79 / 145
裕翔ルート 1章
時間と距離と密度の関係 7
しおりを挟む
まだ寝ていたいのに、唇を塞ぐようなキスで強引に起こされた。
「おはよ」
目の前で裕翔くんはいたずらっ子のように笑うわ。
「……おはよう」
私は何だか照れてしまって、顔の下半分を布団で隠した。
「みさき、すごいね。夜中にみやびちゃんが部屋に入れてってカリカリしてのに全然起きないんだもん」
裕翔くんは誉めてるつもりみたいだけど、私はそんな気がしない。むしろ恥ずかしいからあまり触れないでもらいたい。
そう言われれば、いつの間にかみやびちゃんも私のベッドに寝ている。
「アタシは裕翔がここで寝てることに驚いたんだけど」
かわいい黒猫は丸まったまま、しっぽをシーツにぱたぱたさせている。
「ホントはみさきとイチャイチャする予定だったんだけど、光の速さで寝られちゃったからなーんにもできなかったんだよねー」
言いながら裕翔くんは私を背中から抱き締めて髪に顔を埋めた。うなじにキスをされて、嬌声がこぼれそうになったのを手で口をふさいで我慢する。
「わかったら、裕翔はさっさと部屋に戻りなさい」
「はーい」
みやびちゃんに叱られた裕翔くんから解放されるのと同時に、全身の緊張が解ける。朝から心臓に悪い。
「またあとでね、みさき」
まだベッドに寝転んだままの私の頬に、裕翔くんはキスをして軽やかに出て行った。
みやびちゃんが見てるのに、裕翔くんは全然照れることなくスキンシップをする。これから先、私は心臓がいくつあっても足りなさそうだ。
夜になるまで珠緒さんから連絡が来ることはないけれど、私たちでできることはやっておこうと、再び女郎蜘蛛さんのところへ行ってみる。全員で行っても仕方ないので、裕翔くんと私と淳くんで来た。近くまでは透さんが車に乗せてくれた。
女郎蜘蛛さんの住処(すみか)の前に、スラッとした男性が立っていた。少し顔色が悪いように見える。
「本当に来た」
細くて心配になるくらい華奢だ。ちゃんとごはんを食べているのだろうか。
「うちのご主人の方が、よっぽどヤバそうだよね」
裕翔くんの顔を見て、青年は苦笑いする。私たちより少し上、大学生ぐらいに見える。
「ヤバいでしょ。オレに濡れ衣着せて、女郎蜘蛛と戦わせようとしてるんだから」
「君にこっぴどくやられたみたいだからね」
オーバーサイズのシャツが彼の細さを際立ている。
「僕たちは真堂家のものです。……貴方は?」
「僕? 僕はね、非常食」
にこやかにそう言ってのける彼は、どこか浮世離れしていた。遥さんと似ているけれど、本質が違う。目の前にいる彼の掴み所のなさは、クラゲみたいに芯のない感じだ。
「真堂家、とかわからないんだ。ただの非常食だから。今日も、ここで待ってろって言われたからいただけ」
「こっぴどくやられたって……オレに?」
裕翔くんは丸くて大きな目をさらに丸くした。
「いっぱいやり過ぎて覚えてない?」
「オレ、眷属になる前の記憶ないからなー」
後頭部を撫でながらのんびり呟く裕翔くんを見て、今度は青年がおや、という顔をした。
「通りで、平和そうな顔をしてるはずだ」
彼は薄い微笑みを浮かべて裕翔くんをまじまじと見つめる。
「うちのご主人は自分が一番強いと思ってたみたいで、君に負けたのがよっぽど悔しかったみたい」
どこかで聞いたことのあるような話だ。私の脳内に遥さんと一緒にいる美しい少年吸血種の姿が思い浮かぶ。
「だからって、女郎蜘蛛さんと私たちを戦わせる必要はないと思います」
「別に戦わなくても良いと思うよ?」
目の前の男性の言葉に、私はきょとんとしてしまう。彼はくすくすと笑いながら小さく肩をすくめた。
「あの人は、彼に自分の存在を忘れ去られてることが耐えらなかっただけみたいだから。もはや恋だよね」
「そのために関係のない人を巻き込んだのですか?」
「関係ない? これで少なくともあの男の人は女性たちの恨みを買いまくって死んだって、貴方たちは知ってるじゃん?」
淳くんの問いに対して、ニコニコと物騒なことを口にする。私の胸はチクリと痛んだわ。このまま私たちが放っておけば、長谷部さんの身は危険よ。だけど昨日誠史郎さんが言っていたことも正しい。
「まだ死んでないよ。勝手に殺すな」
「時間の問題だと思うけど。あの人がお金を払って助けてくださいなんて、頭を下げるようには思えない」
私たちが彼に聞きたいのはこの話ではない。非情かもしれないけれど、長谷部さんのことは横に置こうと決める。私は唇を結んで彼をまっすぐに見た。
「私は真堂みさきと言います。お名前をおうかがいしてもいいですか?」
彼の双眸は、興が冷めたと言わんばかりにすっと色を失う。
「……カイ」
「カイさん、貴方を非常食だという吸血種はどこにいますか?」
「聞いてどうするの? 寝首でも掻くつもり?」
意地悪な笑顔で小首を傾げる。私は少しムッとして反論しようとすると、裕翔くんに代わってほしいと手で合図された。
私がケンカ腰で何か言うより、そちらの方が良い気がしてひとつ頷いてからその場を譲る。
裕翔くんは片方の口角だけを上げて笑う。そして私の髪をくしゃりとするように頭を撫でた。
「オレと戦いたいなら、正々堂々と来い。いつでも受けて立つからさ。それから、女郎蜘蛛についた嘘はそっちで処理してね」
「えー……。めんどうだな」
カイさんは気だるそうに空を仰ぐ。
「そっちが蒔いた種だよ。ご主人サマにどうにかさせてね」
「元はといえば君が……」
「覚えてないことをどうしろって言うの?」
裕翔くんはあきれた表情になって腕を組む。カイさんは大きくため息をついた。
「……わかったよ。完全に貴方の片思いでしたよって伝えるから、あとはどうなっても知らないよ」
「みさきに手出ししようとしたら承知しないから。やるならオレとだよ」
裕翔くんは人差し指を頬に当てて、にっこりと破顔した。
「おはよ」
目の前で裕翔くんはいたずらっ子のように笑うわ。
「……おはよう」
私は何だか照れてしまって、顔の下半分を布団で隠した。
「みさき、すごいね。夜中にみやびちゃんが部屋に入れてってカリカリしてのに全然起きないんだもん」
裕翔くんは誉めてるつもりみたいだけど、私はそんな気がしない。むしろ恥ずかしいからあまり触れないでもらいたい。
そう言われれば、いつの間にかみやびちゃんも私のベッドに寝ている。
「アタシは裕翔がここで寝てることに驚いたんだけど」
かわいい黒猫は丸まったまま、しっぽをシーツにぱたぱたさせている。
「ホントはみさきとイチャイチャする予定だったんだけど、光の速さで寝られちゃったからなーんにもできなかったんだよねー」
言いながら裕翔くんは私を背中から抱き締めて髪に顔を埋めた。うなじにキスをされて、嬌声がこぼれそうになったのを手で口をふさいで我慢する。
「わかったら、裕翔はさっさと部屋に戻りなさい」
「はーい」
みやびちゃんに叱られた裕翔くんから解放されるのと同時に、全身の緊張が解ける。朝から心臓に悪い。
「またあとでね、みさき」
まだベッドに寝転んだままの私の頬に、裕翔くんはキスをして軽やかに出て行った。
みやびちゃんが見てるのに、裕翔くんは全然照れることなくスキンシップをする。これから先、私は心臓がいくつあっても足りなさそうだ。
夜になるまで珠緒さんから連絡が来ることはないけれど、私たちでできることはやっておこうと、再び女郎蜘蛛さんのところへ行ってみる。全員で行っても仕方ないので、裕翔くんと私と淳くんで来た。近くまでは透さんが車に乗せてくれた。
女郎蜘蛛さんの住処(すみか)の前に、スラッとした男性が立っていた。少し顔色が悪いように見える。
「本当に来た」
細くて心配になるくらい華奢だ。ちゃんとごはんを食べているのだろうか。
「うちのご主人の方が、よっぽどヤバそうだよね」
裕翔くんの顔を見て、青年は苦笑いする。私たちより少し上、大学生ぐらいに見える。
「ヤバいでしょ。オレに濡れ衣着せて、女郎蜘蛛と戦わせようとしてるんだから」
「君にこっぴどくやられたみたいだからね」
オーバーサイズのシャツが彼の細さを際立ている。
「僕たちは真堂家のものです。……貴方は?」
「僕? 僕はね、非常食」
にこやかにそう言ってのける彼は、どこか浮世離れしていた。遥さんと似ているけれど、本質が違う。目の前にいる彼の掴み所のなさは、クラゲみたいに芯のない感じだ。
「真堂家、とかわからないんだ。ただの非常食だから。今日も、ここで待ってろって言われたからいただけ」
「こっぴどくやられたって……オレに?」
裕翔くんは丸くて大きな目をさらに丸くした。
「いっぱいやり過ぎて覚えてない?」
「オレ、眷属になる前の記憶ないからなー」
後頭部を撫でながらのんびり呟く裕翔くんを見て、今度は青年がおや、という顔をした。
「通りで、平和そうな顔をしてるはずだ」
彼は薄い微笑みを浮かべて裕翔くんをまじまじと見つめる。
「うちのご主人は自分が一番強いと思ってたみたいで、君に負けたのがよっぽど悔しかったみたい」
どこかで聞いたことのあるような話だ。私の脳内に遥さんと一緒にいる美しい少年吸血種の姿が思い浮かぶ。
「だからって、女郎蜘蛛さんと私たちを戦わせる必要はないと思います」
「別に戦わなくても良いと思うよ?」
目の前の男性の言葉に、私はきょとんとしてしまう。彼はくすくすと笑いながら小さく肩をすくめた。
「あの人は、彼に自分の存在を忘れ去られてることが耐えらなかっただけみたいだから。もはや恋だよね」
「そのために関係のない人を巻き込んだのですか?」
「関係ない? これで少なくともあの男の人は女性たちの恨みを買いまくって死んだって、貴方たちは知ってるじゃん?」
淳くんの問いに対して、ニコニコと物騒なことを口にする。私の胸はチクリと痛んだわ。このまま私たちが放っておけば、長谷部さんの身は危険よ。だけど昨日誠史郎さんが言っていたことも正しい。
「まだ死んでないよ。勝手に殺すな」
「時間の問題だと思うけど。あの人がお金を払って助けてくださいなんて、頭を下げるようには思えない」
私たちが彼に聞きたいのはこの話ではない。非情かもしれないけれど、長谷部さんのことは横に置こうと決める。私は唇を結んで彼をまっすぐに見た。
「私は真堂みさきと言います。お名前をおうかがいしてもいいですか?」
彼の双眸は、興が冷めたと言わんばかりにすっと色を失う。
「……カイ」
「カイさん、貴方を非常食だという吸血種はどこにいますか?」
「聞いてどうするの? 寝首でも掻くつもり?」
意地悪な笑顔で小首を傾げる。私は少しムッとして反論しようとすると、裕翔くんに代わってほしいと手で合図された。
私がケンカ腰で何か言うより、そちらの方が良い気がしてひとつ頷いてからその場を譲る。
裕翔くんは片方の口角だけを上げて笑う。そして私の髪をくしゃりとするように頭を撫でた。
「オレと戦いたいなら、正々堂々と来い。いつでも受けて立つからさ。それから、女郎蜘蛛についた嘘はそっちで処理してね」
「えー……。めんどうだな」
カイさんは気だるそうに空を仰ぐ。
「そっちが蒔いた種だよ。ご主人サマにどうにかさせてね」
「元はといえば君が……」
「覚えてないことをどうしろって言うの?」
裕翔くんはあきれた表情になって腕を組む。カイさんは大きくため息をついた。
「……わかったよ。完全に貴方の片思いでしたよって伝えるから、あとはどうなっても知らないよ」
「みさきに手出ししようとしたら承知しないから。やるならオレとだよ」
裕翔くんは人差し指を頬に当てて、にっこりと破顔した。
0
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜
具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。
主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。
みたいなはなし
※表紙はAIです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる