祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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眞澄ルート 3章

嫉妬と羨望 2

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 みんなの前でも、眞澄くんは迷うことなく私の手を握ってくれた。

 それだけで、さっきまでのモヤモヤが晴れていく。少し冷たい大きな手の優しさに安心していた。

 廊下を進み、人の少ない場所を選んで立ち止まる。校舎の端の非常階段へ続くドアの前まで来ていた。

「大丈夫か?」
「え、う、うん」

 突然心配されて、何があったのだろうと戸惑いながらうなずいた。
 眞澄くんは小さくため息をつく。

「今日さ、ハチマキをくれって何人かに言われて、彼女がいるからって断ったからみさきのとこに来た子がいたんじゃないかと思って」
「あ……」

 心当たりに思わず目が泳いでしまう。咄嗟に隠しきれなかった。

「来たんだな?」

 狼のように鋭い漆黒の瞳はごまかせない。心配をかけたくなかったけれど仕方ない。こくりとうなずいた。

「眞澄くんの彼女を知ってるか聞かれたから、私だって答えたの」

 できるだけ笑顔で話す。眞澄くんの彼女は私だと胸を張りたかった。何も後ろめたいことなんてないのだから。

「心配してくれてありがとう」
「……当たり前だろ」

 ちょっと照れて頬が赤くなった横顔が愛しい。私の口元は緩んでいた。

 締まりのない顔をしていると、眞澄くんにくしゃりと髪を撫でられる。

「もっと頼ってほしいぐらいだよ」

 今度は頼りがいのある優しい笑顔。抱きつきたい衝動に駆られたけれど、他人の目があるからがまんする。

「ありがと」
「何か嫌なこと言われたりしなかったか?」

「……ずるいって言われた」

 肩をすくめて苦笑いする。

「そっか……」

 沈黙がやってくる。お互い、次の言葉を探していた。

 私たちは気持ちが通じ合ったけれど、私も淳くんや裕翔くん、誠史郎さん、透さんの気持ちには応えられなかった。

 眞澄くんはとてもモテるから、たくさんの女の子が彼を想って泣くのだろう。
 彼女もきっとその一人だ。

 好きな人に好きになってもらえることの難しさ。
 私が眞澄くんとこうしていられるのは、本当に奇跡なんだと思う。

「もし他に何か起こったら、すぐ教えてくれよ」

 眞澄くんの言葉に力強くうなずく。何も恐れることはない。間違ったことなんてしていない。

 そして迷惑かもしれないと黙っている方が、眞澄くんに負担をかけてしまうのだと気づかされた。

「うん。ちゃんと話す。約束」

 どうしても眞澄くんに触れたくて、すっと小指を立てた。眞澄くんは優しく小指を絡ませてくれる。指切りをして、名残惜しいけれどそれぞれ教室に戻った。

 教室に入ると、すぐに咲良が近づいてきた。
 何だか妙に嬉しそうだ。

「すごいねー。みさきのピンチにちゃんと駆けつけてくれるなんて」
「……うん」

 眞澄くんを誉めてもらって、素直に嬉しかった。

「みさきが恋する乙女だ……」

 咲良が呆然と呟く。

「恋してるから」

 こうして正直に話せる友達がいることも、とてもありがたいと感じた。



 ††††††††



 夜の帳が降りた時間、理沙子は目を覚ました。耐え難い苦痛と共に。

 自分だけは、耐えられると思っていた。欲望のままに動く大島を軽蔑していた。

 実際、理沙子はこれまで精神力でねじ伏せてきたのだ。
 抗いがたい魔物の本性を。

 しかし吸血種となりながら、妖術師として悪魔を召喚した反動が今になって現れていた。

 武藤眞澄を被検体として手に入れるために卑怯な手を使いたくないと言う思いと、これまで何も進展しなかったのだから手段を選んでいられないと言う気持ち。日に日に後者が勝って来ていた。

 何の苦労もなく白の眷属へ変貌した武藤眞澄が恨めしい。
 ギリッと音が鳴るほど強く奥歯を噛み締める。

 完全な死の恐怖を味わうことなく、のうのうと人間のように生きている。

 負の感情が強くなり、心が黒いものに包まれようとしていたことに気づく。

 頭を冷やすため顔を洗おうと洗面台の前に立ち、蛇口をひねる。

 流れ出た水に手を差し出した。これを冷たいと感じられるのに、喉の渇きは癒されない。

 空腹のせいで苛ついているのかもしれない。冷蔵庫に入った血液を口にすることを考えると憂鬱になった。

 だが腹を満たす手段は今のところそれしかない。人間を襲うことは理沙子の自尊心が許さなかった。

『私が力を貸して差し上げましょうか?』

 くすくすと笑う女の声。水を介して聞こえてくる。

『同じ、人間から魔性になった身ですもの』

 ここからそう遠くない場所で、丑の刻参りを行った者がいるらしい。この時代に珍しい。それに応じて遥々宇治から現れる彼女も、相当暇をもて余していたようだ。

『あなたが羨む男と、あの娘の求める男は同じ人物のようだから』

 愛らしい女の声を聞きながら、理沙子は薄く嗤った。

 つくづく武藤眞澄は厄介な女に好かれる体質のようだ。

『私とあなたが協力すれば、楽に手に入ると思わない?』

 確かに彼女は理沙子の勘違いでなければ、安倍晴明が退散させたものの、完全に消滅させられなかった妖怪だ。そんな大物が力を貸してくれると言う。こんな機会はもう二度と訪れないかもしれない。

 逆に言えば彼女は今、理沙子の力を借りなければ動けないのだろう。
 寝首を掻かれる不安はある。だが、彼女の呪いのかわし方はわかっている。

「……わかったわ」
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