126 / 145
誠史郎ルート 2章
禁断の果実 8
しおりを挟む
誠史郎さんが腕時計に視線を落とす。その姿も絵になって胸がキュンとする。ふたりきりでいるのは私の理性がもたない。誠史郎さんにたくさん触れてもらいたくなる。
しなやかで大きな手。さっき手の甲を撫でられたことを思い出してまた身体が甘く震える。
ドンドンと強めに体育倉庫のドアがノックされた。その音ではっと我に返る。
「みさき! いるのか!?」
「眞澄くん!」
私は驚いてマットから飛び降り、ドアへ駆け寄った。助けに来てくれたと安心する。
「……思ったより早かったですね」
誠史郎さんが外の眞澄くんには聞こえない小さな声でぼそりと呟いた。
「警備員さんに鍵を借りてくるよ」
淳くんが体育倉庫の鍵を取りに行ってくれたのがわかって安堵からため息がこぼれてしまう。
「みさき、大丈夫?」
裕翔くんは心配そうに声をかけてくれる。
誠史郎さんがゆっくりこちらへ歩み寄ってきた。
「私も一緒にいますから、問題ありません」
「何で誠史郎が一緒にいるんだよ?」
「後でゆっくり話します」
誠史郎さんは私に意味ありげに微笑みかける。そして私の髪を一房すくって唇を落とした。
驚きとドキドキで変な声が出そうになった。誠史郎さんは人差し指を私の唇にちょんと添えて、口を塞ぐ。
いたずら好きなんだから。
何だかおかしくなって肩をすくめて小さく笑う。誠史郎さんの切れ長の双眸が優しく細められた。
「誠史郎、みさきにヘンなことしてないよね!?」
「……皆さん、私への信用がありませんね」
「普段の行いのせいだろ」
裕翔くんと眞澄くんに責められている誠史郎さん。言葉こそ悲しがっているみたいだけど、表情は余裕綽々だ。
この顔をふたりが見たらさらに抗議されそう。
全くの無実ではないし。
「お待たせ」
淳くんが戻って来てくれた。鍵を開けてくれて、ようやく外に出られた。
「大丈夫か?」
「そんなに長い時間じゃなかったから大丈夫。ありがとう」
「ありがとうございます。助かりました」
「誠史郎……! どうして……」
淳くんは誠史郎さんも一緒にいたことに目を丸くする。
「嫌がらせをされただけです。おそらく島田先生が私をここへ閉じ込めたのでしょう」
「何で島田先生が誠史郎を閉じ込めるの?」
裕翔くんは腕を組んで首を傾げる。今までの私なら、多分同じ反応をしていたと思う。だけど今は違う。少しずつだけど、痴情のもつれなんかもわかるようになってきた。
「安座間先生が泣きついたのでしょうね。私が交際の申し込みを断ったことに腹を立てて、島田先生にどんなことでも構わないから西山を懲らしめてほしいと」
「それで体育倉庫に閉じ込めるって……。仮にも先生だろ? 良い大人が何やってンだか」
眞澄くんが額を押さえて大きなため息をついた。本当に眞澄くんの言う通りだと思って私も何回もうなずく。
そんなことをお願いする安座間先生も、学校の中で実行する島田先生もどうかしている。
「そう誘導した人がいるのだと思います。彼はなかなか他人を操るのがお上手です。私も危うく手のひらの上で踊らされるところでした。彼に良いようにされたふたりの教師がどんなに幼稚でも、彼らを糾弾したりしませんから安心してください。こちらが堂々としていればあちらが気まずくて避けるでしょうし」
誠史郎さん、強い。
確かに明日の朝、誠史郎さんが涼しい顔で出勤してきたらふたりの先生はうろたえるだろう。
そして誠史郎さんの言う、人を操るのが上手な彼。あの人を食ったような笑顔を思い出してしまった。伝言ゲームの始まりもあの人なのだろうか。
「それなら、みさきはどうして……?」
「クラスの子が、ここに来てって伝えてほしいって頼まれたらしいんだけど、何人も経由してて出所がわからないの。だけどもしかしたら……」
「おそらく、みさきさんは山神さんのシナリオでここへ呼ばれたのでしょう」
「ヤマガミ?」
「先日少しお話しした、私たちの見張り役の方です。ジエーネ研究所でアルバイトをしている大学生です。隣に出入りして、この学校にも潜り込んでいますよ」
みんなあっけに取られた表情になる。
「もっと早く言えよ!」
「まさかこんなに早く目的を達しようと動くとは想像してませんでした。私の見通しが甘くて申し訳ありません。続きは家で話しましょう」
とりあえずみんなで体育倉庫から移動することにした。
「どうして誠史郎はその人のこと知ってるの?」
「向こうから接触してきたからです」
「どうして誠史郎だけ?」
「私が適任だったからでしょうね」
裕翔くんは訳がわからないという表情をしている。
誠史郎の推察通りだったら、亘理さんも山神さんもどうかしていると思う。
私はまだ高校生だし、誠史郎さんは学校の先生なんだから、卒業までは目に見えては何も起きないのに。
そう、表向きは。
想像すると顔が熱くなる。
そういうことは、恋人同士で密やかに育まれていくのだから。
とっても巨大なお世話だけど、誠史郎さんとの距離がどんどん縮んでいくのは嬉しい。
前を歩く形のよい後頭部を見上げた。
淳くんがさっき体育倉庫の鍵を借りてくれた警備員さんのところへみんなで行って、私と誠史郎さんの荷物がそれぞれ教室と職員室に残っていることを伝えた。
優しそうなおじいさんは驚いていたけれど、特に何も詮索せずに鍵を開けてくれた。ありがたいことだ。もしかしたら、先に淳くんが上手いこと話してくれていたのかもしれない。
誠史郎さんは一足先に車で、残る私たちは徒歩で家まで戻った。
その間に私は決心できていた。
みんなに、ちゃんと伝える。
私は誠史郎さんと一緒に生きる道を選んだことを。
しなやかで大きな手。さっき手の甲を撫でられたことを思い出してまた身体が甘く震える。
ドンドンと強めに体育倉庫のドアがノックされた。その音ではっと我に返る。
「みさき! いるのか!?」
「眞澄くん!」
私は驚いてマットから飛び降り、ドアへ駆け寄った。助けに来てくれたと安心する。
「……思ったより早かったですね」
誠史郎さんが外の眞澄くんには聞こえない小さな声でぼそりと呟いた。
「警備員さんに鍵を借りてくるよ」
淳くんが体育倉庫の鍵を取りに行ってくれたのがわかって安堵からため息がこぼれてしまう。
「みさき、大丈夫?」
裕翔くんは心配そうに声をかけてくれる。
誠史郎さんがゆっくりこちらへ歩み寄ってきた。
「私も一緒にいますから、問題ありません」
「何で誠史郎が一緒にいるんだよ?」
「後でゆっくり話します」
誠史郎さんは私に意味ありげに微笑みかける。そして私の髪を一房すくって唇を落とした。
驚きとドキドキで変な声が出そうになった。誠史郎さんは人差し指を私の唇にちょんと添えて、口を塞ぐ。
いたずら好きなんだから。
何だかおかしくなって肩をすくめて小さく笑う。誠史郎さんの切れ長の双眸が優しく細められた。
「誠史郎、みさきにヘンなことしてないよね!?」
「……皆さん、私への信用がありませんね」
「普段の行いのせいだろ」
裕翔くんと眞澄くんに責められている誠史郎さん。言葉こそ悲しがっているみたいだけど、表情は余裕綽々だ。
この顔をふたりが見たらさらに抗議されそう。
全くの無実ではないし。
「お待たせ」
淳くんが戻って来てくれた。鍵を開けてくれて、ようやく外に出られた。
「大丈夫か?」
「そんなに長い時間じゃなかったから大丈夫。ありがとう」
「ありがとうございます。助かりました」
「誠史郎……! どうして……」
淳くんは誠史郎さんも一緒にいたことに目を丸くする。
「嫌がらせをされただけです。おそらく島田先生が私をここへ閉じ込めたのでしょう」
「何で島田先生が誠史郎を閉じ込めるの?」
裕翔くんは腕を組んで首を傾げる。今までの私なら、多分同じ反応をしていたと思う。だけど今は違う。少しずつだけど、痴情のもつれなんかもわかるようになってきた。
「安座間先生が泣きついたのでしょうね。私が交際の申し込みを断ったことに腹を立てて、島田先生にどんなことでも構わないから西山を懲らしめてほしいと」
「それで体育倉庫に閉じ込めるって……。仮にも先生だろ? 良い大人が何やってンだか」
眞澄くんが額を押さえて大きなため息をついた。本当に眞澄くんの言う通りだと思って私も何回もうなずく。
そんなことをお願いする安座間先生も、学校の中で実行する島田先生もどうかしている。
「そう誘導した人がいるのだと思います。彼はなかなか他人を操るのがお上手です。私も危うく手のひらの上で踊らされるところでした。彼に良いようにされたふたりの教師がどんなに幼稚でも、彼らを糾弾したりしませんから安心してください。こちらが堂々としていればあちらが気まずくて避けるでしょうし」
誠史郎さん、強い。
確かに明日の朝、誠史郎さんが涼しい顔で出勤してきたらふたりの先生はうろたえるだろう。
そして誠史郎さんの言う、人を操るのが上手な彼。あの人を食ったような笑顔を思い出してしまった。伝言ゲームの始まりもあの人なのだろうか。
「それなら、みさきはどうして……?」
「クラスの子が、ここに来てって伝えてほしいって頼まれたらしいんだけど、何人も経由してて出所がわからないの。だけどもしかしたら……」
「おそらく、みさきさんは山神さんのシナリオでここへ呼ばれたのでしょう」
「ヤマガミ?」
「先日少しお話しした、私たちの見張り役の方です。ジエーネ研究所でアルバイトをしている大学生です。隣に出入りして、この学校にも潜り込んでいますよ」
みんなあっけに取られた表情になる。
「もっと早く言えよ!」
「まさかこんなに早く目的を達しようと動くとは想像してませんでした。私の見通しが甘くて申し訳ありません。続きは家で話しましょう」
とりあえずみんなで体育倉庫から移動することにした。
「どうして誠史郎はその人のこと知ってるの?」
「向こうから接触してきたからです」
「どうして誠史郎だけ?」
「私が適任だったからでしょうね」
裕翔くんは訳がわからないという表情をしている。
誠史郎の推察通りだったら、亘理さんも山神さんもどうかしていると思う。
私はまだ高校生だし、誠史郎さんは学校の先生なんだから、卒業までは目に見えては何も起きないのに。
そう、表向きは。
想像すると顔が熱くなる。
そういうことは、恋人同士で密やかに育まれていくのだから。
とっても巨大なお世話だけど、誠史郎さんとの距離がどんどん縮んでいくのは嬉しい。
前を歩く形のよい後頭部を見上げた。
淳くんがさっき体育倉庫の鍵を借りてくれた警備員さんのところへみんなで行って、私と誠史郎さんの荷物がそれぞれ教室と職員室に残っていることを伝えた。
優しそうなおじいさんは驚いていたけれど、特に何も詮索せずに鍵を開けてくれた。ありがたいことだ。もしかしたら、先に淳くんが上手いこと話してくれていたのかもしれない。
誠史郎さんは一足先に車で、残る私たちは徒歩で家まで戻った。
その間に私は決心できていた。
みんなに、ちゃんと伝える。
私は誠史郎さんと一緒に生きる道を選んだことを。
0
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
兄様達の愛が止まりません!
桜
恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。
そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。
屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。
やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。
無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。
叔父の家には二人の兄がいた。
そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
男女比バグった世界で美女チート無双〜それでも私は冒険がしたい!〜
具なっしー
恋愛
日本で暮らしていた23歳喪女だった女の子が交通事故で死んで、神様にチートを貰い、獣人の世界に転生させられた!!気づいたらそこは森の中で体は15歳くらいの女の子だった!ステータスを開いてみるとなんと白鳥兎獣人という幻の種族で、白いふわふわのウサ耳と、神秘的な白鳥の羽が生えていた。そしてなんとなんと、そこは男女比が10:1の偏った世界で、一妻多夫が普通の世界!そんな世界で、せっかく転生したんだし、旅をする!と決意した主人公は絶世の美女で…だんだん彼女を囲う男達が増えていく話。
主人公は見た目に反してめちゃくちゃ強いand地球の知識があるのでチートしまくります。
みたいなはなし
※表紙はAIです
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる