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2章
狙われた少年 3
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火曜日の昼休み。
咲良と莉緒と莉緒の友達で同じクラスの副島優奈さんと私の4人で屋上でお昼ごはんを食べることになった。
たわいもない世間話に花を咲かせていたのだけど、私はどうしても昨日の莉緒の様子が気になり単刀直入に聞いてみた。
「莉緒は佐藤宗輔くんと何かあったの?」
莉緒はきょとんとした顔をする。
「いきなりだねー、みさき」
「なんか、昨日の朝の莉緒が暗かった気がして……」
「……中高と一緒の腐れ縁でさ、その上今は部活も一緒だから、いろいろと話が入ってくるのよ。あいつ、中学のときはサッカー部のエースで勉強もできて、学内では1番のモテ男だったの。それが高校に入学したら水谷先輩と武藤先輩や西山先生っていう殿上人がいたワケ。だけど身の程を知らずに変な対抗意識燃やして寄ってくる女子たちを次々と泣かせるし、サッカー部の先輩の彼女を奪ってみたりで、チーム内の雰囲気をぶち壊してくれるの。さらにこないだの試合で怪我して足を痛めて後輩に八つ当たりする。そんなこんなでこっちがイライラしてるところに今度はみさきにちょっかい出そうとしてるから、もう腹が立って。あんた他にもっとやることあるでしょ!」
莉緒は一気にまくし立てて息を切らせた。咲良と優奈はあー、と生温い眼差しになる。
「そんなに酷いんだ……」
咲良が呟くと莉緒はカッと目を見開いた。
「そうなのよ!」
莉緒がヒートアップする。
「だいたい、水谷先輩も武藤先輩も、女の子泣かせるって言ったって告白を全部断って泣かせてるという紳士なのに、佐藤はちょっと付き合ってすぐに飽きてポイ系なのよ! 二股三股も当たり前だし。みさきにちょっかい出そうとしてるのだって、たぶんおふたりへの対抗意識なのよ! 身の程を知れ!」
私の勘は大はずれだった。
莉緒の怒りはサッカー部マネージャーとしてのものだ。佐藤くんと互いに負の連鎖を起こす可能性は皆無と言っても良いかもしれない。
「莉緒の好きなひとって……」
「莉緒は他校にラブラブな彼氏いるんだよー」
「優奈!」
「いーじゃん。別に秘密じゃないでしょ? みさきは好きな人いないの?」
「私の好きな人……?」
考えたこともなかった質問に、思考が停止してしまう。
「そう言う優奈はどうなのー?」
からかうような咲良の優奈への質問でうやむやになったけれど、私の中ではもやもやしたものが残ってしまった。
午後の授業も終了し、帰り支度をして教室を出ようと思っていると何だか女の子たちがざわざわしていた。
下校で混雑する廊下で眞澄くんと淳くんが待っていた。
「帰ろうぜ」
こくりと頷いてみんなで歩き始めた途端、人影が立ちはだかる。
「ボクも仲間に入れてください」
佐藤宗輔くんだった。だけど昨日とはまるで別人のように感じた。
息を呑んで目を瞠った私を、眞澄くんは視線と手で制止した。淳くんは私を庇うように一歩前に出て返事をする。
「構わないよ」
私は緊張で鞄の持ち手を強く握りしめた。
「ありがとうございます」
佐藤くんが妖しく微笑む。
「行きたいところはあるかい?」
「そちらのご都合に合わせますよ」
「そりゃどーも」
眞澄くんが疲れたように、ため息と共に吐き出した。
学校から出てしばらく歩き、人目につきにくい場所へ移動する。周囲に他の人がいないことを確認して、眞澄くんが佐藤くんの前へ回り込んで顔を覗き込んだ。
「その身体から出て行ってくれないか?」
「嫌だ、と言ったら?」
佐藤くんの中にいる誰かは不敵に笑う。
「力ずくだな」
眞澄くんがそう言った瞬間に空気が変化した。
理由は待ち伏せていた誠史郎さんが結界を張ってこの空間を切り取ったから。これで結界内で起こっていることは私達以外にはわからなくなる。
「今すぐにこの世界から出て行くなら消滅はさせない」
淳くんが言うと佐藤くんはにやにやと嫌な笑い方をした。
「甘いね、君たちは。この子は彼女を自由にできると聞いて、簡単にボクに身体を貸したのに」
「その件については、後ほど彼を説教しますのでご心配なく。貴方はみさきさんに何のご用ですか?」
「ボクの個人的な興味だよ。君たち半妖を従える、吸血種の天敵のお姫様はどんな味がするのかと思って」
彼は舌舐めずりをして見せる。その光景に私は背筋が寒くなった。
慌てて鞄から携帯用の対魔棍を取り出し、手元の伸びるスイッチを押して構える。
「あの、私、食べてもおいしくないと思います! お姫様でもありませんし! まだ死にたくないのでごめんなさい! 帰ってください!」
「え……?」
あわてる余り早口で捲し立てて、佐藤くんの脳天目掛けて力いっぱい棍を振り下ろしてしまった。それが見事にヒットする。
佐藤くんの身体は倒れ、中にいたものがするりと現れた。
「やはりインキュバス……」
銃を持った淳くんの視線の先には男性とも女性ともつかない美しい容姿の人が宙を舞っていた。
「い、生きてるか?」
「大丈夫のようです」
眞澄くんと誠史郎さんが意識を失って横たわる佐藤くんの生存を確認する。
「ああっ、ごめんなさい!」
気絶した佐藤くんに何度も深々と頭を下げているとインキュバスの笑い声が響いた。
「ボクは本当に貴女を食べたりはしないよ。貴女の純潔を奪い、子を成したいのさ」
「子を……成す……」
彼の言葉を反芻して理解すると、頭が真っ白になった。そして顔が真っ赤になる。
いくら恋愛に疎くても、高校生なのでその程度の知識はある。
「むっ……ムリ! 無理です!!」
「お前……!」
私を背中で庇った眞澄くんを見てインキュバスはとても美しい声で笑った。
「子作りのために、君達の誰かがボクに身体を貸してくれても構わないんだよ?」
「笑えないね」
淳くんの声は氷の刃のようだったわ。
「みさきには指一本触れさせない」
冷徹な瞳で狙いを定めて、退魔用の銃弾を撃ち込む。それでインキュバスは霧散した。その様子を見て淳くんは小さく溜息を吐く。
「……本体ではないね」
「あの様子では、また対峙することになりそうですね」
「大丈夫か?みさき」
眞澄くんが私の肩に手を置いて、心配そうな表情をしていたわ。
「大丈夫。ちょっとびっくりしたけど。ありがとう」
ちょっと引きつった笑顔になってしまったけれど、眞澄くんに応えた。
咲良と莉緒と莉緒の友達で同じクラスの副島優奈さんと私の4人で屋上でお昼ごはんを食べることになった。
たわいもない世間話に花を咲かせていたのだけど、私はどうしても昨日の莉緒の様子が気になり単刀直入に聞いてみた。
「莉緒は佐藤宗輔くんと何かあったの?」
莉緒はきょとんとした顔をする。
「いきなりだねー、みさき」
「なんか、昨日の朝の莉緒が暗かった気がして……」
「……中高と一緒の腐れ縁でさ、その上今は部活も一緒だから、いろいろと話が入ってくるのよ。あいつ、中学のときはサッカー部のエースで勉強もできて、学内では1番のモテ男だったの。それが高校に入学したら水谷先輩と武藤先輩や西山先生っていう殿上人がいたワケ。だけど身の程を知らずに変な対抗意識燃やして寄ってくる女子たちを次々と泣かせるし、サッカー部の先輩の彼女を奪ってみたりで、チーム内の雰囲気をぶち壊してくれるの。さらにこないだの試合で怪我して足を痛めて後輩に八つ当たりする。そんなこんなでこっちがイライラしてるところに今度はみさきにちょっかい出そうとしてるから、もう腹が立って。あんた他にもっとやることあるでしょ!」
莉緒は一気にまくし立てて息を切らせた。咲良と優奈はあー、と生温い眼差しになる。
「そんなに酷いんだ……」
咲良が呟くと莉緒はカッと目を見開いた。
「そうなのよ!」
莉緒がヒートアップする。
「だいたい、水谷先輩も武藤先輩も、女の子泣かせるって言ったって告白を全部断って泣かせてるという紳士なのに、佐藤はちょっと付き合ってすぐに飽きてポイ系なのよ! 二股三股も当たり前だし。みさきにちょっかい出そうとしてるのだって、たぶんおふたりへの対抗意識なのよ! 身の程を知れ!」
私の勘は大はずれだった。
莉緒の怒りはサッカー部マネージャーとしてのものだ。佐藤くんと互いに負の連鎖を起こす可能性は皆無と言っても良いかもしれない。
「莉緒の好きなひとって……」
「莉緒は他校にラブラブな彼氏いるんだよー」
「優奈!」
「いーじゃん。別に秘密じゃないでしょ? みさきは好きな人いないの?」
「私の好きな人……?」
考えたこともなかった質問に、思考が停止してしまう。
「そう言う優奈はどうなのー?」
からかうような咲良の優奈への質問でうやむやになったけれど、私の中ではもやもやしたものが残ってしまった。
午後の授業も終了し、帰り支度をして教室を出ようと思っていると何だか女の子たちがざわざわしていた。
下校で混雑する廊下で眞澄くんと淳くんが待っていた。
「帰ろうぜ」
こくりと頷いてみんなで歩き始めた途端、人影が立ちはだかる。
「ボクも仲間に入れてください」
佐藤宗輔くんだった。だけど昨日とはまるで別人のように感じた。
息を呑んで目を瞠った私を、眞澄くんは視線と手で制止した。淳くんは私を庇うように一歩前に出て返事をする。
「構わないよ」
私は緊張で鞄の持ち手を強く握りしめた。
「ありがとうございます」
佐藤くんが妖しく微笑む。
「行きたいところはあるかい?」
「そちらのご都合に合わせますよ」
「そりゃどーも」
眞澄くんが疲れたように、ため息と共に吐き出した。
学校から出てしばらく歩き、人目につきにくい場所へ移動する。周囲に他の人がいないことを確認して、眞澄くんが佐藤くんの前へ回り込んで顔を覗き込んだ。
「その身体から出て行ってくれないか?」
「嫌だ、と言ったら?」
佐藤くんの中にいる誰かは不敵に笑う。
「力ずくだな」
眞澄くんがそう言った瞬間に空気が変化した。
理由は待ち伏せていた誠史郎さんが結界を張ってこの空間を切り取ったから。これで結界内で起こっていることは私達以外にはわからなくなる。
「今すぐにこの世界から出て行くなら消滅はさせない」
淳くんが言うと佐藤くんはにやにやと嫌な笑い方をした。
「甘いね、君たちは。この子は彼女を自由にできると聞いて、簡単にボクに身体を貸したのに」
「その件については、後ほど彼を説教しますのでご心配なく。貴方はみさきさんに何のご用ですか?」
「ボクの個人的な興味だよ。君たち半妖を従える、吸血種の天敵のお姫様はどんな味がするのかと思って」
彼は舌舐めずりをして見せる。その光景に私は背筋が寒くなった。
慌てて鞄から携帯用の対魔棍を取り出し、手元の伸びるスイッチを押して構える。
「あの、私、食べてもおいしくないと思います! お姫様でもありませんし! まだ死にたくないのでごめんなさい! 帰ってください!」
「え……?」
あわてる余り早口で捲し立てて、佐藤くんの脳天目掛けて力いっぱい棍を振り下ろしてしまった。それが見事にヒットする。
佐藤くんの身体は倒れ、中にいたものがするりと現れた。
「やはりインキュバス……」
銃を持った淳くんの視線の先には男性とも女性ともつかない美しい容姿の人が宙を舞っていた。
「い、生きてるか?」
「大丈夫のようです」
眞澄くんと誠史郎さんが意識を失って横たわる佐藤くんの生存を確認する。
「ああっ、ごめんなさい!」
気絶した佐藤くんに何度も深々と頭を下げているとインキュバスの笑い声が響いた。
「ボクは本当に貴女を食べたりはしないよ。貴女の純潔を奪い、子を成したいのさ」
「子を……成す……」
彼の言葉を反芻して理解すると、頭が真っ白になった。そして顔が真っ赤になる。
いくら恋愛に疎くても、高校生なのでその程度の知識はある。
「むっ……ムリ! 無理です!!」
「お前……!」
私を背中で庇った眞澄くんを見てインキュバスはとても美しい声で笑った。
「子作りのために、君達の誰かがボクに身体を貸してくれても構わないんだよ?」
「笑えないね」
淳くんの声は氷の刃のようだったわ。
「みさきには指一本触れさせない」
冷徹な瞳で狙いを定めて、退魔用の銃弾を撃ち込む。それでインキュバスは霧散した。その様子を見て淳くんは小さく溜息を吐く。
「……本体ではないね」
「あの様子では、また対峙することになりそうですね」
「大丈夫か?みさき」
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