祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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誠史郎ルート 1章

甘い毒 2

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 雨に濡れてしまったシャツを着替えた誠史郎さんがリビングに戻って来た。

 長袖のTシャツにラフなパンツに変わっていて、新鮮な感じがする。

 うちにいる時だって寝る前は楽な服装をしているのに、なぜか誠史郎さんのおうちだと私しか知らない彼を見た気がして嬉しくなって口元が緩む。

 隣に座った整った横顔を見ていると、視線に気づいたのか誠史郎さんがこちらへ振り向く。

「どうしましたか?」

 いたずらを見とがめられた子供のような気持ちになって、隠れたいけれどそうする場所がない。

 とっさにクッションで顔を隠すと、誠史郎さんはくすくすと笑いながら丁寧に私からそれを取り上げた。

 目が合うと、一瞬時間が止まる。

 キスされると思ってぎゅっと両眼と唇を閉じて待った。身体中に変な力が入って、自分でもぎこちないと思う。

 しばらくそうしていたけれど、何も起こらない。あれ、と思って目を開いたとたんに誠史郎さんの薄い微笑みの浮かんだ顔が近づいてきた。

「みさきさんは本当に可愛らしいですね」

 妖艶な声音が鼓膜をくすぐる。抱きすくめられ、誠史郎さんの唇が目尻に触れた。

 私は奇妙な間のせいでふと現実に返ってしまった。

「だっ、だめです……」
「誘ったのはみさきさんですよ?」

 誠史郎さんは意地悪な響きを含んで耳朶を食む。

「私、絶対、学校で隠せないです……っ!」

 誠史郎さんは保健室の先生で、私は生徒だ。

 個人的な繋がりがあることだって知られないようにしていたのに、それ以上の気持ちがあると周りに気づかれてしまったら誠史郎さんに迷惑がかかる。

 離れようと胸板を押したけれど、誠史郎さんは解放してくれない。

「隠さなくて構いません」
「そういう訳には……」

 長い指が私の手を掬い上げ、指の背にキスをする。

「皆さん、みさきさんの気持ちは察しても、私の感情までは読み取れないでしょうから」

 それはそうかもしれないけれど、私はやっぱり不安だ。
なのに誠史郎さんの体温で早くも気持ちは揺らいでいる。

「貴方を諦めるくらいなら、教職は手放しても構いません」

 確かに先生を辞めたからと言って、本当はいけないことらしいのだけど真堂家での収入があるので生活に困ることはない。
 高校を辞めればこのマンションは引き払ってうちに住めばいい話だ。

 だけど誠史郎さんと学校で会うことはなくなってしまう。そう思うとなんだか寂しい。白衣を纏って凛と立つ誠史郎さんは素敵だ。

「……そんなこと言わないでください。誠史郎さんの先生姿、私は好きです」

 少ししょんぼりして思いを伝えると、誠史郎さんは意地悪で華やかな微笑みを唇の端にひらめかせる。

「では、先ほどの発言は撤回していただけますね?」

 迷いがないと言えば嘘になるけれど、私にはうなずくことしかできなかった。
 それを見届けた誠史郎さんは柔らかく双眸を細めてから、私の頭を胸の辺りに引き寄せる。

「みさきさんの声で聞かせていただけませんか?」
「先生、辞めないでください」
「いえ、そこではなく」

 小さく苦笑しながら大きな手が耳の後ろをすっと撫でた。とっさに身体をきゅっと縮めてしまう。

「私に何をしてほしいのか、私のことをどう思っているのか」

 切れ長の、深い色をした両眼は私の心の奥を見透かすように凝視してくる。
 誠史郎さんに触れられた感覚が蘇って、脳はその甘美さをもう一度欲していた。

 どうして彼はこんなに私の思考を見通してしまうのだろう。

「……さ、触ってください」

 とんでもないことを言い出している自覚はあった。もっと他に、上手い言葉の選択ができなかったのだろうかと後悔して頬が熱くなる。

「どのように触れましょうか?」

 恥ずかしさからうつむいたあごを捕らえられて、強引に顔を上げさせられた。
 誠史郎さんは意地悪だ。

「キス……してください」

 羞恥から目が合わないようにしようと思うと、伏し目がちになってしまう。

「仰せのままに」

 とろけるように甘くささやいた誠史郎さんは、私の髪を一房、形の良い指に絡めるとそっと口づけた。
 心臓の音が目の前の麗しい男性に聞こえてしまいそうなほど大きい。

「……誠史郎さん」

 上目遣いの切れ長の瞳が妖艶過ぎて目が離せない。全て誠史郎さんのペースだ。私に抗う術はない。
 だけどそれすら心地好く感じてしまう。

「私を誠史郎さんの恋人にしてください」

 大胆なことを言ってしまったと恥ずかしくて俯こうとした私の唇に、優しいキスをしてくれる。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 額を重ねて柔らかく口元を綻ばせる誠史郎さんを見て、私も自然に頬が緩む。
 胸の奥が温かい。

「……好きです」

 自分から誠史郎さんの胸に潜り込み、縋りつく。
 それに応えるように大きな手が私を抱き締めてくれた。彼の体温と心臓の音を感じる。

「愛しています、みさきさん」

 少し冷たい掌がよしよしと私の髪を撫でてくれる。
 ずっとこうしてもらえるなら、誠史郎さんの飼い猫になりたい。そう思いながら胸板に頬を預けていた。

「……ご自宅へお送りします」

 頭上にポツリと落ちてきた言葉に、私は顔を上げた。切れ長の涼しげな目元が柔和に細められている。

「みさきさんに覚悟・・があるならお泊めしますが」

 意味深な声音の意図を汲み取って、ぼっと火がついたように顔が熱くなった。

「え、ええと……その」
「大丈夫ですよ。少しずつ馴らしていきましょう」

 額に、瞼に、誠史郎さんの唇がそっと触れる。思わず身を縮こまらせてしまうけれど、彼はそっと微笑んで唇にキスをした。

「あまり気の長い方ではないので、待ち続ける保証はできかねますが」

 柔らかい光が誠史郎さんの双眸に揺らめき、親指が頬をくすぐる。私は曖昧な笑顔でうなずいた。

 立ち上がろうとした時に目が合った。
 別れを惜しむように自然に唇が重なる。

 強く抱き締められた。唇を吸われ、舌が絡まると震えるほど甘く身体がしびれる。

 誠史郎さんに本気で求められたら拒めないと予感がする。

「せい、しろう……さん……」

 うっとりと秀麗な面を見上げると、優しい微笑みで応えてくれる。

 唇から深く誠史郎さんに侵食されることに、喜びと快感を覚えていた。
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