祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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眞澄ルート 2章

たいせつなひと 5

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「それだけ悪知恵が働くのは、むしろ感心に値しますね」

 誠史郎さんはため息と共に吐き出した。

 夕飯を終えて、食後のお茶の時間に今朝学校で起こった大島先生とのひと悶着をみんなに報告した。

「あーゆータイプはしつこいからなー。お望み通りに付き合ってあげたら?」

 ソファーでティーカップを手にして、からかうように口角を上げる透さんの提案に、私はぎょっとしてしまう。

「絶対にない」

 私の隣のダイニングチェアに座る眞澄くんは、不機嫌な表情と声で否定した。それから彼の真正面にいる誠史郎さんへ向き直る。

「今まで全然知りたいと思わなかったんだけど、この際だから聞いておきたいんだ。俺の親、今どうしてんの?」
「私も伝聞でしか存じ上げないのですが……。皆さんの前でお話しして宜しいのですか?」

 誠史郎さんは私を一瞥する。眞澄くんもこちらを見てから、少し悩むようにうつむいた。

 私の正面にいる淳くんの色素の薄いの瞳も、心配するように眞澄くんを見つめている。

 まだ迷っている表情のまま、眞澄くんは私を覗きこむように首を傾げた。

「……あー、あのさ、みさき。透と裕翔も。俺、小さかったからぼんやりとしか覚えてないんだけど、真堂家に来る前は虐待されてる子供だったらしいんだ」

 私は言葉を失った。透さんいつもの飄々とした雰囲気がなくなる。ソファーで膝を抱えている裕翔くんはきょとんとしていた。

「あんまり深刻に受け取らないでくれよ。本当にほとんど覚えてないし、真堂家の関係先に来てからは問題なく生活させてもらってたから」

 両手をひらひらと振って言葉を軽くしようと眞澄くんはがんばるけれど、私は衝撃を隠せない。

「十分、深刻な状態でしたよ。いくら幼児だったとはいえ、淳くんに一度噛まれただけで吸血種になったのですから」

 追い討ちをかけるような台詞を言った誠史郎さんは、指先で眼鏡のブリッジを押し上げた。
 吸血種になるということは、死んでしまったということだ。

「そんなに弱っとったんか」

 透さんの声のトーンがいつもより低い。誠史郎さんが答えて良いものか、眞澄くんに目配せする。

「俺は本当にわかんねーから、誠史郎、頼む」

 私は唇を結んで、苦笑いを浮かべる眞澄くんの横顔を見ていた。

「栄養失調で、淳くんに出会わなくてもあのままでは亡くなっていたと思われます。眞澄くんは吸血種になりましたが、起き上がる前に周の血で眷族になったので人間の血液を食事にしていた時期はないんですよ」

「……僕が眞澄を死なせたことに変わりはないよ」

 淳くんの白い頬に、長い睫毛の影が落ちる。

「それもう禁止な」

 眞澄くんが頬杖をついて少し冷たく言った。ミルクティー色の双眸が不安そうに強ばる。

「淳は罪悪感で俺たちといるのか?」
「そんなワケない!」

 珍しく淳くんの語気が強くなった。

「いつまでもそれを蒸し返されると居心地が悪いんだ。だから、この話は終わり!良いよな?」

 眞澄くんにガキ大将のような笑顔を見せられた淳くんは、拍子抜けしたような表情になる。

 その隣で誠史郎さんが小さく微笑んで、ティーカップの取っ手に指をかけた。

 紅茶を一口飲んでソーサーにカップを戻すと、誠史郎さんはテーブルの上で指を組む。

「眞澄くんの母だった女性・・・・・・は、現在九州の繁華街で生活しています。お父さんは眞澄くんを真堂家でお預かりする際に調べると、離婚して間もなく病気でお亡くなりになっていました」

 誠史郎さんの使う呼称の違いに違和感を覚える。そこに複雑な事情を垣間見た気がした。

「生活に困ってるって聞いたけど……」
「そのような報告がありましたが、こちらへ来ることはないと思います。これは眞澄くんにも話していませんでしたが」

 誠史郎さんは一度唇を結ぶ。

「眞澄くんに関する記憶を、術で消しています」

 黒曜石のような瞳が僅かに見開いて、そこだけ空気が止まったように感じた。

「……そっか」

 力なく呟いてうつむく。腕はだらんと下げていたけれど、ぐっと拳を握ったことに私は気がついた。とっさにシャツの袖口を掴んでしまう。

「何か異変があればアームストロングさんが伝えてくれますから」

 アームストロングさん、という単語で眞澄くんと淳くんの面がパッと明るくなり、ふたりとも身を乗り出した。

「お元気にしてる?」
「センパイ、今そんな仕事してるのか?」
「この業界からは離れて本業は別にされていますが、彼女の監視だけは引き受けてくださっています。ふたりのことを、今も気にかけてらっしゃいますよ」

 私は知らない、三人の過去。アームストロングさんはそれに関わっているのだろう。

「外人さん雇ってんの?」

 透さんは伸びをしながら背中を背もたれに預けて、身体を斜めにする。

「いや、どう見ても日本人っぽい。だけどアームストロングって名乗ってた。あまねの眷族だから元吸血種なんだけど、すっげー筋肉なんだ!」
「すごかったね。僕らを簡単に持ち上げてくれた。僕は最初は少し怖いと思ってたけど、全然そんなことなかった」

 眞澄くんと淳くんが幼い子供のような笑顔になった。

「一番ふたりの面倒を見ていましたからね。周の亡くなる前に真堂家から離れたので、みさきさんとは面識がありませんが」

「誠史郎は怖かったな」
「怖かったね」

 しみじみと呟いて深く頷き合うふたりを見て、誠史郎さんが無表情になる。

「私は何もしていませんよ」
「子供は嫌いって感じだったよな」

 ニヤニヤと笑いながら、眞澄くんが顎を引いて上目遣いに誠史郎さんを見た。

「嫌いなわけではありません。どう扱えば良いのかわからないだけです」

 ばつの悪そうな表情になった誠史郎さんはごまかすように眼鏡の位置を指先で整える。こんな弱点があったとは意外だ。
 誠史郎さんは咳払いをした。少し頬が赤くなっている気がする。

「とにかく、少しでもおかしな動きがあればすぐに連絡がありますから、ご心配なく」

 誠史郎さんは何とか平静を装おうとしていた。
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