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ただいま
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「ただいま」
馬車に戻ってきたシエルの柔らかな笑顔を見て、ゼリンダはホッとした。
「おかえり!」
客車の狭さにも関わらず、顔を見るなり飛びついてきたゼリンダをシエルはぎゅっと抱きしめる。恋人の甘い髪の香りに戦いの直後で昂ぶっていた神経がほぐされた。
「早かったな」
「情報をもらって、やることは決まってたからね。人間は魔物より予想外はないから。ウォルフガングさんがすぐに引き取りに来てくれたし」
何のことはない会話のように話すカイとシエルを、改めてすごいとシエルの腕の中で思いながらふたりの顔を見つめる。ゼリンダは入れ替わっているだけで足が震えそうだった。
「まあ、人間相手はそんなに実践経験ないから、やりすぎないかちょっと緊張したけどね」
苦笑いをして肩をすくめるシエルをゼリンダはきゅっと抱きしめ返した。ゼリンダはシエルの言葉に目を瞠る。
「カイの言う通りだった」
「何の話?」
ゼリンダがぽつりとこぼした言葉が何の話かさっぱりわからないシエルは首を傾げる。
「カイがシエルはやり過ぎないように気をつけたって、帰ってきたら言うって。あんな奴に負けるわけないからって」
「俺の相棒だぞ。当たり前だろ」
特に誇張も謙遜もなく、当然のことだと言い切るカイを見て、シエルの心のどこかでずっとモヤモヤしていたものがスッと霧散した。どうして天才魔導師が自分をバディに選んだのか、ずっと自信が持てなかった。だが自分から離れる勇気もなかった。しかしカイはちゃんとシエルの視野の広さや気遣いだけではなく、強さも認めてくれていたのだ。多分、カイから声をかけてきたときから。
シエルはぐだぐだ悩んでいたことがおかしくなって、ぷっと吹き出すと収まらなくなり大きな口を開けて笑う。シエルがこんな笑い方をするのを初めて見たカイとゼリンダはぽかんとなった。
「わ、私だって、シエルが負けるなんて思ってないよ⁉ でも、シエルが怪我させられたら嫌だなって……」
「うん。ありがとう」
「だから私も鍛える! 戦場で回復魔法使えるようになる! あと攻撃魔法も使えるようにならないかな? そしたらずっと一緒にいられるから、離れた場所で心配してなくて良いよね?」
「やってみれば」
「え?」
やる気のゼリンダに、カイは小さく笑った。シエルは戸惑う。
「やってみる!」
大きく頷いたゼリンダがかわいかったので、一緒に戦う未来があっても良いかもしれないとシエルも思った。
「まずは筋肉かな。何か武器も持てた方が良いよね?」
先走るゼリンダを見て、シエルは若干不安になる。
「ゼリンダ、ちょっと落ち着いて……?」
「だって私が足手まといじゃなきゃ、カイも一緒に戦ってたでしょ?」
味方を増やそうとゼリンダはカイへ振り向くが、カイは首を横に振った。
「今回は行かない」
人数が多ければ良いというわけではないのか、とゼリンダは知る。だが一度付いた火は収まらなかった。
「やるぞー!」
客車の中でシエルに抱きしめられたままトレーニングをはじめそうな勢いのゼリンダを、カイが背中から抱きすくめる。ゼリンダはカイの纏う空気を察知して急に大人しくなる。
「その前に、ゼリンダには大事な仕事があるだろ?」
「そうだね。俺たちの魔法石をしっかりきれいにしてもらわなきゃ」
妖艶な雰囲気を醸し出すふたりの美男子に挟まれ、ゼリンダは真っ赤になった。
「今、ここで?」
「アジトまではキスで我慢する」
カイの端正な唇がゼリンダの耳朶を食む。シエルはしなやかな手でゼリンダの頬を撫で、ゆっくり唇を重ねた。
ふたりの魔法石をきれいに保つことと戦闘参加の両方は大変すぎるかもしれないと、ゼリンダは早くも悩みはじめた。
馬車に戻ってきたシエルの柔らかな笑顔を見て、ゼリンダはホッとした。
「おかえり!」
客車の狭さにも関わらず、顔を見るなり飛びついてきたゼリンダをシエルはぎゅっと抱きしめる。恋人の甘い髪の香りに戦いの直後で昂ぶっていた神経がほぐされた。
「早かったな」
「情報をもらって、やることは決まってたからね。人間は魔物より予想外はないから。ウォルフガングさんがすぐに引き取りに来てくれたし」
何のことはない会話のように話すカイとシエルを、改めてすごいとシエルの腕の中で思いながらふたりの顔を見つめる。ゼリンダは入れ替わっているだけで足が震えそうだった。
「まあ、人間相手はそんなに実践経験ないから、やりすぎないかちょっと緊張したけどね」
苦笑いをして肩をすくめるシエルをゼリンダはきゅっと抱きしめ返した。ゼリンダはシエルの言葉に目を瞠る。
「カイの言う通りだった」
「何の話?」
ゼリンダがぽつりとこぼした言葉が何の話かさっぱりわからないシエルは首を傾げる。
「カイがシエルはやり過ぎないように気をつけたって、帰ってきたら言うって。あんな奴に負けるわけないからって」
「俺の相棒だぞ。当たり前だろ」
特に誇張も謙遜もなく、当然のことだと言い切るカイを見て、シエルの心のどこかでずっとモヤモヤしていたものがスッと霧散した。どうして天才魔導師が自分をバディに選んだのか、ずっと自信が持てなかった。だが自分から離れる勇気もなかった。しかしカイはちゃんとシエルの視野の広さや気遣いだけではなく、強さも認めてくれていたのだ。多分、カイから声をかけてきたときから。
シエルはぐだぐだ悩んでいたことがおかしくなって、ぷっと吹き出すと収まらなくなり大きな口を開けて笑う。シエルがこんな笑い方をするのを初めて見たカイとゼリンダはぽかんとなった。
「わ、私だって、シエルが負けるなんて思ってないよ⁉ でも、シエルが怪我させられたら嫌だなって……」
「うん。ありがとう」
「だから私も鍛える! 戦場で回復魔法使えるようになる! あと攻撃魔法も使えるようにならないかな? そしたらずっと一緒にいられるから、離れた場所で心配してなくて良いよね?」
「やってみれば」
「え?」
やる気のゼリンダに、カイは小さく笑った。シエルは戸惑う。
「やってみる!」
大きく頷いたゼリンダがかわいかったので、一緒に戦う未来があっても良いかもしれないとシエルも思った。
「まずは筋肉かな。何か武器も持てた方が良いよね?」
先走るゼリンダを見て、シエルは若干不安になる。
「ゼリンダ、ちょっと落ち着いて……?」
「だって私が足手まといじゃなきゃ、カイも一緒に戦ってたでしょ?」
味方を増やそうとゼリンダはカイへ振り向くが、カイは首を横に振った。
「今回は行かない」
人数が多ければ良いというわけではないのか、とゼリンダは知る。だが一度付いた火は収まらなかった。
「やるぞー!」
客車の中でシエルに抱きしめられたままトレーニングをはじめそうな勢いのゼリンダを、カイが背中から抱きすくめる。ゼリンダはカイの纏う空気を察知して急に大人しくなる。
「その前に、ゼリンダには大事な仕事があるだろ?」
「そうだね。俺たちの魔法石をしっかりきれいにしてもらわなきゃ」
妖艶な雰囲気を醸し出すふたりの美男子に挟まれ、ゼリンダは真っ赤になった。
「今、ここで?」
「アジトまではキスで我慢する」
カイの端正な唇がゼリンダの耳朶を食む。シエルはしなやかな手でゼリンダの頬を撫で、ゆっくり唇を重ねた。
ふたりの魔法石をきれいに保つことと戦闘参加の両方は大変すぎるかもしれないと、ゼリンダは早くも悩みはじめた。
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