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誠史郎ルート 2章
禁断の果実 3
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テーマパークでキャラクターのサングラスをかけて、物陰になっているベンチに座ってホットドッグを食べる誠史郎さん。
これまで露ほども想像したことのない姿だった。何だか嬉しくて、肉まんを頬張りながらにやけてしまう。
「おいしいですか?」
「え?」
「良い笑顔で召し上がっているので」
不意に誠史郎さんの整った面が近づいてきた。
サングラスの奥の瞳がいたずらっぽく微笑んでいるのが透けて、どきりとする。
「おいしいですし、楽しいです」
どきどきしたけれど、目を逸らさないで伝えられた。
「何よりです」
誠史郎さんの優しさにきゅんとする。
見つめていると、誠史郎さんは飲み物を口にした。お茶をストローで飲んでいる首筋に見とれてしまう。
はっと我に返って再び肉まんにかじりつく。本当においしい。誠史郎さんと並んで食べる肉まんが、こんなに心踊る食べ物だったなんて。
とても幸せで、楽しくて嬉しい。頬が緩む。
食べ終わってから近くのエリアのアトラクションの優先券を取った。潜水艦に乗って海の中を探検する物語になっているから、のんびり乗れる。
指定された時間まで余裕があったので、ケットシーのバケツに入ったキャラメル味のポップコーンを買い求めた。
それからその近くの待ち時間がそれほど長くないシアター型のアトラクションへ。それでも50分待ちと表示されていた。
待ち時間も楽しい。誰も私たちを知らないし、気にしない。
手をつないでいたけれど、もっと誠史郎さんに近づきたい。長い腕に私は身体ごと絡み付いた。
ちょっと大胆だったかな、と誠史郎さんの顔を覗き見る。
誠史郎さんはこちらを見て頬を緩めてくれた。
そのまま甘えるように誠史郎さんに身を委ねた。
つい数時間前まで見張られているかもしれないと息苦しかったから、解放感からの反動かもしれない。
「誠史郎さんはファンタジーキングダムに来たことありますか?」
「初めてです。みさきさんとなら楽しいかと思いまして」
ちょっと意外だった。
そう言えば、私は誠史郎さんの過去の恋人を一人しか知らない。
他にもお付き合いをしていた女性はいるのだろうか。知りたいような、知りたくないような。
そもそも誠史郎さんの実年齢を知らないと気づいたけれど、そこは知らない方が良い気がした。
邪念を払おうと更に密着する。
「どうしましたか?」
くすりと意味ありげに笑う誠史郎さん。
やっぱり私が考えていることは透けて見えるのではないかと思う。
「楽しいですね」
同じ気持ちだと嬉しくなる。
「楽しいです」
顔を見合わせて微笑み合う。とても幸せ。
ここにはとてもたくさんの人がいるのに、世界にふたりだけのような錯覚に陥る。
私がポップコーンを食べようと蓋を開けると、するりと誠史郎さんの長い指がやって来た。ひとつ摘まむと私の口元に運んでくる。
驚いて誠史郎さんの顔を見上げた。
ケットシーのサングラスをかけた美男子は、指先のポップコーンを笑顔で食べるように促してくる。
どきどきしながらかじりついた。誠史郎さんの指に私の唇が触れる。
キャラメルにコーティングされたポップコーンの甘さが口の中に広がったけれど、それより誠史郎さんに意識が向かってしまう。
「甘いですね」
ちろりと親指の腹を舐める赤い舌がとても艶かしい。
「……イジワルです」
照れ隠しに少しいじけて呟く。何だかポップコーンを食べるのが危険な気がして蓋を閉じた。
「みさきさんが可愛らしいので、つい」
耳元でささやく甘い声に腰が砕けてしまいそうで、誠史郎さんの腕にしがみつく。
楽しすぎて、ずっとこのままいたいと思ってしまう。
ただ待っていると長い時間なのに、普通の恋人同士みたいに誠史郎さんに密着しながら話しているだけであっという間だった。
劇場では並んで座って、暗くなると私の手を誠史郎さんの大きな手が包んでくれた。
目の前でかわいいキャラクターたち紡ぐ優しい物語の幻想的な光景と、少し冷たい手のひら。
うっとりと誠史郎さんの肩に頭を預けた。彼も私に寄り添ってくれる。不思議な王国の魔力ってすごい。
到着した時間がお昼過ぎだったので、シアターを出たらもう夕方になっていた。優先券を持っているアトラクションへ向かう。
誠史郎さんがエスコートしてくれて、潜水艦をイメージしたカプセル型の乗り物に乗り込んだ。係員さんに見送られて発車すると、本当にふたりきりの空間になる。
「きれい……」
まるで本物の海底を進んでいるみたいだった。
楽しくてあちらこちら見回していると、不意に肩を抱かれて誠史郎さんに引き寄せられる。
一瞬にして感覚が全部彼へ集中してしまう。
「私のことはお気になさらず。あまりにもみさきさんが愛らしくて抱き締めたくなっただけですから」
囁きのあと私の髪に誠史郎さんの唇が触れた。
こんなの、気にするなと言われても無理な話。
振り向いて誠史郎さんを見上げた次の瞬間、唇が重なっていた。
甘い柔らかさに恍惚とする。
歯止めが効かない。
「誠史郎さん……。もっと……」
最後まで言い終わる前に呼吸を奪われた。酸素を求めて薄く開いた唇から、柔らかな筋肉でできた粘膜が侵入してくる。
「ん……っ」
互いの舌が絡まって、私のそれは誘導されて引き出され軽く吸われた。頭の芯がしびれて、全身から力が抜けていく。
短い海底探検が終わりを迎えるナレーションが聞こえてきた時には、誠史郎さんのとろけるようなキスのせいで私の足腰は立たなくなっていた。
誠史郎さんに抱えられるように歩いて、建物を出る。
日の暮れた王国も素敵だ。
隣に誠史郎さんがいるから一層強くそう感じるのだと思う。
見上げると誠史郎さんはサングラスを外してこちらへ振り向いた。とても穏やかな笑みが浮かんでいる。
「遊園地がこんなに楽しい場所だとは思いもしませんでした。みさきさん、ありがとうございます」
「わ、私も……! すごく楽しくて、もうこんなに時間だなんて信じられなくて……」
ぎゅっと誠史郎さんの大きな手を握って見つめ返す。
「また、来たい……です」
「もちろん、何度でも来ましょう」
「はい!」
私は笑顔で大きく頷いた。
これまで露ほども想像したことのない姿だった。何だか嬉しくて、肉まんを頬張りながらにやけてしまう。
「おいしいですか?」
「え?」
「良い笑顔で召し上がっているので」
不意に誠史郎さんの整った面が近づいてきた。
サングラスの奥の瞳がいたずらっぽく微笑んでいるのが透けて、どきりとする。
「おいしいですし、楽しいです」
どきどきしたけれど、目を逸らさないで伝えられた。
「何よりです」
誠史郎さんの優しさにきゅんとする。
見つめていると、誠史郎さんは飲み物を口にした。お茶をストローで飲んでいる首筋に見とれてしまう。
はっと我に返って再び肉まんにかじりつく。本当においしい。誠史郎さんと並んで食べる肉まんが、こんなに心踊る食べ物だったなんて。
とても幸せで、楽しくて嬉しい。頬が緩む。
食べ終わってから近くのエリアのアトラクションの優先券を取った。潜水艦に乗って海の中を探検する物語になっているから、のんびり乗れる。
指定された時間まで余裕があったので、ケットシーのバケツに入ったキャラメル味のポップコーンを買い求めた。
それからその近くの待ち時間がそれほど長くないシアター型のアトラクションへ。それでも50分待ちと表示されていた。
待ち時間も楽しい。誰も私たちを知らないし、気にしない。
手をつないでいたけれど、もっと誠史郎さんに近づきたい。長い腕に私は身体ごと絡み付いた。
ちょっと大胆だったかな、と誠史郎さんの顔を覗き見る。
誠史郎さんはこちらを見て頬を緩めてくれた。
そのまま甘えるように誠史郎さんに身を委ねた。
つい数時間前まで見張られているかもしれないと息苦しかったから、解放感からの反動かもしれない。
「誠史郎さんはファンタジーキングダムに来たことありますか?」
「初めてです。みさきさんとなら楽しいかと思いまして」
ちょっと意外だった。
そう言えば、私は誠史郎さんの過去の恋人を一人しか知らない。
他にもお付き合いをしていた女性はいるのだろうか。知りたいような、知りたくないような。
そもそも誠史郎さんの実年齢を知らないと気づいたけれど、そこは知らない方が良い気がした。
邪念を払おうと更に密着する。
「どうしましたか?」
くすりと意味ありげに笑う誠史郎さん。
やっぱり私が考えていることは透けて見えるのではないかと思う。
「楽しいですね」
同じ気持ちだと嬉しくなる。
「楽しいです」
顔を見合わせて微笑み合う。とても幸せ。
ここにはとてもたくさんの人がいるのに、世界にふたりだけのような錯覚に陥る。
私がポップコーンを食べようと蓋を開けると、するりと誠史郎さんの長い指がやって来た。ひとつ摘まむと私の口元に運んでくる。
驚いて誠史郎さんの顔を見上げた。
ケットシーのサングラスをかけた美男子は、指先のポップコーンを笑顔で食べるように促してくる。
どきどきしながらかじりついた。誠史郎さんの指に私の唇が触れる。
キャラメルにコーティングされたポップコーンの甘さが口の中に広がったけれど、それより誠史郎さんに意識が向かってしまう。
「甘いですね」
ちろりと親指の腹を舐める赤い舌がとても艶かしい。
「……イジワルです」
照れ隠しに少しいじけて呟く。何だかポップコーンを食べるのが危険な気がして蓋を閉じた。
「みさきさんが可愛らしいので、つい」
耳元でささやく甘い声に腰が砕けてしまいそうで、誠史郎さんの腕にしがみつく。
楽しすぎて、ずっとこのままいたいと思ってしまう。
ただ待っていると長い時間なのに、普通の恋人同士みたいに誠史郎さんに密着しながら話しているだけであっという間だった。
劇場では並んで座って、暗くなると私の手を誠史郎さんの大きな手が包んでくれた。
目の前でかわいいキャラクターたち紡ぐ優しい物語の幻想的な光景と、少し冷たい手のひら。
うっとりと誠史郎さんの肩に頭を預けた。彼も私に寄り添ってくれる。不思議な王国の魔力ってすごい。
到着した時間がお昼過ぎだったので、シアターを出たらもう夕方になっていた。優先券を持っているアトラクションへ向かう。
誠史郎さんがエスコートしてくれて、潜水艦をイメージしたカプセル型の乗り物に乗り込んだ。係員さんに見送られて発車すると、本当にふたりきりの空間になる。
「きれい……」
まるで本物の海底を進んでいるみたいだった。
楽しくてあちらこちら見回していると、不意に肩を抱かれて誠史郎さんに引き寄せられる。
一瞬にして感覚が全部彼へ集中してしまう。
「私のことはお気になさらず。あまりにもみさきさんが愛らしくて抱き締めたくなっただけですから」
囁きのあと私の髪に誠史郎さんの唇が触れた。
こんなの、気にするなと言われても無理な話。
振り向いて誠史郎さんを見上げた次の瞬間、唇が重なっていた。
甘い柔らかさに恍惚とする。
歯止めが効かない。
「誠史郎さん……。もっと……」
最後まで言い終わる前に呼吸を奪われた。酸素を求めて薄く開いた唇から、柔らかな筋肉でできた粘膜が侵入してくる。
「ん……っ」
互いの舌が絡まって、私のそれは誘導されて引き出され軽く吸われた。頭の芯がしびれて、全身から力が抜けていく。
短い海底探検が終わりを迎えるナレーションが聞こえてきた時には、誠史郎さんのとろけるようなキスのせいで私の足腰は立たなくなっていた。
誠史郎さんに抱えられるように歩いて、建物を出る。
日の暮れた王国も素敵だ。
隣に誠史郎さんがいるから一層強くそう感じるのだと思う。
見上げると誠史郎さんはサングラスを外してこちらへ振り向いた。とても穏やかな笑みが浮かんでいる。
「遊園地がこんなに楽しい場所だとは思いもしませんでした。みさきさん、ありがとうございます」
「わ、私も……! すごく楽しくて、もうこんなに時間だなんて信じられなくて……」
ぎゅっと誠史郎さんの大きな手を握って見つめ返す。
「また、来たい……です」
「もちろん、何度でも来ましょう」
「はい!」
私は笑顔で大きく頷いた。
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