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裕翔ルート 2章
冷たい海 2
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「じゃあ、もっと積極的になろうかな」
そう言って裕翔くんはしなやかな動きで私に手を伸ばすから、私の心臓は大きく跳ねた。
端正な口元を彩る微笑みに、いつもと違う何かを感じていた。思わず身体を退いてしまう。
猫科の肉食獣みたいな空気を纏って、裕翔くんは薄く鋭く破顔していた。
「怖い?」
「だって、食べられてしまいそうで……」
ネコみたいなくりくりした大きな瞳の強さに圧し負かされて、私は少し顔をそむけた。
裕翔くんは私の右手を取って、薬指に噛むみたいなキスをする。
「みさき、食べたくなるぐらいかわいいから」
びっくりして顔を上げた私の瞳を覗き込む、少し細められたとび色の双眸。
見ている私の背筋が粟立つほど妖艶な笑顔を浮かべる裕翔くんは、私の知らない男の人だった。だけど、怖いとは思わなかった。むしろ早鐘のように心臓は鳴っていた。
無邪気な少年と、妖しい青年の顔。他にはどんな裕翔くんがいるのか知りたくて、時の経つのも忘れて見惚れていた。
その間に私たちの距離は縮まって、裕翔くんの手は私の肩に置かれていた。その手に力が入って、私を寝転ばせようとした時。
「みさき」
名前を呼ばれてはっと我に返ったけれど、呼んだのは裕翔くんじゃない。私と裕翔くんはお互い顔を見合わせる。
腹筋を最大限に使って姿勢を戻すと、ソファーの下からみやびちゃんが首を伸ばしてこちらを見ていた。
「もう寝ましょ。裕翔も、明日も早いんだから寝なさい」
小さなこどもへの注意を、子猫の妖怪にされてしまう高校生ふたり。何だかおかしくなって、思わず吹き出してしまう。さっきまでの艶かしい雰囲気もどこかへ飛んで行く。
くすくす笑ってしまった私の正面で、裕翔くんは不満そうに唇を尖らせていた。
「何でみやびちゃん、いつも良いとこで邪魔しに来るかなー……」
「みさきを護るのは、『白』の専売特許じゃないのよ」
おすまし顔のみやびちゃんに、裕翔くんは頬を膨らませる。
「邪な思念に反応するように、私は周様に訓練されているから」
とっても得意げなみやびちゃんに感心してしまう。よく考えるとなかなかひどいことを言われているのに、すごいネコマタと私は暮らしていると感動していた。
「よこしまって……」
不服そうに半眼になった裕翔くんを、みやびちゃんはぎろりとねめつけた。
「本当にみさきが大切なら、勢いでどうにかしようとしないの!」
みやびちゃんのお説教に、裕翔くんはすっかり言葉に詰まってしまっていた。
「……仕方ないじゃん。好きな女の子には触りたいんだよー」
すっかりふてくされた表情になった裕翔くんをハラハラしながら見ていたら、みやびちゃんの矛先は私に向けられた。
「みさきも」
「は、はい」
思わず姿勢を正して座りなおしてしまう。膝をしっかり閉じて、腿の上に両手を乗せる。
「すぐに流されるんだから! しっかりしなさい」
「ごめんなさい……」
みやびちゃんの勢いに圧倒されて、身体を縮めて深々と頭を下げた。
「だ、だけどね、裕翔くんに触れてもらえるのは、ドキドキして、嬉しいことだから……」
一方的に流されている訳ではないとみやびちゃんに伝えたいと思った。ちょっと照れくさかったけれど、素直に言葉で表現する。
「みさき……っ」
裕翔くんが少し驚いたみたいに目を見張って、それから私に飛びかかるように抱きついてきた。
「……良かった。ちょっと不安だった」
私の肩に額を預けて、裕翔くんは長いため息をついた。裕翔くんの柔らかい髪が私の頬をくすぐる。
何が心配だったのかしらと思いながら、彼の背中に手を回した。
「オレばっかりみさきに触りたいのかなって」
「そ、そんなこと、ないよ……」
裕翔くんは私から離れて顔をあげると、くしゃりとした笑顔になった。
「……ごめんね?」
そんな風に不安にさせてるなんて、想像しなかった。
私は少し首を傾げて謝りながら、裕翔くんの袖をちょっとひいて、下から彼の顔を覗き込んだ。パチリと目が合うと、裕翔くんはまた私をぎゅっと抱き締める。
「何でみさきはこんなにかわいいのかなー……」
コツンと額を合わせてそうつぶやく裕翔くんは、頬が赤くて、伏し目がちな瞳はどこか切なくて。見ている私の胸がキュンとする。
「ハイハイ、ごちそーさま」
みやびちゃんのあきれたような声で、みやびちゃんにしかられていたことを思い出す。
「みさき、部屋に行きましょう」
私の行動を促すように、みやびちゃんはくるりとドアのほうへ向く。
「行こう」
裕翔くんが手をつないでくれて、私たちは階段を上がった。
それぞれの部屋がある廊下はしんと静まり返っている。もうみんな眠っているみたいだ。
私の部屋の前で立ち止まる。
「おやすみ」
裕翔くんは私の両手を優しく握って、そっと前髪にキスをしてくれた。
「おやすみなさい……」
少し寂しげな裕翔くんの笑顔を前に離れがたかったけれど、節度は守らないといけないとも思う。
暗い部屋に入ってみやびちゃんと一緒にベッドにもぐりこんだ。
明るい裕翔くんが、あんなにいろいろ悩んだり、不安に思っていることがあったなんて。
そしてそれを私に見せてくれたことが嬉しいと感じていた。
つないでいた手に、まだ裕翔くんの体温と香りと男性らしい硬さが残っているようで、私は口元で軽く両手を握って息を吸う。
一刻も早く、裕翔くんを付け狙う、傷のある吸血種のことを知りたい。
そして女郎蜘蛛の件も穏便に済ませられるようにと願いながら目を閉じた。
そう言って裕翔くんはしなやかな動きで私に手を伸ばすから、私の心臓は大きく跳ねた。
端正な口元を彩る微笑みに、いつもと違う何かを感じていた。思わず身体を退いてしまう。
猫科の肉食獣みたいな空気を纏って、裕翔くんは薄く鋭く破顔していた。
「怖い?」
「だって、食べられてしまいそうで……」
ネコみたいなくりくりした大きな瞳の強さに圧し負かされて、私は少し顔をそむけた。
裕翔くんは私の右手を取って、薬指に噛むみたいなキスをする。
「みさき、食べたくなるぐらいかわいいから」
びっくりして顔を上げた私の瞳を覗き込む、少し細められたとび色の双眸。
見ている私の背筋が粟立つほど妖艶な笑顔を浮かべる裕翔くんは、私の知らない男の人だった。だけど、怖いとは思わなかった。むしろ早鐘のように心臓は鳴っていた。
無邪気な少年と、妖しい青年の顔。他にはどんな裕翔くんがいるのか知りたくて、時の経つのも忘れて見惚れていた。
その間に私たちの距離は縮まって、裕翔くんの手は私の肩に置かれていた。その手に力が入って、私を寝転ばせようとした時。
「みさき」
名前を呼ばれてはっと我に返ったけれど、呼んだのは裕翔くんじゃない。私と裕翔くんはお互い顔を見合わせる。
腹筋を最大限に使って姿勢を戻すと、ソファーの下からみやびちゃんが首を伸ばしてこちらを見ていた。
「もう寝ましょ。裕翔も、明日も早いんだから寝なさい」
小さなこどもへの注意を、子猫の妖怪にされてしまう高校生ふたり。何だかおかしくなって、思わず吹き出してしまう。さっきまでの艶かしい雰囲気もどこかへ飛んで行く。
くすくす笑ってしまった私の正面で、裕翔くんは不満そうに唇を尖らせていた。
「何でみやびちゃん、いつも良いとこで邪魔しに来るかなー……」
「みさきを護るのは、『白』の専売特許じゃないのよ」
おすまし顔のみやびちゃんに、裕翔くんは頬を膨らませる。
「邪な思念に反応するように、私は周様に訓練されているから」
とっても得意げなみやびちゃんに感心してしまう。よく考えるとなかなかひどいことを言われているのに、すごいネコマタと私は暮らしていると感動していた。
「よこしまって……」
不服そうに半眼になった裕翔くんを、みやびちゃんはぎろりとねめつけた。
「本当にみさきが大切なら、勢いでどうにかしようとしないの!」
みやびちゃんのお説教に、裕翔くんはすっかり言葉に詰まってしまっていた。
「……仕方ないじゃん。好きな女の子には触りたいんだよー」
すっかりふてくされた表情になった裕翔くんをハラハラしながら見ていたら、みやびちゃんの矛先は私に向けられた。
「みさきも」
「は、はい」
思わず姿勢を正して座りなおしてしまう。膝をしっかり閉じて、腿の上に両手を乗せる。
「すぐに流されるんだから! しっかりしなさい」
「ごめんなさい……」
みやびちゃんの勢いに圧倒されて、身体を縮めて深々と頭を下げた。
「だ、だけどね、裕翔くんに触れてもらえるのは、ドキドキして、嬉しいことだから……」
一方的に流されている訳ではないとみやびちゃんに伝えたいと思った。ちょっと照れくさかったけれど、素直に言葉で表現する。
「みさき……っ」
裕翔くんが少し驚いたみたいに目を見張って、それから私に飛びかかるように抱きついてきた。
「……良かった。ちょっと不安だった」
私の肩に額を預けて、裕翔くんは長いため息をついた。裕翔くんの柔らかい髪が私の頬をくすぐる。
何が心配だったのかしらと思いながら、彼の背中に手を回した。
「オレばっかりみさきに触りたいのかなって」
「そ、そんなこと、ないよ……」
裕翔くんは私から離れて顔をあげると、くしゃりとした笑顔になった。
「……ごめんね?」
そんな風に不安にさせてるなんて、想像しなかった。
私は少し首を傾げて謝りながら、裕翔くんの袖をちょっとひいて、下から彼の顔を覗き込んだ。パチリと目が合うと、裕翔くんはまた私をぎゅっと抱き締める。
「何でみさきはこんなにかわいいのかなー……」
コツンと額を合わせてそうつぶやく裕翔くんは、頬が赤くて、伏し目がちな瞳はどこか切なくて。見ている私の胸がキュンとする。
「ハイハイ、ごちそーさま」
みやびちゃんのあきれたような声で、みやびちゃんにしかられていたことを思い出す。
「みさき、部屋に行きましょう」
私の行動を促すように、みやびちゃんはくるりとドアのほうへ向く。
「行こう」
裕翔くんが手をつないでくれて、私たちは階段を上がった。
それぞれの部屋がある廊下はしんと静まり返っている。もうみんな眠っているみたいだ。
私の部屋の前で立ち止まる。
「おやすみ」
裕翔くんは私の両手を優しく握って、そっと前髪にキスをしてくれた。
「おやすみなさい……」
少し寂しげな裕翔くんの笑顔を前に離れがたかったけれど、節度は守らないといけないとも思う。
暗い部屋に入ってみやびちゃんと一緒にベッドにもぐりこんだ。
明るい裕翔くんが、あんなにいろいろ悩んだり、不安に思っていることがあったなんて。
そしてそれを私に見せてくれたことが嬉しいと感じていた。
つないでいた手に、まだ裕翔くんの体温と香りと男性らしい硬さが残っているようで、私は口元で軽く両手を握って息を吸う。
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