祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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淳ルート 2章

暗くなるまで待って 7

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 珠緒さんは笑顔で月白さんと対面したけれど、普段とは違う迫力があった。本当はとても強いということが良くわかる。

 魔封じのロープで上半身を縛られたままの月白さんは、何の抵抗をすることもなく、珠緒さんについて行く。
 何かあってはいけないから、私たちも周りで様子を監視していた。

 家の外ではすらりとした背の高い女性がふたり待ち構えていた。顔形から背格好、全てがそっくりだ。
 同じと言っても差し支えないぐらい。

 全く同じ黒いパンツスーツを来ているけれど、締めているネクタイの色が赤と青。その差がなかったらどちらがどちらか、わからなくなりそう。

「珠緒さま」

 赤いネクタイの女性に声をかけられて無言でうなずく珠緒さんはすごく威厳があった。私の知ってるおしとやかでお茶目な彼女ではないみたい。

 助手席のドアを女性が開き、珠緒さんが乗り込む。丁寧に扉を閉め、女性は私たちに一礼して運転席へ回った。

「こちらだ」

 青いネクタイの女性が月白さんの腕を引く。
 月白さんは後部座席の中央に押し込められるように座った。

 すでに中でひとり女性が待機していて、ふたりで月白さんを挟むようにする。その女性も同じ顔をしていて、ネクタイの色が黄色だった。三つ子なのかもしれない。

 窓の向こうで珠緒さんが一礼して、自動車は走り去った。

 翡翠くんを助け出せるまで、月白さんがおとなしくしていてくれると良いのだけれど。
 そう思いながら、夜の闇に消えていく車を見送った。

「おっと」

 眞澄くんの声のした方へ私は振り返る。
 淳くんが眞澄くんに背中を支えられていた。

「ごめん、ちょっと気が緩んだ……」
「もう熱が出てきてるだろ」

 淳くんは曖昧に微笑むけれど、立っているのも辛そうだ。いつもより症状が出るのが早い。立て続けに私の血を吸ったせいだろうか。

「先に休ませてもらうよ」

 身体を引きずるように家に戻る淳くんを私は追いかけようと思った。
 リビングの物入れに置いてある冷却シートを取ってから2階へ向かう。

「淳くん」

 階段の手すりを身体の支えにしている淳くんがいたので、横へ行ってから声をかける。
 空いている淳くんの腕を私の肩にかけようと、彼の脇のしたから頭を出した。

「僕の重さでみさきが転んじゃうよ」
「私だって鍛えてるから、そんなにヤワじゃないもん」

 ふふ、と淳くんは上品に笑う。

「それならお言葉に甘えようかな」

 そう言ったけれど、淳くんは触れているだけで私に体重をかけたりしない。

「もっと体重かけて大丈夫だよ?」
「みさきにこうしてもらえるだけで嬉しいから」

 熱のせいで潤んでいる瞳が、妙になまめかしい。

「う、うん……」

 ドキドキして、淳くんにこれ以上何も言えなくなる。

 私が淳くんに肩を貸すはずが、肩を抱かれている状態で彼の部屋に着いた。
 身体を投げ出すようにベッドに寝転ぶ淳くん。

「ありがとう。もう遅いから、みさきも休んだ方が良いよ」

 血の効果が切れた淳くんは白い頬を上気させて、少し呼吸が浅い。
 熱が高いと淳くんがちゃんと眠れるか心配だったから、取って来ていた冷却シートをぺたりとおでこに貼りつける。

 気持ち良かったみたいで、淳くんは穏やかに微笑んだ。
「……ありがとう」
「ゆっくり休んでね」

 こくりとうなずく彼を見て、ちょっと恥ずかしかったけれど私から唇を重ねる。

「おやすみなさい」
「おやすみ……」

 淳くんは呆然した様子で呟いた。



 †††††††



 翌朝、学校へ行く前に淳くんにおかゆを作って届けようと、いつもより早起きをして用意した。
 寝ているところを起こしたら悪いので、ノックしないでそっとドアを開ける。

「お邪魔するね……」
「みさき……?」

 小声で起こさないように気をつけたつもりだったのに、淳くんの睡眠の邪魔をしてしまった。

「……ごめんね。起こさないつもりだったんだけど」
「大丈夫。熱のせいで悪い夢ばかり見ていたから、みさきの顔を見られて良かった」

 寂しげな微笑みを見せる淳くんが心配になる。
 机の上にお盆を置いて、ベッドの傍らに膝を付いた。

 淳くんの髪にそっと触れる。細くて柔らかい。
 少し冷たいしなやかな淳くんの手が、私の頬を撫でる。

 淳くんが何を欲しているのか、わかった気がした。
 ゆっくり顔を近付けながら瞳を閉じる。

 唇が重なり、侵入して来て絡まる舌が熱く感じられた。淳くんがこんなキスをするなんて思っていなかったから、緊張してしまう。
 口づけを止めると吐息がこぼれた。

 淳くんは私の頬に手を添えて、目の前でそっと微笑んだ。

「おかゆ、作ってくれたのかい?」

 何だか色っぽさがいつも淳くんより数倍増している感じだ。熱のせいなのか、それとも、普段は抑えているものが熱のせいで制御できなくなっているのか。

「う、うん……」
「甘えても良いかな?」

 私はどきどきしながら深くうなずく。どんなお願いをされるのかしらと少し緊張している。

「食べさせてもらっても良い?」

 目を閉じてささやく淳くんの手はとても熱かった。

 私の身体から余分な力が抜けていく。無言で首を縦に振ると、淳くんはほっとしたように息を吐いて、白い手をするりと私から離した。

 私は椅子をベッドの横に移動させて、机に置いたおかゆを私が取りに行く。その間に、淳くんは身体を起こしてベッドに座った。

 お茶碗を手に持って、スプーンですくったおかゆに何度か吐息を当てて冷まし、淳くんの口元に運ぶ。それを口に含む淳くんの姿が妖艶で、思わず視線を逸らしてしまった。

 だけどふと小さい頃、立場が逆のことが何回もあったことを思い出した。それで思わず、私の口元が綻ぶ。
 淳くんが不思議そうに私の顔を見た。

「みさき?」
「小さい時は風邪をひいたら、いつも淳くんにこうしてもらっていたなって、思い出してたの」

 頬が熱い。あの頃はどんなことにも照れたり動じたりしなかったのに。

「大丈夫? みさきの顔がずいぶん赤いけれど……」

 こつんと額を合わせられて、私はおかゆを落としてしまいそうになる。

「……熱はなさそうだね」

「淳くんのせいだよ……」

 ぽつりとつぶやくと、淳くんは王子様のように上品に小さく笑った。
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