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生殺与奪
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ジエンが彼より強い者を倒せる理由は、毒の魔法を使えるからだ。素肌に触れられれば手足を痺れさせる毒を相手に注入できる。傷口であればさらに効果が高くなる。殺すことができるほど強い毒ではないところがジエンにとっても使い勝手が良かった。この魔法は何度もジエンを窮地から救った。
痩身の小男は短剣を逆手に構えるが、対峙するシエルは一寸の隙も見せない。ジエンはどう攻撃するべきか悩んだ。剣も腕も、シエルの方がリーチが長い。強い者はジエンのこのスタイルを見れば大抵油断する。まじめに鍛錬してきた者ほど、一目でジエンはきちんとした訓練を受けていないとわかる。そこにジエンの勝機が生まれる。しかし今日はシエルの闘気に気圧されていた。
勝てる気がしないと思ったのは生まれて初めてのことで、ジエンは狼狽した。尻尾を巻いて逃げ出そうとシエルに背を向けて走り出したが、見えない壁に激突する。
「な……何なんだよ」
逃げ場を失ったジエンは再びシエルに向き直る。破れかぶれで雄叫びを上げながら、短刀を振り回してシエルに襲いかかった。
シエルは冷静に対処する。ジエンを生け捕りにするのがウォルフガングの希望だった。マキシムから、ジエンのおおよその力量と、魔物を倒すときに直接触れていた情報をもらっていたのは助かった。ジエンに触れられないように剣を振って近づけさせず、風魔法でカイの作った魔法の壁にジエンを押し付ける。
「ぐあっ!」
風圧でジエンは潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
シエルに指一本触れられず敗北する。屈辱だと思った瞬間にジエンの視界は真っ暗になった。
カイから渡されていた拘束用の大きな布のような魔道具でジエンを頭から爪先まできつく包んで地面に転がした。文字通り、ジエンは手も足も出なくなった。顔も覆っているが、魔道具なので呼吸だけはできるようになっている。
シエルがジエンを倒すという魔法の解除条件を満たしたので、透明な壁は消え去る。
「シエルくん、ありがとう~」
ほうきもなしにふわりと飛んできたのはすでにひと仕事終えたウォルフガングだった。
「こちらこそ、ありがとうございます。こいつをテハノにせずに済みました」
「いやいや。みんなが協力してくれたおかげだよ。俺ひとりだったらこれは駆除するしかなかった」
ウォルフガングはへらへらした口調で物騒なことをさらりと言う。
ジエンをテハノにしようと狙っていたスーユーたちは、一足先にウォルフガングによって拘束されていた。そのおかげでジエンはテハノにならずに済んだ。
「じゃあ、俺はちょっと本丸へ行ってくる。みんなは休んでて。特にカイくんはデカい魔法使わせたし」
「ありがとうございます」
「こいつはもらっていくね」
ウォルフガングは簀巻きにしたジエンを魔法で浮かせた。警察に引き渡す前に連れて行きたい場所があった。視界を塞がれ行動もできず、ただ外の会話を聞くしかできないジエンは恐怖に震える。駆除するしかしかないと言った人間に生殺与奪の権を握られていると悟ったからだ。人間とすら思われていない。布の中でジエンはエビのように暴れて、どうにか逃げ出そうとする。
「往生際が悪いなぁ」
ジエンの身体は棒のように動かなくなる。本人がどんなに暴れようと試みてもびくともしない。恐怖でジエンは涙と鼻水があふれてきた。
「お前に傷つけられた人たちの痛みは、こんなものじゃない」
聞いた者は鼓膜から凍りついてしまいそうに冷たいウォルフガングの声に、ジエンは抵抗を諦めた。
瞬間移動かと思う速さで移動するウォルフガングはすぐに姿が見えなくなった。シエルは無事仕事を終えられたことに安堵して深呼吸する。
今すぐゼリンダを抱きしめたいと思った。
痩身の小男は短剣を逆手に構えるが、対峙するシエルは一寸の隙も見せない。ジエンはどう攻撃するべきか悩んだ。剣も腕も、シエルの方がリーチが長い。強い者はジエンのこのスタイルを見れば大抵油断する。まじめに鍛錬してきた者ほど、一目でジエンはきちんとした訓練を受けていないとわかる。そこにジエンの勝機が生まれる。しかし今日はシエルの闘気に気圧されていた。
勝てる気がしないと思ったのは生まれて初めてのことで、ジエンは狼狽した。尻尾を巻いて逃げ出そうとシエルに背を向けて走り出したが、見えない壁に激突する。
「な……何なんだよ」
逃げ場を失ったジエンは再びシエルに向き直る。破れかぶれで雄叫びを上げながら、短刀を振り回してシエルに襲いかかった。
シエルは冷静に対処する。ジエンを生け捕りにするのがウォルフガングの希望だった。マキシムから、ジエンのおおよその力量と、魔物を倒すときに直接触れていた情報をもらっていたのは助かった。ジエンに触れられないように剣を振って近づけさせず、風魔法でカイの作った魔法の壁にジエンを押し付ける。
「ぐあっ!」
風圧でジエンは潰れたカエルのような悲鳴を上げた。
シエルに指一本触れられず敗北する。屈辱だと思った瞬間にジエンの視界は真っ暗になった。
カイから渡されていた拘束用の大きな布のような魔道具でジエンを頭から爪先まできつく包んで地面に転がした。文字通り、ジエンは手も足も出なくなった。顔も覆っているが、魔道具なので呼吸だけはできるようになっている。
シエルがジエンを倒すという魔法の解除条件を満たしたので、透明な壁は消え去る。
「シエルくん、ありがとう~」
ほうきもなしにふわりと飛んできたのはすでにひと仕事終えたウォルフガングだった。
「こちらこそ、ありがとうございます。こいつをテハノにせずに済みました」
「いやいや。みんなが協力してくれたおかげだよ。俺ひとりだったらこれは駆除するしかなかった」
ウォルフガングはへらへらした口調で物騒なことをさらりと言う。
ジエンをテハノにしようと狙っていたスーユーたちは、一足先にウォルフガングによって拘束されていた。そのおかげでジエンはテハノにならずに済んだ。
「じゃあ、俺はちょっと本丸へ行ってくる。みんなは休んでて。特にカイくんはデカい魔法使わせたし」
「ありがとうございます」
「こいつはもらっていくね」
ウォルフガングは簀巻きにしたジエンを魔法で浮かせた。警察に引き渡す前に連れて行きたい場所があった。視界を塞がれ行動もできず、ただ外の会話を聞くしかできないジエンは恐怖に震える。駆除するしかしかないと言った人間に生殺与奪の権を握られていると悟ったからだ。人間とすら思われていない。布の中でジエンはエビのように暴れて、どうにか逃げ出そうとする。
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「お前に傷つけられた人たちの痛みは、こんなものじゃない」
聞いた者は鼓膜から凍りついてしまいそうに冷たいウォルフガングの声に、ジエンは抵抗を諦めた。
瞬間移動かと思う速さで移動するウォルフガングはすぐに姿が見えなくなった。シエルは無事仕事を終えられたことに安堵して深呼吸する。
今すぐゼリンダを抱きしめたいと思った。
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