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誠史郎ルート 2章
禁断の果実 5
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一学期の中間テストが終わり、本格的に体育祭の準備へとみんなの心は移った。どことなく学校中が浮かれている。
そんな中、私は気がついてしまった。
誠史郎さんは女子生徒だけではなく、先生たちからも狙われていると言うことに。
特に用はないけれど誠史郎さんの姿を見られないかと保健室の前をふらふら通っていると、音楽の安座間先生と家庭科の和田先生は積極的だと気づいた。頻繁に訪ねている。
安座間先生は今年この学校に赴任してきた若い女の先生。和田先生は誠史郎さんの表向きの年齢より少し年上の女性の先生で、数年同僚として働いているみたい。
お弁当を食べながらそれとなく咲良に誠史郎さんがふたりの先生から迫られているように見えると話を振ってみたら。
「今さら気づいたの!?」
そう驚かれた。半ば呆れていたようにも見える。
「すごいよねー、あの二人」
「学校なのにお構い無しだもんね」
「生徒は迂闊に保健室行けないからって、あれはやり過ぎだよねー」
誠史郎さん目当ての生徒が保健室に入り浸るので、本当に体調が悪かったり怪我をした生徒や保健委員以外は保健室立ち入り禁止になっている。毎年注意喚起のプリントが配られるほどだ。
莉緒と優菜もうんうんとうなずきながら辛辣な感想を述べている。
「恋を知らなかったみさきちゃんは、また難易度が超絶高めなところへ行きましたなー」
「えっ!?」
咲良の呟きに、お弁当をひっくり返してしまいそうなぐらい動揺する。顔中に血液が集まってくるのがわかった。
「真っ赤になって、かわいいー」
優菜にからかわれてさらに挙動不審になってしまう。忍者だったら変わり身の術で隠れられるのに、残念ながらそんな術は使えない。
「あれだけ迫られて何の反応も見せない西山先生とあきらめないふたりの戦い、いつまで続くんだろうね?」
「あれだけ脈なしなのにねー」
なかなかみんなシビアな言い方だ。私は心臓が痛い。
「みさきは西山先生のどこが好きなの?」
「えっ!?」
咲良からの質問で、自分でびっくりするぐらい変な声が出てしまった。
じわじわ追い詰められているような気がしてしまう。下手なことを口にするとボロを出しそうだ。
「は、白衣……」
「白衣?」
「白衣にネクタイが似合ってて、素敵だなーって……」
しどろもどろで答える私を、みんなは温かい目で見つめてくる。
恥ずかしいけれどウソはついていない。本当に誠史郎さんの白衣姿は素敵だと思っている。優美な立ち姿を思い出してまた照れてしまう。
鋭いのに優しい切れ長の双眸とか、鼓膜が溶けるんじゃないかと思うほど甘い声とか、紳士でクールなのにふたりきりになると情熱的なところとか、好きなところは言い出したらキリがない。
本当は彼氏だとは言えない。みんなに隠し事をしているのは後ろめたいけれど、秘密だと思うとドキドキする。
それ以上の追及はなく、お昼休みは終わった。
放課後は体育祭の準備で残る。眞澄くんと淳くん、裕翔くんもそれぞれクラスで準備があるらしく、一緒に帰れるかはわからない。
応援用のポンポンを作っていたのだけれど、咲良と一緒にゴミを捨てる役を買って出た。
咲良の提案で、ゴミ捨て場へ行く途中に少し遠回りをして保健室の前を通る。完全に面白がられているけれど、誠史郎さんの姿を見られるのは嬉しい。
保健室は扉が全開になっていた。中には椅子に座る誠史郎さんと隣に立って話しかける安座間先生がいた。
頬を赤らめ、身体をくねらせる安座間先生の様子に複雑な気分になる。
「あ……」
咲良が私に少し気を使った視線を投げかけてきた。
ふたりが何を話しているのかとても気になる。でもこうして人目に付くようにしているのは、誠史郎さんにやましいことのない証拠だと思う。
だけど足が止まって、聞き耳を立ててしまう。
「……申し訳ありませんが、大切な人を不安にさせたくないんです」
ここまでにどんな会話が繰り広げられていたのかは想像するしかないけれど、少なくとも誠史郎さんは私を大切に想ってくれている。
心臓が大きく鳴った。喜びの中に少し違う感情が混じっていることを自覚する。誠史郎さんは私の恋人だと言ってしまいたい。だから近づかないで、と。
「えっ! 彼女いるんだ……」
一緒に立ち聞きしていた咲良が目を丸くする。
「盗み聞きした情報は拡散しないでくださいね」
後ろからいたずらっぽく声をかけられて飛び上がった。
振り返ると、いつの間にか誠史郎さんが開いたドアの縁に手をかけて立っている。唇の端に浮かぶ微笑が艶やかだ。
「松本さん、真堂さん」
「はっ、はいぃっ!」
誠史郎さんの色気に当てられた咲良は、真っ赤になって声が裏返っている。
動揺のあまり小走りに去っていく咲良。私は誠史郎さんに小さく会釈して咲良を追う。
「びっくりしたー! オトナの色気だわ……」
また1人無意識にファンを増やす誠史郎さんが心配になった。
もやもやしている私に咲良はすぐに気づいたみたいで、あわてた表情になる。
「だ、大丈夫よ! ちょっとびっくりしただけって言うか……。それより、みさきは大丈夫?」
「え?」
「だってさ、ほら……」
咲良は言葉を濁す。私を本当に気遣ってくれているのだとわかる。誠史郎さんの彼女は私だと言えないのは心苦しい。
だけど。
私は自分の恋を守ることを選ぶ。
「……ありがと」
咲良の誤解を解くことなく、苦笑いで返した。
そんな中、私は気がついてしまった。
誠史郎さんは女子生徒だけではなく、先生たちからも狙われていると言うことに。
特に用はないけれど誠史郎さんの姿を見られないかと保健室の前をふらふら通っていると、音楽の安座間先生と家庭科の和田先生は積極的だと気づいた。頻繁に訪ねている。
安座間先生は今年この学校に赴任してきた若い女の先生。和田先生は誠史郎さんの表向きの年齢より少し年上の女性の先生で、数年同僚として働いているみたい。
お弁当を食べながらそれとなく咲良に誠史郎さんがふたりの先生から迫られているように見えると話を振ってみたら。
「今さら気づいたの!?」
そう驚かれた。半ば呆れていたようにも見える。
「すごいよねー、あの二人」
「学校なのにお構い無しだもんね」
「生徒は迂闊に保健室行けないからって、あれはやり過ぎだよねー」
誠史郎さん目当ての生徒が保健室に入り浸るので、本当に体調が悪かったり怪我をした生徒や保健委員以外は保健室立ち入り禁止になっている。毎年注意喚起のプリントが配られるほどだ。
莉緒と優菜もうんうんとうなずきながら辛辣な感想を述べている。
「恋を知らなかったみさきちゃんは、また難易度が超絶高めなところへ行きましたなー」
「えっ!?」
咲良の呟きに、お弁当をひっくり返してしまいそうなぐらい動揺する。顔中に血液が集まってくるのがわかった。
「真っ赤になって、かわいいー」
優菜にからかわれてさらに挙動不審になってしまう。忍者だったら変わり身の術で隠れられるのに、残念ながらそんな術は使えない。
「あれだけ迫られて何の反応も見せない西山先生とあきらめないふたりの戦い、いつまで続くんだろうね?」
「あれだけ脈なしなのにねー」
なかなかみんなシビアな言い方だ。私は心臓が痛い。
「みさきは西山先生のどこが好きなの?」
「えっ!?」
咲良からの質問で、自分でびっくりするぐらい変な声が出てしまった。
じわじわ追い詰められているような気がしてしまう。下手なことを口にするとボロを出しそうだ。
「は、白衣……」
「白衣?」
「白衣にネクタイが似合ってて、素敵だなーって……」
しどろもどろで答える私を、みんなは温かい目で見つめてくる。
恥ずかしいけれどウソはついていない。本当に誠史郎さんの白衣姿は素敵だと思っている。優美な立ち姿を思い出してまた照れてしまう。
鋭いのに優しい切れ長の双眸とか、鼓膜が溶けるんじゃないかと思うほど甘い声とか、紳士でクールなのにふたりきりになると情熱的なところとか、好きなところは言い出したらキリがない。
本当は彼氏だとは言えない。みんなに隠し事をしているのは後ろめたいけれど、秘密だと思うとドキドキする。
それ以上の追及はなく、お昼休みは終わった。
放課後は体育祭の準備で残る。眞澄くんと淳くん、裕翔くんもそれぞれクラスで準備があるらしく、一緒に帰れるかはわからない。
応援用のポンポンを作っていたのだけれど、咲良と一緒にゴミを捨てる役を買って出た。
咲良の提案で、ゴミ捨て場へ行く途中に少し遠回りをして保健室の前を通る。完全に面白がられているけれど、誠史郎さんの姿を見られるのは嬉しい。
保健室は扉が全開になっていた。中には椅子に座る誠史郎さんと隣に立って話しかける安座間先生がいた。
頬を赤らめ、身体をくねらせる安座間先生の様子に複雑な気分になる。
「あ……」
咲良が私に少し気を使った視線を投げかけてきた。
ふたりが何を話しているのかとても気になる。でもこうして人目に付くようにしているのは、誠史郎さんにやましいことのない証拠だと思う。
だけど足が止まって、聞き耳を立ててしまう。
「……申し訳ありませんが、大切な人を不安にさせたくないんです」
ここまでにどんな会話が繰り広げられていたのかは想像するしかないけれど、少なくとも誠史郎さんは私を大切に想ってくれている。
心臓が大きく鳴った。喜びの中に少し違う感情が混じっていることを自覚する。誠史郎さんは私の恋人だと言ってしまいたい。だから近づかないで、と。
「えっ! 彼女いるんだ……」
一緒に立ち聞きしていた咲良が目を丸くする。
「盗み聞きした情報は拡散しないでくださいね」
後ろからいたずらっぽく声をかけられて飛び上がった。
振り返ると、いつの間にか誠史郎さんが開いたドアの縁に手をかけて立っている。唇の端に浮かぶ微笑が艶やかだ。
「松本さん、真堂さん」
「はっ、はいぃっ!」
誠史郎さんの色気に当てられた咲良は、真っ赤になって声が裏返っている。
動揺のあまり小走りに去っていく咲良。私は誠史郎さんに小さく会釈して咲良を追う。
「びっくりしたー! オトナの色気だわ……」
また1人無意識にファンを増やす誠史郎さんが心配になった。
もやもやしている私に咲良はすぐに気づいたみたいで、あわてた表情になる。
「だ、大丈夫よ! ちょっとびっくりしただけって言うか……。それより、みさきは大丈夫?」
「え?」
「だってさ、ほら……」
咲良は言葉を濁す。私を本当に気遣ってくれているのだとわかる。誠史郎さんの彼女は私だと言えないのは心苦しい。
だけど。
私は自分の恋を守ることを選ぶ。
「……ありがと」
咲良の誤解を解くことなく、苦笑いで返した。
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