10 / 145
2章
狙われた少年 2
しおりを挟む
「確かに、あまり良い精神状態ではありませんでしたね」
誠史郎さんが仕事を終え帰宅して食事を済ませ、少し落ち着いたところで佐藤くんと接触した話をしてくれた。
「人間関係にも問題を抱えているようですし、足を痛めてクラブ活動も思うようにできない様子でした。学生の間はそう言ったことが全てだと思いがちですから、思い詰めてしまうこともあるかと」
「魅入られてしまうと厄介だけど、彼がそうなるとも限らないから、できるなら夢魔を押さえたいね」
そう言ったのは淳くん。力の強い夢魔がいると、影響を受けやすい状態のひとは自分で夢魔を生み出しやすい。それがまた新たな夢魔を呼び込むという悪循環に陥ってしまう。
「具体的な居場所はわからないのか?」
眞澄くんの質問にみやびちゃんは首を横に振った。
「裕翔が見てみたいって言うからみんなの通ってる学校の近くに行ってんだけど、向こうも私が気が付いたことを察知したみたいですぐに気配がなくなったの」
「おや、私たちのいる高校に目をつけたのですか」
誠史郎さんは眼鏡の切れ長の双眸を鋭く細める。
「高校生男子なんて夢魔の好きそうな煩悩の塊だからな。惹かれるなって言う方が無理な話だろ」
眞澄くんがソファーの背もたれで伸びをしながら呟く。
「眞澄、みさきがいるのに、デリカシーなーい」
「お前が言うな」
からかう口調の裕翔くんに眞澄くんはすかさずこめかみを拳骨でぐりぐりとする。
「私たちは基本的に事が起こってからしか動けないのですから、今はできることをしましょう。高校を狙ってくるのであれば、こちらも対処がしやすいです」
「誠史郎の言う通りだよ。だから、みさきはこれから何が起こっても責任感じないように。ね?」
淳くんが優しく微笑みかけてくれる。
「刑事事件を起こされなきゃ俺たちの勝ちさ」
眞澄くんは不敵な笑みを唇の端に湛えたわ。
†††††††
薄暗い部屋にふたつの人影があった。
「高校生に介入して、どうするつもり?」
そう問いを投げかけたのは30歳前後と思われる、理想のキャリアウーマンを絵に描いたような整った容姿の女性だ。
「戯れだよ、ただの。彼らの思い描きやすそうなシナリオを提供してあげようと思っただけさ。君たちは彼らの内側を知りたい。ボクも彼らに興味がある。あの白い乙女はアスモデウス様に献上すればきっとお喜びになるよ」
返答したのは中性的な美しさの外見の者だが声色は成人男性のものだ。実体はなく宙を漂っている。
「私たちが用があるのは彼女ではないの。だけどあの子がいない彼らにも意味はない。勝手なことをしないで頂戴。貴方の出世の手伝いをするつもりはないの」
「なるほど。契約主がそうおっしゃるなら仕方ない。楽しいゲームになると思ったのだけど」
「そんなものは必要ないわ。命令だけを聞いて」
「了解したよ」
これだから悪魔は嫌なのだと彼女は奥歯を噛み締めた。彼は十中八九余計なことをする。それで彼だけに被害ある分には構わないが、こちらまで巻き込まれてはしまうのは御免被る。
「では、良い報せを届けられるように努力してみるよ」
そううそぶき彼は姿を消した。
「全く……」
大きくため息を吐く。妖術師となってからの経験が浅く、契約を交わせたのは出世欲の強い、しかしながら低級のインキュバスだった自分の力不足が恨めしい。
もっと力をつけねば、と彼女は細い拳を握りしめた。
あの人の役に立ちたい。
その思いだけで全てを投げ出したのだ。誰にも邪魔はさせない。
誠史郎さんが仕事を終え帰宅して食事を済ませ、少し落ち着いたところで佐藤くんと接触した話をしてくれた。
「人間関係にも問題を抱えているようですし、足を痛めてクラブ活動も思うようにできない様子でした。学生の間はそう言ったことが全てだと思いがちですから、思い詰めてしまうこともあるかと」
「魅入られてしまうと厄介だけど、彼がそうなるとも限らないから、できるなら夢魔を押さえたいね」
そう言ったのは淳くん。力の強い夢魔がいると、影響を受けやすい状態のひとは自分で夢魔を生み出しやすい。それがまた新たな夢魔を呼び込むという悪循環に陥ってしまう。
「具体的な居場所はわからないのか?」
眞澄くんの質問にみやびちゃんは首を横に振った。
「裕翔が見てみたいって言うからみんなの通ってる学校の近くに行ってんだけど、向こうも私が気が付いたことを察知したみたいですぐに気配がなくなったの」
「おや、私たちのいる高校に目をつけたのですか」
誠史郎さんは眼鏡の切れ長の双眸を鋭く細める。
「高校生男子なんて夢魔の好きそうな煩悩の塊だからな。惹かれるなって言う方が無理な話だろ」
眞澄くんがソファーの背もたれで伸びをしながら呟く。
「眞澄、みさきがいるのに、デリカシーなーい」
「お前が言うな」
からかう口調の裕翔くんに眞澄くんはすかさずこめかみを拳骨でぐりぐりとする。
「私たちは基本的に事が起こってからしか動けないのですから、今はできることをしましょう。高校を狙ってくるのであれば、こちらも対処がしやすいです」
「誠史郎の言う通りだよ。だから、みさきはこれから何が起こっても責任感じないように。ね?」
淳くんが優しく微笑みかけてくれる。
「刑事事件を起こされなきゃ俺たちの勝ちさ」
眞澄くんは不敵な笑みを唇の端に湛えたわ。
†††††††
薄暗い部屋にふたつの人影があった。
「高校生に介入して、どうするつもり?」
そう問いを投げかけたのは30歳前後と思われる、理想のキャリアウーマンを絵に描いたような整った容姿の女性だ。
「戯れだよ、ただの。彼らの思い描きやすそうなシナリオを提供してあげようと思っただけさ。君たちは彼らの内側を知りたい。ボクも彼らに興味がある。あの白い乙女はアスモデウス様に献上すればきっとお喜びになるよ」
返答したのは中性的な美しさの外見の者だが声色は成人男性のものだ。実体はなく宙を漂っている。
「私たちが用があるのは彼女ではないの。だけどあの子がいない彼らにも意味はない。勝手なことをしないで頂戴。貴方の出世の手伝いをするつもりはないの」
「なるほど。契約主がそうおっしゃるなら仕方ない。楽しいゲームになると思ったのだけど」
「そんなものは必要ないわ。命令だけを聞いて」
「了解したよ」
これだから悪魔は嫌なのだと彼女は奥歯を噛み締めた。彼は十中八九余計なことをする。それで彼だけに被害ある分には構わないが、こちらまで巻き込まれてはしまうのは御免被る。
「では、良い報せを届けられるように努力してみるよ」
そううそぶき彼は姿を消した。
「全く……」
大きくため息を吐く。妖術師となってからの経験が浅く、契約を交わせたのは出世欲の強い、しかしながら低級のインキュバスだった自分の力不足が恨めしい。
もっと力をつけねば、と彼女は細い拳を握りしめた。
あの人の役に立ちたい。
その思いだけで全てを投げ出したのだ。誰にも邪魔はさせない。
0
あなたにおすすめの小説
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる