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1章
『白』の血
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「お祖父ちゃん……?」
少し淳くんに似た容姿と空気の男性をお祖父ちゃんだと思ったのは、直感だった。
だって今、私の目の前にいるのは、私の知っているお祖父ちゃんよりずっと若い男の人だったから。
推定お祖父ちゃんは私を見てとても穏やかに微笑んだ。お祖父ちゃんで間違いないみたい。
「みさき達に渡したい手紙があるんだ」
目覚まし時計の音で目が覚めた。大きなあくびをしながらスイッチをオフにする。
若いお祖父ちゃんに会ったのは夢の中だった。
まだ頭がぼうっとしているけれど、さっきの夢は鮮明に覚えている。
お祖父ちゃんの遺した手紙があって、それを隠したおおまかな場所を教えてくれた。
見つけるには探さないといけない。
左腕にちくりと痛みを感じ、パジャマの袖を捲くってみる。昨夜、吸血種の少年に噛み付かれた痕がまだくっきりとあった。
彼は私の血を吸い、倒れた。
一般的に吸血種に血を吸われると死んでしまうか吸血種になると思われている。
だけど人間が吸血種に血を吸われて死んでしまうときは失血死やショック死なので、1度襲撃されただけで亡くなることはそれほど多くない。
吸血種は催眠をかける力を大抵持っているので、吸われた人が覚えていることはほぼ無い。
だから何度も血を吸われるうちにだんだん身体が弱っていく。
吸血種に血を吸われて亡くなった人間の全てが吸血種になるわけでもない。
なる人間とならない人間の数の差は正確にはわからないけれど、吸血種に変身する人間の方が圧倒的に少ないそう。
だけど私の血は、吸血種を変質させてしまう。
闇に紛れてしか動けない彼らが、私の血をほんのひと雫でも体内に取り込むと、光を浴びても活動でき、人間と同じような食事から栄養を吸収できるようになる。
完全に人間になるわけではないから、外見が自然に年齢を重ねることはないみたい。本人の意思で変えることはできるそう。
子どもから大人はやり易いけれど、逆パターンは難しいらしい。
こちらも人間が吸血種になるのと同じで、全ての吸血種が私の血を吸ったからといって|そうなるわけではない。
お祖父ちゃんは私と同じ力を持っていた。
淳くん、眞澄くん、誠史郎さんはお祖父ちゃんの血を吸ってそうなった、元吸血種。お祖父ちゃんはみんなを『白の眷属』と呼んでいた。
私の血を吸った少年は、できれば眷属になってもらえたら良いなと思う。
初仕事の緊張と疲労で昨夜は家に着くなり泥のように眠ってしまったので、彼の様子を見に行こうと着替えて部屋を出る。
「おはよう……」
結界の張ってある部屋のドアをそろっと開ける。
中には床に座っている淳くんと、意識なくお布団の上に横たわる少年がいた。
「おはよう」
「どう……かな?」
できるだけ静かに淳くんの隣に座る。
「多分、こちら側にくる」
昨夜淳くんに撃たれた肩の傷はすでに消えてなくなっていた。吸血種は回復力もすごい。完全に倒すには心臓を破壊するか、首を落とすぐらいしか方法はない。
「まだ2、3日は眠ったままだと思うけど、眷属になれないものはもう灰になっているだろうから。それより」
淳くんが不意に私の手を引いた。私は彼に背中から抱きしめられるような体勢になって驚いてしまう。
「傷は痛まない?」
淳くんが私の袖を捲くり、噛み跡を優しく指先でなぞる。耳朶に触れる淳くんの吐息がくすぐったい。
「う、うん……」
頬が紅潮し、身体が固まった。
「傍にいたのに、ごめん」
「あ、淳くんは悪くないよ!私がぼんやりふらふらしてたから」
勢いよく横を向くと鼻の頭がくっつく距離に淳くんの顔があった。余りの近さとまつ毛の長さに、私は思わず息を呑んだ。
「あつしー」
廊下からのんびりとした眞澄くんの声が聞こえる。すると淳くんは微かに苦笑して立ち上がった。
「どうかした?」
淳くんは言いながらドアを開ける。
私は急いでそちらに背を向けた。まだ頬が熱く、鼓動がうるさいから落ち着こうと思った。
「あいつの様子はどうかと思って。あれ、みさきもいたのか」
「さ、さっき来たの」
なぜか眞澄くんの顔を見ることができない。
「あとは彼のがんばり次第。だけど学校へ行っている間に起きられるのも困るから、今日はここに封鎖の結界を張っておこう。留守の時間に真壁さんに入り込まれても困るからね」
「そうだな」
ふたりが部屋を離れようとする。
「誠史郎が朝メシ作ってるから、みさきも来いよ」
「あ、うん」
自分の両手で頬をぱちんと軽く叩いて気合いを入れてから、立って振り返る。そしてふたりに駆け寄った。
少し淳くんに似た容姿と空気の男性をお祖父ちゃんだと思ったのは、直感だった。
だって今、私の目の前にいるのは、私の知っているお祖父ちゃんよりずっと若い男の人だったから。
推定お祖父ちゃんは私を見てとても穏やかに微笑んだ。お祖父ちゃんで間違いないみたい。
「みさき達に渡したい手紙があるんだ」
目覚まし時計の音で目が覚めた。大きなあくびをしながらスイッチをオフにする。
若いお祖父ちゃんに会ったのは夢の中だった。
まだ頭がぼうっとしているけれど、さっきの夢は鮮明に覚えている。
お祖父ちゃんの遺した手紙があって、それを隠したおおまかな場所を教えてくれた。
見つけるには探さないといけない。
左腕にちくりと痛みを感じ、パジャマの袖を捲くってみる。昨夜、吸血種の少年に噛み付かれた痕がまだくっきりとあった。
彼は私の血を吸い、倒れた。
一般的に吸血種に血を吸われると死んでしまうか吸血種になると思われている。
だけど人間が吸血種に血を吸われて死んでしまうときは失血死やショック死なので、1度襲撃されただけで亡くなることはそれほど多くない。
吸血種は催眠をかける力を大抵持っているので、吸われた人が覚えていることはほぼ無い。
だから何度も血を吸われるうちにだんだん身体が弱っていく。
吸血種に血を吸われて亡くなった人間の全てが吸血種になるわけでもない。
なる人間とならない人間の数の差は正確にはわからないけれど、吸血種に変身する人間の方が圧倒的に少ないそう。
だけど私の血は、吸血種を変質させてしまう。
闇に紛れてしか動けない彼らが、私の血をほんのひと雫でも体内に取り込むと、光を浴びても活動でき、人間と同じような食事から栄養を吸収できるようになる。
完全に人間になるわけではないから、外見が自然に年齢を重ねることはないみたい。本人の意思で変えることはできるそう。
子どもから大人はやり易いけれど、逆パターンは難しいらしい。
こちらも人間が吸血種になるのと同じで、全ての吸血種が私の血を吸ったからといって|そうなるわけではない。
お祖父ちゃんは私と同じ力を持っていた。
淳くん、眞澄くん、誠史郎さんはお祖父ちゃんの血を吸ってそうなった、元吸血種。お祖父ちゃんはみんなを『白の眷属』と呼んでいた。
私の血を吸った少年は、できれば眷属になってもらえたら良いなと思う。
初仕事の緊張と疲労で昨夜は家に着くなり泥のように眠ってしまったので、彼の様子を見に行こうと着替えて部屋を出る。
「おはよう……」
結界の張ってある部屋のドアをそろっと開ける。
中には床に座っている淳くんと、意識なくお布団の上に横たわる少年がいた。
「おはよう」
「どう……かな?」
できるだけ静かに淳くんの隣に座る。
「多分、こちら側にくる」
昨夜淳くんに撃たれた肩の傷はすでに消えてなくなっていた。吸血種は回復力もすごい。完全に倒すには心臓を破壊するか、首を落とすぐらいしか方法はない。
「まだ2、3日は眠ったままだと思うけど、眷属になれないものはもう灰になっているだろうから。それより」
淳くんが不意に私の手を引いた。私は彼に背中から抱きしめられるような体勢になって驚いてしまう。
「傷は痛まない?」
淳くんが私の袖を捲くり、噛み跡を優しく指先でなぞる。耳朶に触れる淳くんの吐息がくすぐったい。
「う、うん……」
頬が紅潮し、身体が固まった。
「傍にいたのに、ごめん」
「あ、淳くんは悪くないよ!私がぼんやりふらふらしてたから」
勢いよく横を向くと鼻の頭がくっつく距離に淳くんの顔があった。余りの近さとまつ毛の長さに、私は思わず息を呑んだ。
「あつしー」
廊下からのんびりとした眞澄くんの声が聞こえる。すると淳くんは微かに苦笑して立ち上がった。
「どうかした?」
淳くんは言いながらドアを開ける。
私は急いでそちらに背を向けた。まだ頬が熱く、鼓動がうるさいから落ち着こうと思った。
「あいつの様子はどうかと思って。あれ、みさきもいたのか」
「さ、さっき来たの」
なぜか眞澄くんの顔を見ることができない。
「あとは彼のがんばり次第。だけど学校へ行っている間に起きられるのも困るから、今日はここに封鎖の結界を張っておこう。留守の時間に真壁さんに入り込まれても困るからね」
「そうだな」
ふたりが部屋を離れようとする。
「誠史郎が朝メシ作ってるから、みさきも来いよ」
「あ、うん」
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