祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
110 / 145
淳ルート 2章

暗くなるまで待って 8

しおりを挟む
 授業中に今朝の淳くんをふと思い出してドキドキしたりしていたけれど。

 下校すると自宅の前で、今はそれどころではないと言うことを思い知らされる人に会った。
 以前堺さんを会社に訪ねた時に補佐だと言って一緒にいた大島さんが私たちを待っていた。

「制服姿も素敵ね」

 身体をくねくねさせて眞澄くんに近寄る大島さんに、私はぎょっとしてしまう。

 眞澄くんは少しのけぞり、数歩後ずさって大島さんと距離を取った。

「何の用だ?」

 黒曜石のような瞳は、威嚇するように彼女をにらむ。

「あら、つれないわね」

 大島さんは少し唇をとがらせたけれど、残念そうには見えない。むしろ眞澄くんをからかって反応を楽しんでいるみたいだ。

「琥珀が翡翠と1対1で戦って勝てたら、返してあげても良いかなってことになったの」

 少し首を傾けて笑顔で発せられた大島さんの言葉に、私は息が詰まってしまった。どうしてそんなひどいことを考えられるのかわからない。

 それを見て、蛇が獲物を狙って舌なめずりするような視線を大島さんはこちらに向けた。

「明日、場所は時間とここに書いてあるわ。ちゃんと学校終わってからで間に合うようにしてるから、心配しなくて良いわよ。眞澄くんに会えるの楽しみにしてるわね」

 私は渡された白い封筒を両手で持ってじっと見つめた。嫌な予感しかしない。

「……誰が決めたんですか?」
「誰かしらね? 私にはそんな権限はないわ。嫌いな上司に真堂家にそう伝えて来いって言われただけよ」

 クモの糸のように、ねっとりと絡みつく笑顔で大島さんは答えてくれた。詳細を教える気はない、というのが言葉や表情から伝わってくる。

 堺さんのアイデアとも思えない。では研究所のもっと上の役職の人からの指示と言うことだ。
 私は固く唇を結んで、拳を握った。淳くんにどう伝えれば良いのだろう。

 去り際にウインクに投げキッスと大盤振る舞いの大島さん。送られた眞澄くんは辟易とした表情で、大きなため息をついた。眞澄くんに少し耐性がついて来たみたいに感じられた。


 家に入って、眞澄くんはリビングで鞄を床に置いたら、ソファーに身体を投げ出すようにどさりと腰を下ろした。

「罠だろ、絶対」

 眞澄くんは不機嫌な表情で、ため息混じりに言い放ったわ。

「……うん」

 私は立ったまま彼の言葉にうなずいて同意しながら、このことを淳くんに伝えるべきか私は迷っていた。隠しきれるものでもないけれど。
 それにしても、明日だなんて、性急過ぎる気がする。何か急ぐ理由があるのかもしれない。

「だけど、ヒスイを返してもらうにはチャンスじゃないの?」

 ダイニングの椅子に座った裕翔くんの言うことも間違っていない。

 私たちは未だに翡翠くんの居場所を特定できる手がかりを何も得られていない。
 大島さんが連れて来てくれると言うのなら、そこに行くのも手段の1つとして考えるべきかもしれない。

「お帰り」

 淳くんが現れて、私はとっさに大島さんに渡された封筒を後ろ手に隠してしまった。

「……ただいま」

 何となく部屋全体が微妙な空気になった。

「どうかした? 眞澄もみさきも裕翔も……」

 3人が3人とも淳くんから目を逸らしてしまうという体たらく。
 私たちは本当に、隠し事にむいていない。

「えーっと……」

 裕翔くんが視線を泳がせて、私と眞澄くんにどうにかしてとせっついてくる。
 私と眞澄くんはお互いに視線で責任を押し付けあう。

「みさき、何を隠したの?」

 淳くんのミルクティーの色の瞳に射抜かれて、私はごまかしきれないと早々に降参した。

「……これ」

 淳くんの前に行って、大島さんから渡された封筒をおずおずと差し出した。
 それを受け取り、開いて中を見る淳くん。

「……ここへ行って、何があるの?」

「淳くんと翡翠くんを戦わせて、淳くんが勝てば翡翠くんを返しても良いって……」
「……っ!」

 淳くんの瞳が大きく見開いたのを見て、眞澄くんは淳くんの前に立ったわ。

「落ち着け、淳」

 眞澄くんは淳くんの顔を覗きこむような姿勢で、肩に手を置いて落ち着かせようとしているように見えた。

「あいつらはって言ってんだ。それは淳が勝てば絶対に引き渡してくれるってことじゃない」
「…………」

 眞澄くんに言われて、淳くんは端正な唇をきゅっと結んだ。

「翡翠の状況はわからないけど、みさきのことをまだ逆恨みしてる可能性だってある」

 はっとしたように淳くんが私を見た。

「私のことは気にしなくて大丈夫だから」

 あわてて首を横に振った。淳くんが長いまつ毛を伏せると、白い頬に影が落ちる。

「淳くんがどうしたいのか、考えてみて? 私のことは抜きにして」
「みさき……」
「行くなら俺たちも一緒に行くから、みさきのことは任せろ。淳1人では行かせないからな」

「向こうが卑怯な手に出てくれれば、オレも参戦できるしね」

 裕翔くんはガキ大将みたいな好戦的な笑顔を見せる。

「誠史郎にも一応相談しようぜ。俺たちだけで決めたら、イヤミがどれだけ飛んでくるか」

 眞澄くんは誠史郎さんがメガネのブリッジに指を当てる仕草を真似をするみたいに、鼻の付け根に人差し指と中指を添えた。それがおかしくて私はついくすくすと笑ってしまう。

 淳くんもつられたみたいで小さく笑う。その笑顔に私は安心した。
 今までみたいに、1人で抱えているような陰りが滑らかな白い頬から感じられなかったから。

 私の視線に気付いたみたいで、淳くんは優しい色の瞳を柔和に細めてこちらを見る。目と目が合うと、何だか2人で内緒話をしているようで胸の奥がくすぐったい。

 多分、淳くんは行きたいと言うと思う。
 お仕事から戻ってきた誠史郎さんにジエーネ研究所からの提案を伝えると、彼は聞きながら指先でメガネの位置を直した。そして熱も下がって普段通りの淳くんを見た。

「……私はその取引をお勧めできません。ですが指名されているのは淳くんですから、淳くんの意見を聞きましょう」
「僕も、誠史郎の立場なら同じことを言うと思う」

 淳くんは少し困ったような微笑みを見せる。だけどすぐに表情を引き締めて、ここにいる全員の顔を1人ずつ確認するように見た。

 1度深呼吸して、まっすぐな瞳で誠史郎さんに向かい合う。

「僕と翡翠を戦わせて、何かデータを取りたいんだと思う。わかっているけれど、月白とも約束したから、翡翠を取り戻せる可能性に賭けたい」

 誠史郎さんも正面から淳くんのことを受け止めているのがわかる。

「僕の因縁に、みんなを巻き込んでごめん」

 眞澄くんと裕翔くんはにっと口角を上げて笑った。

 誠史郎さんは小さくため息をついて、それからそっと微笑んだ。
 私も大きくうなずいて淳くんを見た。

 きっとこの誘いは、私たちとって翡翠くんにつながる数少ない機会だと思う。

 ピンチをチャンスに変えるために、明日のための準備を始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

処理中です...