祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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誠史郎ルート 2章

禁断の果実 8

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 誠史郎さんが腕時計に視線を落とす。その姿も絵になって胸がキュンとする。ふたりきりでいるのは私の理性がもたない。誠史郎さんにたくさん触れてもらいたくなる。

 しなやかで大きな手。さっき手の甲を撫でられたことを思い出してまた身体が甘く震える。

 ドンドンと強めに体育倉庫のドアがノックされた。その音ではっと我に返る。

「みさき! いるのか!?」
「眞澄くん!」

 私は驚いてマットから飛び降り、ドアへ駆け寄った。助けに来てくれたと安心する。

「……思ったより早かったですね」

 誠史郎さんが外の眞澄くんには聞こえない小さな声でぼそりと呟いた。

「警備員さんに鍵を借りてくるよ」

 淳くんが体育倉庫の鍵を取りに行ってくれたのがわかって安堵からため息がこぼれてしまう。

「みさき、大丈夫?」

 裕翔くんは心配そうに声をかけてくれる。
 誠史郎さんがゆっくりこちらへ歩み寄ってきた。

「私も一緒にいますから、問題ありません」
「何で誠史郎が一緒にいるんだよ?」
「後でゆっくり話します」

 誠史郎さんは私に意味ありげに微笑みかける。そして私の髪を一房すくって唇を落とした。

 驚きとドキドキで変な声が出そうになった。誠史郎さんは人差し指を私の唇にちょんと添えて、口を塞ぐ。

 いたずら好きなんだから。
 何だかおかしくなって肩をすくめて小さく笑う。誠史郎さんの切れ長の双眸が優しく細められた。

「誠史郎、みさきにヘンなことしてないよね!?」
「……皆さん、私への信用がありませんね」
「普段の行いのせいだろ」

 裕翔くんと眞澄くんに責められている誠史郎さん。言葉こそ悲しがっているみたいだけど、表情は余裕綽々だ。

 この顔をふたりが見たらさらに抗議されそう。
 全くの無実ではないし。

「お待たせ」

 淳くんが戻って来てくれた。鍵を開けてくれて、ようやく外に出られた。

「大丈夫か?」
「そんなに長い時間じゃなかったから大丈夫。ありがとう」
「ありがとうございます。助かりました」
「誠史郎……! どうして……」

 淳くんは誠史郎さんも一緒にいたことに目を丸くする。

「嫌がらせをされただけです。おそらく島田先生が私をここへ閉じ込めたのでしょう」
「何で島田先生が誠史郎を閉じ込めるの?」

 裕翔くんは腕を組んで首を傾げる。今までの私なら、多分同じ反応をしていたと思う。だけど今は違う。少しずつだけど、痴情のもつれなんかもわかるようになってきた。

「安座間先生が泣きついたのでしょうね。私が交際の申し込みを断ったことに腹を立てて、島田先生にどんなことでも構わないから西山を懲らしめてほしいと」
「それで体育倉庫に閉じ込めるって……。仮にも先生だろ? 良い大人が何やってンだか」

 眞澄くんが額を押さえて大きなため息をついた。本当に眞澄くんの言う通りだと思って私も何回もうなずく。
 そんなことをお願いする安座間先生も、学校の中で実行する島田先生もどうかしている。

「そう誘導した人がいるのだと思います。彼はなかなか他人を操るのがお上手です。私も危うく手のひらの上で踊らされるところでした。彼に良いようにされたふたりの教師がどんなに幼稚でも、彼らを糾弾したりしませんから安心してください。こちらが堂々としていればあちらが気まずくて避けるでしょうし」

 誠史郎さん、強い。
 確かに明日の朝、誠史郎さんが涼しい顔で出勤してきたらふたりの先生はうろたえるだろう。

 そして誠史郎さんの言う、人を操るのが上手な彼。あの人を食ったような笑顔を思い出してしまった。伝言ゲームの始まりもあの人なのだろうか。

「それなら、みさきはどうして……?」
「クラスの子が、ここに来てって伝えてほしいって頼まれたらしいんだけど、何人も経由してて出所がわからないの。だけどもしかしたら……」

「おそらく、みさきさんは山神さんのシナリオでここへ呼ばれたのでしょう」
「ヤマガミ?」
「先日少しお話しした、私たちの見張り役の方です。ジエーネ研究所でアルバイトをしている大学生です。隣に出入りして、この学校にも潜り込んでいますよ」

 みんなあっけに取られた表情になる。

「もっと早く言えよ!」
「まさかこんなに早く目的を達しようと動くとは想像してませんでした。私の見通しが甘くて申し訳ありません。続きは家で話しましょう」

 とりあえずみんなで体育倉庫から移動することにした。

「どうして誠史郎はその人のこと知ってるの?」
「向こうから接触してきたからです」
「どうして誠史郎だけ?」
「私が適任だったからでしょうね」

 裕翔くんは訳がわからないという表情をしている。
 誠史郎の推察通りだったら、亘理さんも山神さんもどうかしていると思う。

 私はまだ高校生だし、誠史郎さんは学校の先生なんだから、卒業までは目に見えては何も起きないのに。

 そう、表向きは。

 想像すると顔が熱くなる。
 そういうことは、恋人同士で密やかに育まれていくのだから。

 とっても巨大なお世話だけど、誠史郎さんとの距離がどんどん縮んでいくのは嬉しい。

 前を歩く形のよい後頭部を見上げた。

 淳くんがさっき体育倉庫の鍵を借りてくれた警備員さんのところへみんなで行って、私と誠史郎さんの荷物がそれぞれ教室と職員室に残っていることを伝えた。

 優しそうなおじいさんは驚いていたけれど、特に何も詮索せずに鍵を開けてくれた。ありがたいことだ。もしかしたら、先に淳くんが上手いこと話してくれていたのかもしれない。

 誠史郎さんは一足先に車で、残る私たちは徒歩で家まで戻った。

 その間に私は決心できていた。

 みんなに、ちゃんと伝える。

 私は誠史郎さんと一緒に生きる道を選んだことを。
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