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気持ちの悪いケダモノ
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光の当たり方でいろいろな色に見える特殊なローブを着てほうきを持ったゼリンダと同じものを着たシエルは西門の前に立つ。アジトからここまではローズブレイド家の馬車が送り届けてくれた。馬車は駐車場で待っている。
屈強な門番たちが守るここを一歩出れば隣の街まで人通りがぐっと少なくなる。ほうきで飛べば次の街までそれほど遠くないし危険もないのでこの街道を移動魔法の練習に使う人間は多かった。
「くれぐれも気をつけてね」
「うん。ありがとう。行ってくる」
ゼリンダは笑顔でシエルに手を振って門をくぐる。シエルはどこか不安げな表情で手を振り返した。
すれ違う人間の顔をちらちらと確認しながら、シエルは急いで馬車へ戻る。ローブを着ている人間も多かったので目当ての男がいたのかわからなかった。
「お帰り」
いつもと変わらない無表情なカイの顔を見て、ローブを羽織ったゼリンダはほっとして大きなため息を吐いた。ローブを脱いでいないので見た目はシエルのままだ。
「ただいまぁ」
ローブはウォルフガングから提供された王家に伝わる失われた秘術で作られたもので、一対になっていて着用した者の姿を入れ替えて見せる。カイも実物に触れるのは初めてだった。現代では禁呪となっている魔法を用いた魔導具を王家は多く所有しているが、使用は厳格に管理されている。今回はジルバーナーゲル家の最強魔法剣士とローズブレイド家の天才魔導師が作戦にどうしても必要だというので特例で貸し出された。ノーラいわく、ウォルフガングとカイを甘やかすおぢが王宮内に多くいる。
カイは今から大きな魔法を使うので、ゼリンダは邪魔をしないように向かいの席に座った。
天才魔導師は瞳を閉じて魔法に集中する。
「……よし。捕まえた」
カイがにやりと笑ったのと同時に、ゼリンダに見えるシエルにジエンが接触した。
ゼリンダがひとりきりになり、周囲にも人間がいなくなった瞬間にジエンは後ろから猛スピードで走って距離を詰めた。道の端に寄ってほうきをまたいで飛ぼうとしていたゼリンダの腕を捕らえようと手を伸ばす。
隠せていない魔力からジエンの気配を察知していたシエルはひらりとかわしてふたりは対峙した。
「なんだ、戦える女だったのか」
ジエンは舌打ちをしてゼリンダに見えるシエルを値踏みするように見る。シエルは冷たい双眸でジエンを睨んだだけで答えない。
カイがシエルとジエンを条件をクリアしないと出られない空間に閉じ込めた。周囲の景色が大きく変わっていないのでジエンは気づいていない。カイの適当な想像なので、よく見ると本来の草木の様子が違う。
シエルがここから出るにはジエンを捕らえるしかない。それがこの魔法空間に設定された条件だ。カイはいつもシエルへの無茶ぶりが過ぎると思うが、シエルは負ける気もなかった。天才魔導師からの厚い期待と信頼をいただき光栄の極みだ。ゼリンダを守るためだと思うと力が自然に湧いてくる。
「本当に何もわかってないし見えてない。気持ちの悪いケダモノだ」
ゼリンダが男の声で悪口を言い始めるのでジエンは混乱した。
「お前、男⁉」
先日の夜会でドレスを着ていたときは確かに胸があったので、ジエンはますます混乱する。
「お前には彼女の姿を見せておくのも嫌だな」
ゼリンダの名をこの男に聞かせることも嫌だと感じた。シエルがほうきを手放しローブを脱ぎ捨てると本来の姿がジエンにも視認できるようになった。
「何なんだ……?」
トウ国にも幻術はあるが、ジエンはこんな魔法を目の当たりにするのは初めてだった。シエルが夜会でゼリンダの隣にいた色男の片割れだと思い出す。
「ま、いいや」
ジエンはすぐに気を取り直し、首と肩を回してからその場で軽く二回ジャンプした。こんな優男、敵ではないとにやにやする。元マフィアで、世界中で犯罪を犯した自分に自信があった。
シエルは腰に携えていた細身の剣を抜いて霞の構えを取った。
屈強な門番たちが守るここを一歩出れば隣の街まで人通りがぐっと少なくなる。ほうきで飛べば次の街までそれほど遠くないし危険もないのでこの街道を移動魔法の練習に使う人間は多かった。
「くれぐれも気をつけてね」
「うん。ありがとう。行ってくる」
ゼリンダは笑顔でシエルに手を振って門をくぐる。シエルはどこか不安げな表情で手を振り返した。
すれ違う人間の顔をちらちらと確認しながら、シエルは急いで馬車へ戻る。ローブを着ている人間も多かったので目当ての男がいたのかわからなかった。
「お帰り」
いつもと変わらない無表情なカイの顔を見て、ローブを羽織ったゼリンダはほっとして大きなため息を吐いた。ローブを脱いでいないので見た目はシエルのままだ。
「ただいまぁ」
ローブはウォルフガングから提供された王家に伝わる失われた秘術で作られたもので、一対になっていて着用した者の姿を入れ替えて見せる。カイも実物に触れるのは初めてだった。現代では禁呪となっている魔法を用いた魔導具を王家は多く所有しているが、使用は厳格に管理されている。今回はジルバーナーゲル家の最強魔法剣士とローズブレイド家の天才魔導師が作戦にどうしても必要だというので特例で貸し出された。ノーラいわく、ウォルフガングとカイを甘やかすおぢが王宮内に多くいる。
カイは今から大きな魔法を使うので、ゼリンダは邪魔をしないように向かいの席に座った。
天才魔導師は瞳を閉じて魔法に集中する。
「……よし。捕まえた」
カイがにやりと笑ったのと同時に、ゼリンダに見えるシエルにジエンが接触した。
ゼリンダがひとりきりになり、周囲にも人間がいなくなった瞬間にジエンは後ろから猛スピードで走って距離を詰めた。道の端に寄ってほうきをまたいで飛ぼうとしていたゼリンダの腕を捕らえようと手を伸ばす。
隠せていない魔力からジエンの気配を察知していたシエルはひらりとかわしてふたりは対峙した。
「なんだ、戦える女だったのか」
ジエンは舌打ちをしてゼリンダに見えるシエルを値踏みするように見る。シエルは冷たい双眸でジエンを睨んだだけで答えない。
カイがシエルとジエンを条件をクリアしないと出られない空間に閉じ込めた。周囲の景色が大きく変わっていないのでジエンは気づいていない。カイの適当な想像なので、よく見ると本来の草木の様子が違う。
シエルがここから出るにはジエンを捕らえるしかない。それがこの魔法空間に設定された条件だ。カイはいつもシエルへの無茶ぶりが過ぎると思うが、シエルは負ける気もなかった。天才魔導師からの厚い期待と信頼をいただき光栄の極みだ。ゼリンダを守るためだと思うと力が自然に湧いてくる。
「本当に何もわかってないし見えてない。気持ちの悪いケダモノだ」
ゼリンダが男の声で悪口を言い始めるのでジエンは混乱した。
「お前、男⁉」
先日の夜会でドレスを着ていたときは確かに胸があったので、ジエンはますます混乱する。
「お前には彼女の姿を見せておくのも嫌だな」
ゼリンダの名をこの男に聞かせることも嫌だと感じた。シエルがほうきを手放しローブを脱ぎ捨てると本来の姿がジエンにも視認できるようになった。
「何なんだ……?」
トウ国にも幻術はあるが、ジエンはこんな魔法を目の当たりにするのは初めてだった。シエルが夜会でゼリンダの隣にいた色男の片割れだと思い出す。
「ま、いいや」
ジエンはすぐに気を取り直し、首と肩を回してからその場で軽く二回ジャンプした。こんな優男、敵ではないとにやにやする。元マフィアで、世界中で犯罪を犯した自分に自信があった。
シエルは腰に携えていた細身の剣を抜いて霞の構えを取った。
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