祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
83 / 145
誠史郎ルート 1章

甘い毒 4

しおりを挟む
 連休が終わり、今日からまた学校だ。
 春と言うより、夏に近くなっていることがわかる。お天気が良いので、今日は暑くなりそうだった。


 私自身ではそれほど運動神経が悪いとは思わないのだけど、時々どんくさいところを見せてしまう。
 体育の授業中、ハードル走でハードルもろとも派手に転んでしまった。

 身体のあちこちが擦り傷になり、左膝に特に大きな傷ができる。その応急手当のため、体育の先生に保健室に行くように言われた。

 咲良が一緒に行くと言ってくれたけれど、それは断ってひとりで向かった。そうしたい理由があった。

「失礼します……」

 静かに扉を開くと、白衣を来て机に向かっていた誠史郎さんがこちらを振り返って立ち上がった。

 ちらりと横目でベッドに休んでいるひとがいないか確認するけれど、仕切りのカーテンは全開になっていて誰もいないみたいだ。
 ふたりきりだと思うと自然に頬が緩む。

「真堂さん。どうかしましたか?」

 悠然と出入り口までやって来て、目の前に立った誠史郎さんにドキドキしてしまう。
こんなにカッコいい保健室の先生はあまりいないと思う。

「膝を……」

 誠史郎さんの視線は自然に私の膝へ降りる。

「これはまた」

 派手に擦りむいた傷に、誠史郎さんは続く言葉を飲みこんで微かに苦笑した。

「手当てしますから、中へどうぞ」

 促されたので室内に入り、ゆっくりとドアを閉める。

「痛みますか?」

 砂や小石を水道で洗って傷口を清潔にする。しみたけれど、痛むと言うほどではないので首を横に振った。

 お互いスツールに向かい合って腰かける。長い指が丁寧に、膝に湿潤療法用の絆創膏を貼りつけてくれる。

「今日の体育は何をしていたのですか?」

 治療の様子を眺めていただけなのに、急に誠史郎さんに触れられた感覚が甦った。緊張で質問に答えることもできなくなる。

「真堂さん?」

 保健室の先生の顔をした誠史郎さんに声を掛けられると、恥ずかしさで心臓が跳ね上がってあたふたした。

 こんな時まで誠史郎さんに特別な女の子として触れてもらいたいなんて、私はイヤらしい。

「……そんな物欲しそうな顔をなさらないでください」

 切れ長の瞳が鋭く妖艶に細められたと思うと、私の唇に誠史郎さんのそれが短く触れる。

「あれからふたりきりになれる機会がありませんでしたからね。私もみさきさんにしたかった」

 細いフレームの眼鏡の奥からの情熱的な眼差しと、与えられる甘いささやきに心臓が止まりそうなぐらい驚いた。
てっきり私だけがキスしてほしいのだと思っていた。

 だけどまさか授業中の保健室で、と硬直する。それなのに促されるがまま、彼の膝の上に横向きに座ってしまう。

 大きくて少し骨張った手がハーフ丈の体操服から覗いていた、けがをしていない右の膝を撫で、唇が私の呼吸を奪う。
 逃げられないように腰に腕が回った。

「っ……ぁん」

 舌の絡み合う感覚。脳が痺れたように、何も考えられなくなる。学校でこんなことをしていてはいけないとわかっているのに、背徳感が愉悦を高める。

「誰か来ちゃいます……」
「みさきさんが私の煩悩を刺激するのがいけません」

 意地悪な妖しい微笑みがひらめいて、また深く口づけられる。誰かに見られてしまう不安と同時に、誠史郎さんという感覚に囚われて、離れがたく思う。

「……そんな顔をされると、止められなくなります」

 甘やかな声が鼓膜を擽り、耳朶に唇が触れる。

「止めないで……ください」

 きっと私は耳まで赤くなってしまっている。恥ずかしくて、顔を見られないように私から誠史郎さんの唇にキスをした。

「誠史郎さん……?」

 どこか彼の雰囲気がおかしい気がした。キスを終えて恐る恐る目を開ける。

「私から煽っておいてこう言うのもなんですが……みさきさんは末恐ろしいですね」

 曖昧な微笑みを見せた誠史郎さんは触れるだけの短い口づけをひとつ落とす。

何が恐ろしいのかわからないけれど、羞恥から口元を右手で隠した。何とはしたないことを口走ってしまったのだろう。

「申し訳ありません。言い方が良くありませんでした」

 誠史郎さんは私の様子に気づくと、また官能的に口づけた。脳は簡単に、この歓びに騙される。

「みさきさんはどれだけ私を夢中にさせるのかわからなくて恐ろしい、という意味です」

 私の考えることなんて、手に取るようにわかるのだろう。少しでも不安になった顔をしたら、彼はきっとすぐにその原因を突き止めて消してくれる。

 それはありがたいことだけど、少し怖くもあった。私は誠史郎さんに頼ってばかりになりたくない。

「そう言えば、こんなものが届いていました」

 誠史郎さんは私を空いていたスツールにそっと戻して、優雅に立ち上がる。白衣の裾を翻し、机の上に置いてあった封筒から中身を取り出した。

「良く撮れていましたよ」

 渡されたのは一枚の写真だった。写っているものに私は目が点になってしまう。

 白い自動車のフロントガラス越しに誠史郎さんの後頭部と、その影から少しだけ覗く私。暗いのではっきりしないけれど、当事者なのでわかる。

 一昨日、誠史郎さんに家まで送ってもらったときの車から降りる直前の光景だ。

「……本当は黙って処理してしまおうかと思ったのですが、それはみさきさんに失礼かと」

 誠史郎さんが私を巻き込んでくれたことが嬉しかった。

「出勤するとここに置かれていました。差出人もありませんし、要求も書かれていませんので困りましたね」
「困りましたね……」

 自分のキスしている姿を客観的に見せられるというのは変な感じだ。

「この程度のことで、みさきさんとの関係を解消するつもりはありませんよ」
「は、はい」

 どこか鋭さを含んだ語勢に気圧され肯定の返事をすると、誠史郎さんはにっこりと破顔して私の頭を撫でる。

「名残惜しいですが、そろそろ真堂さんを授業にお戻しましょう。傷が痛むのでしたら運動場までご一緒しましょうか?」

 おそれ多いと何度もかぶりを振った。
 今さらだけど、みんなの目に触れる行動は誠史郎さんのファンの女の子達から嫉妬されてしまう。

「ありがとうございました」

 立ち上がってペコリとお辞儀をする。

「いえいえ。お気をつけて」

 出ていこうと踵を返した背中を不意に抱きすくめられた。

「みさきさんは、私が何に代えても必ず守ります」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

処理中です...