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透ルート 2章
籠の鳥 5
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「みさきちゃん、行こか」
熱に浮かされるまま、差し出された手を取ってしまう。緊張している。透さんは私を連れ出そうとしているのはわかった。
「どこへ……?」
こんな深夜に開いているお店はそんなにない。コンビニぐらいしか思いつかないけれど、何の用があるのだろう。
「せやなぁ……酒飲んでしもたからな。タクシー呼んで俺の家に行こか」
そこまで言われて彼を意図を理解した。
一瞬頭が真っ白になったけれど、照れ隠しと強がりで頬を膨らませる。
「こんな時間に高校生連れ出したら、ケーサツに捕まっちゃいますよ」
憎まれ口を叩いてみるけれど、透さんは唇の端を上げて薄く笑っただけで平然としている。
「通報されへんように気ぃつけるわ」
このまま、透さんと――――。
心臓が爆発するのではないかと思うほど、大きな音を立てている。
明日学校があるのに、とか、初めてなのに、とかいろんなことが頭をぐるぐるした。
だけど身体はひとりでに動く。ここで怖じ気づいて透さんに嫌われてしまう方が怖かった。
のろのろと立ち上がったのと同時に、リビングの扉が開く音がした。
「真壁さん」
淳くんが顔を覗かせる。それを見た瞬間、ふと我に返った。
「え……えと、あの、その」
ぱっと透さんから手を離してしまう。
マンガなら、真っ赤になって両目が渦巻きになっているところだ。弁解が何も思いつかなかった。
ミルクティー色の王子様は少し困ったように微笑む。
「もう遅いですから、部屋に戻ってください」
恥ずかしさで熱い。一刻も早くこの場を離れたかった。
「お、おやすみなさいっ!」
ふたりを置いて、階段を駆け上がる。一目散に自分の寝室へ飛び込んだ。
ドアを閉め、鍵も掛けてしまう。扉にもたれるようにして床に座り込んだ。
明日、どんな顔で透さんと淳くんに会えば良いのだろう。
さっきの私は透さんに、身も心も全て委ねてしまっていた。
覚悟を決めるしかない。透さんにそう返事をした。みんなにも、きちんと伝えよう。
私は透さんの、本当の婚約者になる。
だけどいつか、ちゃんとしたプロポーズをしてもらいたいなと思った。
††††††††
朝起きて、びくびくしながらダイニングへ行ったけれど、淳くんはいつも通りの穏やかな笑顔で挨拶を返してくれた。
透さんは寝ているみたいで、まだここにいなかった。
少しほっとしてしまう。
洗面所へ行こうとしたとき、透さんが階段を下りていた。少し長めの髪もボサボサで、本当に寝起きといった雰囲気がだだもれだ。
「おはようございます」
ちょっとだけ頭を下げて、そそくさと立ち去ろうと思った。
「おはようさん……」
あくびを噛み殺した透さんは、まだ目が開いていない。私も朝弱いので気持ちがわかる。
すれ違いざまに肩を掴まれて、驚いて顔を上げると短く触れるだけのキスをされた。
「やっぱり俺も洗面所行こ」
上機嫌で私の背中におぶさってくる。まだ酔っぱらっているのだろうか。
「透さん、朝ですよ」
「ええやん。俺に夢中なんやろ?」
あんなこと言うんじゃなかったと、頭を抱えたい気持ちになる。
「透!」
眞澄くんが通りかかり、透さんの耳を引っ張る。それで透さんの大きな身体が私から剥がれていく。
「眞澄クン~、痛い痛い」
「酒飲んだら、ちゃんと後片付けしろ」
「みさきちゃん、助けてー」
リビングへ連れて行かれる透さんを苦笑いで見送る。
みんながいてくれて本当に良かった。透さんとふたりきりだと、心臓がいくつあっても足りない。
††††††††
眞澄くん、淳くん、裕翔くんと一緒に下校しようと校門へ向かっていると、女の子のたちがちょっとウキウキしているのがわかった。
校内を出たところに、透さんが塀にもたれて腕組みをして立っていた。
「お帰り。待ってたで」
笑顔の出迎えに、頬がひとりでに緩んでしまう。それにしても朝とは別人みたいなかっこ良さだ。
「オレたちだけで、みさきのこと守れるよ?」
裕翔くんが不満そうに唇を尖らせる。
「婚約者のお迎えに来ただけやから、気にせんといて」
笑顔で返す透さんの言葉に、興味津々と言った様子で彼を見ていた女の子たちが目を丸くしていた。
明日からきっと質問攻めだ。透さんの婚約者になると決めたのだから仕方ない。
今日はお天気があまり良くない。太陽は厚い雲に隠れてしまって、今にも雨が降りだしそうだ。夕方なのにすでに少し暗かった。
傘を持ってきていなかったので、少し急ぎで家を目指す。
「間に合って良かった」
裕翔くんが門扉を開けようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「愚弟がご迷惑をおかけしました」
私もみんなも、声のした方へ振り返る。彰太くんと、透さんと同じくらいの年齢に見える男性が並んで立っていた。
キツネを連想させる笑顔を見せるすらりとしたスーツ姿の男性が、彰太くんの二番目のお兄さん、真宮夏生さんのようだ。
私が想像していたような怖い外見の人ではなかった。
「初めまして。真堂と申します」
ペコリと会釈して顔を上げると、真宮さんは薄笑いを浮かべていた。
「……初めまして」
どこか含みのある言い方だ。視線も値踏みするようで、あまり好意的になれない人と感じてしまう。
隣にいる彰太くんは、何かを我慢するような表情になっていた。確かに独特の圧力のようなものを感じる。
「宿泊費、お支払しましょうか?」
何とも言えない不快さは、目が笑っていないせいだと思った。
「結構です」
「そうですか」
拍子抜けしそうなぐらいあっさりした返答だ。
「ああ、そうだ。もし良ければ、明日観光に付き合ってもらえませんか?」
ポンと手を打つ真宮さんに、どこをどうすればその言葉に繋がるのかわからず面食らってしまう。
「せっかく都会に来たので、弟と少し見て回りたいと……」
真宮さんの手が私の手を掴もうと伸ばされた。それより早く、透さんが私の肩を抱き寄せる。
「悪いけど、明日は婚約者の俺とデートの約束してるから」
婚約者、のところを透さんは強調した。頬が熱い。
「では、そのデートに便乗させてください」
キツネのお面のような笑顔に、透さんは仏頂面で応える。
「お断りや」
「明日は普通に学校だ」
眞澄くんが突っ込んでくれて良かった。
「……だ、そうですよ」
真宮さんは張りついたような笑いを崩すことなく、背後に言葉を投げる。
「アタシもぉ、真宮さんがデートに乱入してくるのは嫌だなー」
ハイヒールのかかとを鳴らす、緩く巻いた髪をふわふわ揺らす女性と、その後ろにもう一人。
その姿に私は驚いて息を呑む。淳くんの琥珀色の双眸が大きく見開かれた。
耳に心地の良い声が、彼の対だった者の名を紡ぐ。
「……翡翠」
翠玉のような瞳を持つ、フランス人形のように整った容姿の少年がそこにいた。
熱に浮かされるまま、差し出された手を取ってしまう。緊張している。透さんは私を連れ出そうとしているのはわかった。
「どこへ……?」
こんな深夜に開いているお店はそんなにない。コンビニぐらいしか思いつかないけれど、何の用があるのだろう。
「せやなぁ……酒飲んでしもたからな。タクシー呼んで俺の家に行こか」
そこまで言われて彼を意図を理解した。
一瞬頭が真っ白になったけれど、照れ隠しと強がりで頬を膨らませる。
「こんな時間に高校生連れ出したら、ケーサツに捕まっちゃいますよ」
憎まれ口を叩いてみるけれど、透さんは唇の端を上げて薄く笑っただけで平然としている。
「通報されへんように気ぃつけるわ」
このまま、透さんと――――。
心臓が爆発するのではないかと思うほど、大きな音を立てている。
明日学校があるのに、とか、初めてなのに、とかいろんなことが頭をぐるぐるした。
だけど身体はひとりでに動く。ここで怖じ気づいて透さんに嫌われてしまう方が怖かった。
のろのろと立ち上がったのと同時に、リビングの扉が開く音がした。
「真壁さん」
淳くんが顔を覗かせる。それを見た瞬間、ふと我に返った。
「え……えと、あの、その」
ぱっと透さんから手を離してしまう。
マンガなら、真っ赤になって両目が渦巻きになっているところだ。弁解が何も思いつかなかった。
ミルクティー色の王子様は少し困ったように微笑む。
「もう遅いですから、部屋に戻ってください」
恥ずかしさで熱い。一刻も早くこの場を離れたかった。
「お、おやすみなさいっ!」
ふたりを置いて、階段を駆け上がる。一目散に自分の寝室へ飛び込んだ。
ドアを閉め、鍵も掛けてしまう。扉にもたれるようにして床に座り込んだ。
明日、どんな顔で透さんと淳くんに会えば良いのだろう。
さっきの私は透さんに、身も心も全て委ねてしまっていた。
覚悟を決めるしかない。透さんにそう返事をした。みんなにも、きちんと伝えよう。
私は透さんの、本当の婚約者になる。
だけどいつか、ちゃんとしたプロポーズをしてもらいたいなと思った。
††††††††
朝起きて、びくびくしながらダイニングへ行ったけれど、淳くんはいつも通りの穏やかな笑顔で挨拶を返してくれた。
透さんは寝ているみたいで、まだここにいなかった。
少しほっとしてしまう。
洗面所へ行こうとしたとき、透さんが階段を下りていた。少し長めの髪もボサボサで、本当に寝起きといった雰囲気がだだもれだ。
「おはようございます」
ちょっとだけ頭を下げて、そそくさと立ち去ろうと思った。
「おはようさん……」
あくびを噛み殺した透さんは、まだ目が開いていない。私も朝弱いので気持ちがわかる。
すれ違いざまに肩を掴まれて、驚いて顔を上げると短く触れるだけのキスをされた。
「やっぱり俺も洗面所行こ」
上機嫌で私の背中におぶさってくる。まだ酔っぱらっているのだろうか。
「透さん、朝ですよ」
「ええやん。俺に夢中なんやろ?」
あんなこと言うんじゃなかったと、頭を抱えたい気持ちになる。
「透!」
眞澄くんが通りかかり、透さんの耳を引っ張る。それで透さんの大きな身体が私から剥がれていく。
「眞澄クン~、痛い痛い」
「酒飲んだら、ちゃんと後片付けしろ」
「みさきちゃん、助けてー」
リビングへ連れて行かれる透さんを苦笑いで見送る。
みんながいてくれて本当に良かった。透さんとふたりきりだと、心臓がいくつあっても足りない。
††††††††
眞澄くん、淳くん、裕翔くんと一緒に下校しようと校門へ向かっていると、女の子のたちがちょっとウキウキしているのがわかった。
校内を出たところに、透さんが塀にもたれて腕組みをして立っていた。
「お帰り。待ってたで」
笑顔の出迎えに、頬がひとりでに緩んでしまう。それにしても朝とは別人みたいなかっこ良さだ。
「オレたちだけで、みさきのこと守れるよ?」
裕翔くんが不満そうに唇を尖らせる。
「婚約者のお迎えに来ただけやから、気にせんといて」
笑顔で返す透さんの言葉に、興味津々と言った様子で彼を見ていた女の子たちが目を丸くしていた。
明日からきっと質問攻めだ。透さんの婚約者になると決めたのだから仕方ない。
今日はお天気があまり良くない。太陽は厚い雲に隠れてしまって、今にも雨が降りだしそうだ。夕方なのにすでに少し暗かった。
傘を持ってきていなかったので、少し急ぎで家を目指す。
「間に合って良かった」
裕翔くんが門扉を開けようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「愚弟がご迷惑をおかけしました」
私もみんなも、声のした方へ振り返る。彰太くんと、透さんと同じくらいの年齢に見える男性が並んで立っていた。
キツネを連想させる笑顔を見せるすらりとしたスーツ姿の男性が、彰太くんの二番目のお兄さん、真宮夏生さんのようだ。
私が想像していたような怖い外見の人ではなかった。
「初めまして。真堂と申します」
ペコリと会釈して顔を上げると、真宮さんは薄笑いを浮かべていた。
「……初めまして」
どこか含みのある言い方だ。視線も値踏みするようで、あまり好意的になれない人と感じてしまう。
隣にいる彰太くんは、何かを我慢するような表情になっていた。確かに独特の圧力のようなものを感じる。
「宿泊費、お支払しましょうか?」
何とも言えない不快さは、目が笑っていないせいだと思った。
「結構です」
「そうですか」
拍子抜けしそうなぐらいあっさりした返答だ。
「ああ、そうだ。もし良ければ、明日観光に付き合ってもらえませんか?」
ポンと手を打つ真宮さんに、どこをどうすればその言葉に繋がるのかわからず面食らってしまう。
「せっかく都会に来たので、弟と少し見て回りたいと……」
真宮さんの手が私の手を掴もうと伸ばされた。それより早く、透さんが私の肩を抱き寄せる。
「悪いけど、明日は婚約者の俺とデートの約束してるから」
婚約者、のところを透さんは強調した。頬が熱い。
「では、そのデートに便乗させてください」
キツネのお面のような笑顔に、透さんは仏頂面で応える。
「お断りや」
「明日は普通に学校だ」
眞澄くんが突っ込んでくれて良かった。
「……だ、そうですよ」
真宮さんは張りついたような笑いを崩すことなく、背後に言葉を投げる。
「アタシもぉ、真宮さんがデートに乱入してくるのは嫌だなー」
ハイヒールのかかとを鳴らす、緩く巻いた髪をふわふわ揺らす女性と、その後ろにもう一人。
その姿に私は驚いて息を呑む。淳くんの琥珀色の双眸が大きく見開かれた。
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