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強襲
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ガブリエルは久しぶりに眠れている感覚があった。スーユーの仇をテハノにして、ヴィーラ王国の魔物討伐者に処分してもらうために半数以上が出払ったので家の中の空気が落ち着いていた。
潜伏できる屋敷なのであまり日当たりは良くない。更に厚いカーテンで遮られ外とは縁がない。空気もひやりとしている。そんな家の中なのに、ここはとても天気が良い。これは夢だと理解するが、ガブリエルが隣に視線を向けると彼女がいた。青空の下で愛らしい笑顔を見せてくれる。夢を見るのも久しぶりだが、彼女の姿を目の当たりにしたのも葬儀の日以来だった。無邪気な彼女を前に、胸に温かいものが広がっていく。
「……っ」
名前を呼びたいのに、上手く声帯を操れない。血に染まりすぎて、美しい彼女の名を呼ぶ資格を奪われたらしい。
彼女が苦笑いを浮かべた次の瞬間にガブリエルはハッと目を覚ます。ほぼ同時に轟音が鳴った。
懐かしい気配が部屋にある。砂煙の中の長身の影はすぐに誰のものかわかった。しかしここまで彼に気づけなかったことに、ガブリエルは自嘲する。
「派手な登場だな」
「お行儀良く玄関から訪ねたって入れてくれないだろ?」
外から壁をぶち壊して侵入したウォルフガングはニヤリと不敵に笑う。
「ほら、土産」
ウォルフガングはぞんざいに、シエルから預かった魔道具に拘束されて顔も見えないジエンをガブリエルの足元に転がす。人間の形をした布はごろごろとその場を行き来するが、それ以上のことは何も起こらない。
ガブリエルは無表情に謎の動く布を眺めた。魔導具で人間を閉じ込めていることはわかる。おそらくウォルフガングの魔法で自由を奪われた今回のターゲットが入っているのだろう。
「これをどうしろと?」
「お前たちが探してたヒトデナシだから、持ってきてやったのに」
無表情に問いかけるガブリエルに、ウォルフガングは冷笑で応える。答え合わせができたのでガブリエルはため息をついた。これがここにあるということは、向かった者たちは失敗したのだろう。
「嬉しくない土産だな」
「だって嫌味で持ってきたんだもん」
にぱっとウォルフガング本人にとってはかわいい笑顔を浮かべるのを見て、こいつはこういうやつだったとガブリエルはくつくつと喉の奥で笑った。笑うという行動も久しぶりな気がしてはたと動きが止まる。
屋敷に残っていた人間は誰も来ない。ガブリエルも来なくて良いと思っていた。今、ここにいた者はガブリエル以外魔法を使えないはずだ。何かあれば逃げるようにも伝えていた。
「自分で付いてくる? 俺が縛って連れて行く?」
「こんな身体でお前相手に、逃げも隠れもできないだろう」
ガブリエルは最後に会ったときよりずいぶんやつれていた。健康に気を配らず、魔法石の手入れもせず、緩やかに自分を殺そうとしていたのだろう。それなのに仲間を引き連れて他人の復讐に手を貸していたなんて、ある意味こいつらしいとウォルフガングは思う。
観念したガブリエルは両手を前に出した。もう飛べないほど弱っているのかとウォルフガングの胸は小さく痛む。
「簡単に死ねると思うなよ?」
ウォルフガングは念のため、ガブリエルの両手を魔法封じの手錠で後ろ手に拘束し、舌を噛み切らないよう魔導具のマウスピースを噛ませる。ガブリエルとジエンを警察に引き渡すために飛ぼうとして、まだやり残したことがあったと思い出した。
「あ、そうだ。人間をテハノにする魔法の設計図か魔導書ある?」
今日の夕飯を尋ねるような気安さで質問してくるウォルフガングにあきれながらも、ガブリエルはどこか安心していた。素直に魔導書の在処を視線で教える。
カイとの約束を果たしたウォルフガングは、罪人ふたりを連れて空へ飛んだ。
潜伏できる屋敷なのであまり日当たりは良くない。更に厚いカーテンで遮られ外とは縁がない。空気もひやりとしている。そんな家の中なのに、ここはとても天気が良い。これは夢だと理解するが、ガブリエルが隣に視線を向けると彼女がいた。青空の下で愛らしい笑顔を見せてくれる。夢を見るのも久しぶりだが、彼女の姿を目の当たりにしたのも葬儀の日以来だった。無邪気な彼女を前に、胸に温かいものが広がっていく。
「……っ」
名前を呼びたいのに、上手く声帯を操れない。血に染まりすぎて、美しい彼女の名を呼ぶ資格を奪われたらしい。
彼女が苦笑いを浮かべた次の瞬間にガブリエルはハッと目を覚ます。ほぼ同時に轟音が鳴った。
懐かしい気配が部屋にある。砂煙の中の長身の影はすぐに誰のものかわかった。しかしここまで彼に気づけなかったことに、ガブリエルは自嘲する。
「派手な登場だな」
「お行儀良く玄関から訪ねたって入れてくれないだろ?」
外から壁をぶち壊して侵入したウォルフガングはニヤリと不敵に笑う。
「ほら、土産」
ウォルフガングはぞんざいに、シエルから預かった魔道具に拘束されて顔も見えないジエンをガブリエルの足元に転がす。人間の形をした布はごろごろとその場を行き来するが、それ以上のことは何も起こらない。
ガブリエルは無表情に謎の動く布を眺めた。魔導具で人間を閉じ込めていることはわかる。おそらくウォルフガングの魔法で自由を奪われた今回のターゲットが入っているのだろう。
「これをどうしろと?」
「お前たちが探してたヒトデナシだから、持ってきてやったのに」
無表情に問いかけるガブリエルに、ウォルフガングは冷笑で応える。答え合わせができたのでガブリエルはため息をついた。これがここにあるということは、向かった者たちは失敗したのだろう。
「嬉しくない土産だな」
「だって嫌味で持ってきたんだもん」
にぱっとウォルフガング本人にとってはかわいい笑顔を浮かべるのを見て、こいつはこういうやつだったとガブリエルはくつくつと喉の奥で笑った。笑うという行動も久しぶりな気がしてはたと動きが止まる。
屋敷に残っていた人間は誰も来ない。ガブリエルも来なくて良いと思っていた。今、ここにいた者はガブリエル以外魔法を使えないはずだ。何かあれば逃げるようにも伝えていた。
「自分で付いてくる? 俺が縛って連れて行く?」
「こんな身体でお前相手に、逃げも隠れもできないだろう」
ガブリエルは最後に会ったときよりずいぶんやつれていた。健康に気を配らず、魔法石の手入れもせず、緩やかに自分を殺そうとしていたのだろう。それなのに仲間を引き連れて他人の復讐に手を貸していたなんて、ある意味こいつらしいとウォルフガングは思う。
観念したガブリエルは両手を前に出した。もう飛べないほど弱っているのかとウォルフガングの胸は小さく痛む。
「簡単に死ねると思うなよ?」
ウォルフガングは念のため、ガブリエルの両手を魔法封じの手錠で後ろ手に拘束し、舌を噛み切らないよう魔導具のマウスピースを噛ませる。ガブリエルとジエンを警察に引き渡すために飛ぼうとして、まだやり残したことがあったと思い出した。
「あ、そうだ。人間をテハノにする魔法の設計図か魔導書ある?」
今日の夕飯を尋ねるような気安さで質問してくるウォルフガングにあきれながらも、ガブリエルはどこか安心していた。素直に魔導書の在処を視線で教える。
カイとの約束を果たしたウォルフガングは、罪人ふたりを連れて空へ飛んだ。
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