日準備された小瓶、最後の十二本目。思い出したのは幼い頃の遠い記憶の中の、母に頭を撫でてもらった瞬間だった。小さなゼリンダは不注意で頭をテーブルにぶつけて泣いていた。その声を聞いて飛んできた母が、ゼリンダに優しく声をかけて、そっと抱きしめて痛みを和らげるために頭を撫でてくれた。
 回復薬と表示される。ゼリンダの表情がぱあっと明るくなる。その顔を見ていたシエルの目尻と口元は自然に緩んでいた。
「良くやったね」
 ノーラの労いにゼリンダは嬉しくなって彼女の手を握る。
「ありがとうございます!」
「次は三本を目指そうか」
「はい!」
 魔法の使い過ぎは魔法石の濁りの素になるので、本日はお開きとなった。
 ゼリンダはルンルンと弾んだ表情でノーラとおじいさんに礼を言って道具屋を後にする。シエルの手には二本の小瓶を入れた袋があった。ゼリンダが偶然作り出してしまい、ノーラに持って帰るように言われた媚薬だ。シエルはゼリンダの作り出した媚薬に興味はあったが、使用するのは危ないしていた。魔道具が媚薬と判定したのだから命の危険はないだろうが、使ったことがない。慎重なシエルは知らないものは怖い。
「こんなに魔力を使ったの、初めて」
 ゼリンダは左手の甲に隠れている魔法石の様子を可視化する。輝きは少し曇ったが、澱は溜まっていなかった。ツキフジ村にいた頃は今ほどの魔力量がなかったので、澱は溜まらなくても一本目でもう力尽きていただろう。
「がんばったね」
 シエルも優しい表情で労いの言葉をくれる。
「シエルとカイのおかげ」
 ゼリンダの言葉に、シエルは良かったと思う気持ちと少しの罪悪感を覚える。長いまつげに囲まれたアイスブルーの双眸が少し揺らいだことを、ゼリンダは見逃さなかった。
「シエル、今、俺はエッチなことしかしてないのにとか思ったでしょ?」
 お互いだけにしか聞こえない小さな声でゼリンダは指摘する。図星を突かれたシエルはどきりとした。
「まあ、ちょっと」
「カイだけじゃなくて、シエルもいてくれたから、私は勇気を出して飛び込んだんだからね?」
 上目遣いにじっと見つめてくるゼリンダの、伝えようとしてくれる思いがシエルには嬉しかった。
「……ありがとう」
 曖昧な笑みを浮かべたシエルの空いている手をゼリンダが繋ぐ。彼女の小さな手の柔らかさと温かさに、シエルの迷いは溶けて消えた。
 シエルとゼリンダがアジトに戻ると、すでにカイが帰宅していた。ソファに座るカイの手には魔導書がある。王宮の書庫から持ち出したらしい。テーブルの上にも何冊も積まれていた。
「ただいま」
 集中しているカイから返事はない。またどんな難しい本を読んでいるのか気になったゼリンダが静かに近づくと、カイの視線が上がった。
「おかえり」
「ただいま」
 魔導書を座面に置いたカイはゼリンダの腰に手を回して引き寄せる。ゼリンダは彼の膝の上に座らされた。いつももっとすごいことをしているのに、ゼリンダはなぜかどきどきして緊張する。そんな彼女の様子に気づかないカイは、ゼリンダの髪に顔を埋めて深呼吸する。
「回復薬は作れたのか?」
 尋ねながらゼリンダの耳殻を食んだ。
「一本できた!」
「ふーん。お疲れ」
 普段と変わらない淡々としたカイに、ゼリンダは少し唇をとがらせる。
「もっと褒めても良いんだよ?」
「ミスしなくなったら褒める」
 カイは鬼教官のようだ。褒めてもらえるまで時間がかかりそうだとゼリンダはしょんぼりする。
「シエルは何もらってきたんだ?」
 カイの興味はシエルの持つ袋に移っていた。
「これ? これはゼリンダが回復薬を作り損ねて作った媚薬」
「へえ」
 声の調子が明らかに変わった。カイは媚薬に興味を示している。
「ちょうだい」
 手を出したカイに、シエルは袋ごと渡す。
「良いけど、変なことに使うなよ」
「媚薬なんて、変なことにしか使わないだろ」
 カイは小瓶を袋から一本取り出して、蓋を開けると何の迷いもなく全て呷った。
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