祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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透ルート 2章

籠の鳥 2

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 透さんの車で駅近くのショッピングモールに移動した。中にあるコーヒーショップで、透さんが私と彰太くんに飲み物を買ってくれて、円形のテーブルの置いてある席につく。

「制服のみさきちゃんとデートできて嬉しいわ」

 私は氷と抹茶と牛乳をミキサーで撹拌かくはんした飲料をむせてしまいそうになる。ホットコーヒーを飲んでいた透さんは、ニコニコしながら頬杖をついて私を見ていた。

 彰太くんは私と同じ種類の飲料のキャラメル味を飲んでいる。少し居心地が悪そうだ。

「……ホントに好きなんだな」

 なぜか私が申し訳ない気持ちになる。

「一緒におって楽しいし、かわいいもん」

 初対面の相手に満面の笑みでのろける透さんを目の前に、どう対応したら良いのかわからない。身を縮めて無言で飲み物を吸っていた。頬が熱い。

「あんたたちは良いな」

 ポツリと呟く彰太くんに、私と透さんの視線は自然に集まる。

「何が嫌で家出したんや?」
「田舎も、オヤジも、兄貴たちも」

 短く答えて再びストローに口をつける。

「それで縁もゆかりもない真堂家に来たんか?」

 私もそれは疑問に思っていたので姿勢を正して彰太くんが口を開くのを待つ。彼は唇を尖らせていたけれど、一度目を閉じると大きく息を吐いた。

 決心ができたみたいで、ストローを指先で弄びながら話しはじめてくれた。

「兄貴たちが……彩音さんじゃなくて、真堂の娘にしとけば良かったのにって陰口叩いてたのを聞いてたから……。ネットにあった住所見たら東京に近いし、行ってみようと思って」
「どうして?」

「あんな何にもない田舎、出たかった」

 私にはわからないことだから、黙って聞くことしかできなかった。彰太くんのおうちはどんな場所にあるのだろう。

「出てどうするつもりなんや?」

 透さんに質問されて彰太くんは無言になってしまう。何も考えていなかったのだろう。

「ノープランの中学生がひとりで生きていけるほど、世の中は優しくないで」
「そんなこと……っ」
「わかってへんから家出してきたんや。真堂家が優しく受け入れてくれる思てたやろ?」

 透さんは容赦なく指摘する。彰太くんはイラついていた。図星を突かれたのだと思う。私は何も言わずに経緯を見守る。

「だから大人は嫌なんだ」

 彰太くんは吐き捨てるようにこぼした。

「連絡すればいいんだろ」
「せや」

 頷く透さんの隣で気の強そうな瞳の少年はスマホをポチポチしている。

「どーせ誰もオレがいなくなったことすら気づいてないと思うけど」

 半眼でぼやく様子をストローを吸いながら眺めた。

「これでいいだろ」

 彰太くんはちゃんと家族に連絡したことを示すために、スマホの画面を見せてくれる。誰もまだ見ていないみたいで、既読はついていなかった。

「何か反応来るまで待つかー」

 長い足を投げ出して、透さんが伸びをする。

「まー、俺も全く悩まんかったワケではないから、気持ちはわからんでもない」

 意外な過去だ。透さんは何の迷いもなく祓い屋になったのだと勝手に思っていた。

「だけど真壁さんは家業を継いだんだろ?オレは悪霊と戦いたくない」
「何かなりたいもんでもあるんか?」

 そう返された彰太くんは言葉をつまらせる。

「……絶対笑わない?」
他人ひとの夢を笑ったりせえへんよ」

 鋭い雰囲気を纏った双眸が優しく細められる。透さんはこういう時、嘘をつかない。

「……声優」

 恥ずかしそうに、彼はぼそりと答えた。そして透さんを覗き見て、彼が少しも表情を変えなかったことにほっとしたみたいだった。

 私は自分がなりたいものなんて考えたことがなかった。祓い屋になるのが当たり前だと思っていた。
 『この職業に就きたい』という憧れを持っている彰太くんに感心する。

「やりたいことあるんなら、ちゃんと家族に話したらええやん」
「あいつらに聞く耳なんてないよ」

 家族との関係は複雑みたいだ。

 私のカップが空になった頃、彰太くんのスマホに反応があったみたいだ。

「……電話してくる」

 難しい顔をした彰太くんは席を外す。

「……ちょっと意外でした」
「何が?」

 透さんはきょとんとしてわずかに首を傾げる。そのしぐさがかわいくて、ドキドキしてしまった。

「透さんにも迷ってた時期があるなんて」

 ニヤリと笑った青年は、イスごと距離を詰めてきた。

「うちに泊まってくれたら、なんぼでも昔話したるで?」

 艶っぽく微笑んで、甘く低く囁く。透さんの魔力に屈して首を縦に振りそうになるが、はたと気がつく。

「泊まらなくても話せます」

 危なかった。つい流されてしまいそうになる。紅潮する顔をプイと背けた。

「夜は長いから、お互いのことわかり合いながらいろーんな話できると思うんやけどなぁ」

 長い指が私の手の甲をゆるゆるうごめいて弄ぶ。端正な唇が耳殻に寄せられた。透さんの熱を感じる箇所はとろけて境界が曖昧になる。
 心臓が痛いぐらいに大きく鳴り響いていた。

「今度の週末、ふたりっきりで……」
「こういうの何ていうんだっけ?えーと……」

 いつの間にか戻っていた彰太くんは、私たちのすぐそばに立って腕組みをして頭を捻っていた。

「取り込み中や」
「それだ」

 気の強そうな少年は、びしっと透さんを指差す。

「わかってたんやったら気ィ利かせてや」
「オレ中学生だし」

 彰太くんはしれっと返答して席に戻る。

「明日迎えに来るから、今日はこっちで寝ろだって」

 駅の近くに安いビジネスホテルが何軒かあったはずだ。

「近くに泊まれるところが……」
「そんなカネ持ってない」

 確かに、いくら安いと言っても彰太くんや私にとっては大金だ。

「ついでに真堂の娘と仲良くなれってさ」

 彰太くんはうんざりしたようにため息と共に吐き出す。
 うちに泊まらないと、彼は家族に怒られてしまうのだろうか。だけど眞澄くんたちが彰太くんを泊めることを許すとは思えない。

「うちに泊めるのは、私の一存では……」
「あんたの家なのに?」
「みんなで暮らしてる家だもん」

「みさきちゃんが俺の家に一泊してくれるんやったら、ショータも一緒に泊めたってええで」

 この条件はずるい。透さんを睨むけれど、彼は歯牙にもかけない。

「じゃあそれで良いよ」
「私は明日も学校です」

 彰太くんは他人事だから気軽に言ってくれるけれど、私は透さんのおうちで一晩、何事もなく過ごせる自信がない。彰太くんがいたって、彼が寝た頃合を見計らって透さんは襲い掛かってくるに決まっている。

「……みんなに、うちに泊まって大丈夫か聞いてみます」

 家に電話をしようとした時、もしかして透さんは彰太くんがうちに泊めてもらえるようにあんなことを言ったのかなと思った。
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