祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
82 / 145
誠史郎ルート 1章

甘い毒 3

しおりを挟む
 雨は止んでいた。

 家の前に停まった車の助手席でシートベルトを外す。顔を上げると目の前に誠史郎さんの端正な面が優しい微笑みをたたえていた。

 キスを交わすと、離れがたく思う。名残惜しくて切ない吐息がこぼれた。

 今日は自宅に戻ると言う誠史郎さんの白いセダンを見送ってから、そろりと玄関のドアを開けた。何となく後ろめたかった。

「ただいまー……」

 声も小さくなってしまった。
 リビングへ行ってみんなと顔を会わせる前に、一度部屋へ戻ろうと思っていたけれど、階段へ向かって廊下を歩いている途中で眞澄くんが顔を出す。

「お帰り。あれ、誠史郎は?」
「えっ?」

 勝手に声が裏返ってしまう。

「雨降ってきたから車で迎えに行って、一緒にいるって連絡あったから」

 いつの間にか伝えてくれていたみたいだ。誠史郎さんは本当に如才無い。

「あ、えっと、ここまで送ってくれて、今日は帰るって」

 誠史郎さんとお付き合いをするのはやましいことではないはずなのに、視線が泳いでしまう。喉の辺りで何がつかえて胸がチクチク痛む。

「ふたりでずっと何してたんだ?」
「その、せ、誠史郎さんのシャツが雨で濡れちゃって、風邪ひいたらいけないから着替えてもらってから家に戻ろうと思って、マンションにお邪魔して、お、お茶をいただいて……」

 妙に早口で喋る私をまっすぐに見つめる漆黒の瞳。それを正面から見返す勇気は出なかった。

「俺たち風邪なんてひかないから、気にする必要ないのに」

 眞澄くんは小さく笑って私の髪をくしゃりとするように頭を撫でる。優しい大きな手に、申し訳なさでいっぱいになってしまう。

 早く伝えた方が良いとわかっているけれど、眞澄くんや、みんなを傷つけるのが怖い。虫のいい話だけど、こうして話すこともできなくなるのは嫌だった。

 一度部屋へ戻ると眞澄くんに告げて、とんとんと階段を上る。
 自室の中に入ると、閉じたドアに凭れて大きくため息をついた。私はいつも通りに振る舞えていただろうか。

 鞄を下ろしながら、今夜はもう誠史郎さんに会えないと思うと寂しくなった。

 伝える勇気を出さなければ、誰に対しても失礼だとわかっている。

 だけどふがいない私には、まだそれができそうになかった。


 珍しく眠りが浅く、何度も目が覚めるうちに朝を迎えてしまった。
 足元でぐっすり寝ているみやびちゃんを羨ましく思いながら、誠史郎さんが来る前に仕度を終わらせようと起き上がる。

 目の下がクマになっていないか気になって、姿見に顔を近づけて覗きこむ。
 誠史郎さんに、ちょっとでもかわいいと思ってもらいたい。こんなことを考えた自分に、はたと我に返って恥ずかしくなってしまう。

 着替えて階下のリビングへ行く。淳くんが朝ごはんの用意をしてくれていたので手伝おうとキッチンに移動した。

「おはよう」

 いつもと変わらない柔らかな王子様の微笑みになぜか気後れしてしまう。

「……おはよう」

「何かあった?」

 淳くんは本当に些細なことでも見逃さない。ミルクティーの色の瞳は優しく微笑んでいた。

「えっ? な、何もないよ? ちょっとよく眠れなかっただけで……」

 冷蔵庫からヨーグルトの入った容器を取り出して、作業台に四つ並べたガラスの器に小分けにする。我ながら隠し事が下手だ。

 だけど淳くんは、それ以上追及してくることはなかった。

 眞澄くんと裕翔くんも起きてきて、みんなで朝食を食べる。

 眞澄くんと裕翔が後片付けをしてくれるので私はリビングでみやびちゃんと遊んでいたところに誠史郎さんがやって来た。

「おはようございます。今日は真壁さんはいらっしゃらないのですか?」

 すごい。完璧にいつも通りの誠史郎さんだ。私は全然普通じゃいられないのに。

「お仕事の打ち合わせが入ったって、昨日の夜に帰られて……」

 唇が視界に入るといろいろと思い出しておかしなテンションになるので、目を合わせないように下を見る。
 声も妙に小さくなってしまった。

「あー! 誠史郎がみさきをいじめてる!」

 キッチンからこちらへやって来た裕翔くんの声に驚いてしまう。誠史郎さんは困ったような微笑みを浮かべて元気な少年を見た。

「そんなことないよ!」

 私の態度が不審なせいだ。急いで否定するけれど、裕翔くんの双眸は疑ったように誠史郎さんを見ている。

「本当?」

 こくこくと何度もうなずく。

「意地悪されたらちゃんと言うんだよ?」

 裕翔くんの手が頬に伸びてきて、思わず退いてしまう。しまった、と私が思っていると裕翔くんもきょとんとしている。

「あ、ありがと。大丈夫」
「裕翔くん、片付けの途中ではありませんか?」

 誠史郎さんの言葉で裕翔くんは小さく肩をすくめてキッチンへ戻る。みやびちゃんもお水が欲しくなったのか、その後をついて行った。

 ひとりで動揺している私を見て、誠史郎さんはわずかに口角を上げる。

「私にしか触れられたくないなんていじらしいところを見せられたら、抱きしめたくなりますね」

 私だけに聞こえるように耳元でささやかれ、そのまま耳朶を甘噛みされた。

 誰かに見られたのではないかと熱くなった耳を隠してキョロキョロしたけれど、大丈夫だったみたいで胸を撫で下ろす。

「誠史郎さん……!」

 小声で抗議したけれど、誠史郎さんは穏やかなのにどこか意地悪な雰囲気の微笑で受け流す。

「油断大敵です」

 何か言い返したいけれど、一言も出てこない。こうして誠史郎さんにかまってもらえることも、ふたりだけの秘密の行為も嬉しい。

 私はこんなに一喜一憂しているのに、誠史郎さんは少しも取り乱した様子はない。その冷静さを少し分けてもらいたいと思った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

処理中です...