祓い屋の家の娘はイケメンたちに愛されています

うづきなな

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眞澄ルート 3章

嫉妬と羨望 3

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 お祖父ちゃんが夢の中に現れた。
 若いときの姿はやっぱり淳くんにどこか似ている。

「お祖父ちゃん、どうしたの?」
「みさき、蛇に気をつけなさい」
「蛇?」

 訳がわからなくて私は首を傾げる。

「眞澄が危ない」

 大島先生はあきらめてくれたと思ったら、今度は蛇。眞澄くんは厄介なものに狙われやすいのかもしれない。

「蛇が眞澄くんを狙っているの?」
「眞澄を好いている娘が蛇を呼び起こしたみたいだ。彼女も近頃は暇をもて余していたようだから、宇治から遥々やって来たらしい」

 宇治からやって来た蛇。私の記憶に間違いなければ、それはとても有名な妖怪だ。

 上半身はとても美しいお姫様。下半身は蛇。愛する男性に自分の気持ちに応えてもらえず、嫉妬に狂って人間から妖怪になった橋姫はしひめ

 安倍晴明ですら完全に消滅させることはできなかったらしい。

「どうしてそんな強力な妖怪が……」
「おもしろいと思ったのだろうね。丑の刻参りなんて、最近する人はいないだろうから。それから、もしかしたら眞澄の名前ぐらいは耳に入ってたのかもしれない」

 眞澄くんは人間から吸血種になって、さらに白の眷属になったかなり特殊な存在。何かの拍子に橋姫の耳に入っていて、そんな眞澄くんを呪おうとしている人がいたからおもしろがって出てきたのかもしれない。

 この家の中にいれば眞澄くんは安全だと思うけれど、それでは日常生活に支障をきたす。

「どうしたら祓えるの?」
しろの用意をしてほしい。できればみさきに」
「私?」

 魔道具の類いは誠史郎さんに作ってもらったり、外注することがほとんどだから私は作成経験がない。

「多分、誰よりも強力な依り代を作れると思うから。作り方は誠史郎や真壁さんに教えてもらうと良い」

 私はこくりとうなずく。お祖父ちゃんはふわりと微笑んでくれた。

 誠史郎さんと透さんなら、きっと丁寧に教えてくれる。何より眞澄くんのためだ。私の作ったもので眞澄くんを守れるなら、こんなに嬉しいことはない。

「蛇はここでは強大な力を存分に発揮できないから、仲間を作ったようだ。彼女にも気をつけなさい」
「彼女……?」

 大島先生かとギクリとする。だけど大島先生は、これ以上私たちに手出しすると消滅してしまう。

「人間から吸血種になって、白の眷属になりたがっている女性だ」
「雪村さん……」

 以前会った時は、人間としての意志が強いように見えていたから驚いた。

 もともと眞澄くんの身柄を欲しがっていたし、翡翠くんのこともある。いずれは戦わないといけない相手だった。

 私は固く唇を結んで拳を握る。

「お祖父ちゃん、いろいろありがとう。眞澄くんは、絶対守るから」

 お祖父ちゃんは優しく微笑んでうなずいてくれた。

 ゆっくりと私の意識が遠くなる。
 パチリと目が開く。いつものベッドの上。いつも通り足元で寝ているみやびちゃん。

 カーテンの隙間からから朝日が射し込んでいた。時計を見る。普段より三十分早く目覚めた。

 身支度を整えて、一階へ。洗面所で顔を洗って気合いを入れてからリビングダイニングへ移動した。

「おはようございます」

 もう誠史郎さんと淳くんは起きていた。ふたりともキッチンで何かしている。

「おはよう」
「おはようございます」

 誠史郎さんがカップに紅茶を注ぐ小気味良い音と、安心する華やかな香りが広がる。

 淳くんは朝ごはんの用意をしてくれていた。ベーコンと目玉焼き、サラダとトーストがひとつのお皿の上にきれいに並んでいる。それが人数的用意されていた。

「誠史郎さん、橋姫を退散させる依り代の作り方を教えてください」
「橋姫……ですか」

 誠史郎さんが珍しく驚いた様子を見せる。淳くんも琥珀色の目を丸くしていた。

「お祖父ちゃんが夢の中で教えてくれたんです。雪村さんが橋姫と手を組んで、眞澄くんを狙うって」
「マジかよ……」

 声のした方へ振り返る。頭が痛いと言うように額を押さえた眞澄くんと、ニヤニヤしながら眞澄くんを見る透さんがダイニングテーブルの側に立っていた。

 眞澄くんは制服で、透さんはスウェット姿だ。

「橋姫とか、めんどくさい女日本代表みたいなモンまで引きずり出すなんて、眞澄クンの女運の悪さは筋金入りやなー」

 眞澄くんをからかう透さんの言葉がぐさりと私に刺さる。だけど今はショックを受けている場合じゃない。

「みさきさんに依り代を作るように周が伝えたのは、みさきさんのかんなぎ気質なところもあるのでしょうね」
「みさきちゃん、依り代作れんの?」

「作ったことがないので、誠史郎さんに教えてもらおうと思って今お願いしたんです」
「俺が教えたるで」

 いたずらっ子みたいな笑顔でこちらへ歩み寄ろうとした透さん。その正面で通せんぼするように眞澄くんが立ちふさがる。

「俺も一緒に教えてもらおうかな」
「みさきちゃんが指名されてるんやろ」

 額を付き合わせて威嚇し合うふたり。
 仲良しなのかそうじゃないのか難しいけれど、以前ほどハラハラしないで見られるようになった。

「朝ごはんの用意はできてますから、とりあえず食べましょう」

 穏やかな淳くんの声と微笑みによる提案で、眞澄くんと透さんは休戦する。

「眞澄くんは今日は念のために学校は休みますか?」
「いや、行く」

 眞澄くんの双眸に、負けたくないと言う意志を感じ取る。
 少しでもその気持ちの力になりたいと思った。
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