祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

文字の大きさ
113 / 145
裕翔ルート 2章

冷たい海 3

しおりを挟む
 私はゆっくりと目を開いた。冷たい床の上に横になっていた。

 身体を起こしてここはどこだろうと辺りを見回すけれど、薄暗く無機質な空間が広がるばかりで何も見当たらない。

 昨夜はみやびちゃんとベッドに入ったから、これはきっと夢なんだと思う。着ているものも、パジャマのままだし。

「お祖父ちゃん?」

 呼んでみるけれど、返事はないし、姿も見えない。だけど私は何かに誘われるようにペタペタと裸足で歩き始めてしまっていた。

 急に目の前に大きな水槽みたいなものが現れた。オレンジ色の光に照らされたそれに驚いて立ち止まった。様々な太さの管が、たくさんその中でうねうねと絡み合っている。
 そして中心には、人の形が見えた。今より少し小さくて幼いけれど、私が彼を見間違えるはずがない。

「裕翔くん……!?」

 駆け寄ろうとした時、不意に彼が目を開いた。
 そして私が次に気がついたのは、いつもの私の部屋の、ベッドの上だった。

「……夢?」

 夢の中と同じように身体を起こしたけれど、何もおかしなところは見当たらなかった。みやびちゃんが安眠の邪魔をしないでと言うようにしっぽでパタパタとマットレスを叩く。
 時計を見たら、あと五分で起こされる時間だった。



「みさきさん、どうしましたか?」

 朝ごはんの最中、そわそわと裕翔くんを見ている私に誠史郎さんが声をかけてくれる。

「今朝、裕翔くんが夢に出てきて……」
「ホント!? オレもだよ!」

 嬉しくてしっぽをブンブン振る子供の柴犬みたいな裕翔くんの笑顔だけど、私は何だか落ち着かない。

「裕翔くん、水の中にいなかった?」

 私の質問に、くりくりとした大きな瞳が喜色にパッと輝く。

「すごい! 何でわかるの? 生ぬるい水の中にいてさー。オレが目を開けたらみさきがいたんだ。そこで目が覚めちゃったんだけど! 同じ夢を見るなんてオレたち通じ合ってるね」

 裕翔くんは同じ夢だと言ったけれど、私は外側から裕翔くんを見た。そしてお互いに目が合ったところで起きているなんて偶然とは思えない。

「それはシンクロニシティと呼ばれる現象です。確かに夢を見た者同士が通じ合っていると言われることもありますが……」
「みさきちゃんがそんな夢を、はずないもんなー」

 透さんが頬杖をついた姿勢で、意地悪に唇の端を上げて裕翔くんを見る。

「どういうこと?」
「予知夢、とか?」

 裕翔くんの質問に答えた透さんの言葉に、私も混乱する。
 あれが裕翔くんの未来だとしたら、一体裕翔くんの身に何が起こると言うのだろう。

 だけどあの裕翔くんは、今より幼かった。それでふと思いつく。
 あれは初めて会ったときの裕翔くんだ。




 ††††††††




 今日もみさきたちは平穏な学校生活を過ごし、自宅に戻っていた。
 養護教諭である誠史郎は職員会議があったので、普段より帰宅が遅くなった。夕飯は先に食べているように連絡しておいたので問題はないだろう。

 校舎から出て、駐車場にある彼の車のところへ移動中だ。逢魔が時は何が起こってもおかしくないといつも心に留めている。
 だから首筋にまとわりつくようなの気配にも気づいていた。

「おひとりなんですね」

 不躾に声をかけられ、不快感を隠さない鋭い視線で声のした方向を一瞥する。聞いたことのない声だと思ったが、やはり見たことのない顔だった。

 声をかけてきた和服を着た男は、背が高く容姿端麗で全体的には涼やかな印象を与えるのに、瞳だけは粗暴さを隠せずギラギラと輝いているので非常にちぐはぐな印象を受ける。
 口角は上がっているが、笑顔は張りついているようなそれだ。

 高校の敷地内と言う場所柄、あまりにも異質に見えた。

 誠史郎にとってはそれだけで胸焼けがしそうだった。人間ではなく、同族だと匂いでわかるので尚更だ。もちろん、この場合の元と言うのは誠史郎が枠組みから外れた方だ。

 彼の属する組織がこのような集団なのか、彼の個性なのか。
 いずれにしろ関わらない方が心の平穏のために良い人種だと判断した。

 隣にもう1人男がいるが、彼は妙に精気の薄い人間だ。しかし吸血種に怯えて付き従っている雰囲気でもない。得体のしれない不気味さがある。

 このふたりの言うことを真に受けられると言うのは、あの女郎蜘蛛じょろうぐもも相当おめでたいと、誠史郎は小さくため息をついた。

「味方がいないのに、ずいぶん余裕ですね」

 男は少し伸ばした髪を婀娜っぽく指先で払った。
 やけに挑発的な話し方と視線だ。誠史郎を怒らせたいのだろうが、こんなわかりやすい挑発に乗るほど青くない。無視をして、すいと涼やかに行きたい方向へ踵を返す。

「お耳、聞こえてますか?」
「不本意ながら、聞こえています」

 車に乗って真堂家に帰りたいが、ふたりは後をついてくるだろうと容易に想像できた。みさきを危険に巻き込む訳にはいかない。

 そうなれば選択肢はひとつだった。相手もそれが望みなのだろう。

 幸い、周囲に誰もいない。ためらうことなく誠史郎はこの場に結界を張った。

「そう来ないと」

 男は片頬だけで笑いながら、両手を組んで指を鳴らす。威嚇いかくのつもりだろうが意味のない動作だと、誠史郎はどこまでも冷静に相手を見ていた。

 落ちた左の袖口から傷跡がのぞく。
 吸血種の回復力を以てしても治らなかった攻撃。裕翔は一体何をしたのだろうと誠史郎は考えながら、わずかに微笑んで見せた。

「私に勝てないようでは、裕翔くんには指一本触れられませんよ」
「ええ、知ってます。だからあなたを痛めつけるか、人質にしよう思ったんです」

「失礼ですが、私はあなたのことを存じ上げないので、そのような行いをされる理由がわからないのですが?」
「またまた。わかっているんでしょう? あの実験体を仲間に引き入れたのだから」

 裕翔の覚えていない過去についての、重要なワードが男の口から語られた。初耳だったが、誠史郎はそれをおくびにも出さない。

 吸血種についた治らない傷。実験体と呼ばれた裕翔。誠史郎の頭の中ですばやく推論が組み立てられる。関わっているのはおそらくあの男だと予想する。

 みさきと裕翔が今朝語っていた夢は、予知夢ではなく、過去夢なのだろう。

「残念ながら、裕翔くんはあなたのことを露ほども覚えていませんよ」
「そうなんです!」

 誠史郎の言葉に彼は興奮気味に語り出した。

「本当に腹立たしい。嫌でも私を思い出すように、じわじわ真綿で締めるようにしてやりたかったんです。だけど、どうにも上手くいかなくてむしゃくしゃしてましてね。本当はお姫様の方を狙いたかったのですが、あちらはどうにもガードが固い」

「皆、訓練された護衛ですから」

 長い話は聞くだけ無駄だった。彼はどうやら、裕翔に負けた心の傷がまだ癒えていないらしい。存外繊細なのだと、誠史郎は男を冷ややかに眺める。

「実験体との戦いを任されたぐらいですから、さぞお強いのでしょうね」

 冷笑と共に誠史郎は嫌味のつもりで言ったのだが、男はそうは取らなかったようで表情がパッと明るくなった。しかしすぐに悔しそうに口元を歪める。

「群れなんて、甘えて生きていてはいけないと思い知らされましたよ……」

 芝居がかった言い回しでため息と共に吐き出し悲しげに瞳を伏せた男に、誠史郎はもちろんだが、連れの男も特に反応はない。

 ニヤリと口元を緩めた男は前触れもなく、一足跳びに誠史郎と距離を詰めた。長く伸びた鋭利な爪が、誠史郎の首を掻き切ろうとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜

具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。 主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。 みたいなはなし ※表紙はAIです

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

処理中です...